第59話【女奴隷はなぜ女奴隷などやっているのか?】
エリタスとその専属メイドルゥンがふたりで話し込んでいる頃、コチラの方もまだ話し込んでいた。
「持ってる金を全部使って女奴隷を買えるだけ買おうって僕に勧めたのはラムネさんだからっ」
ルディアさんの顔から第一印象の表情がみるみる消えていく。その顔で解った。
さてはラムネさん、元女奴隷の皆さんに〝そのこと〟言ってなかったのか。言っていたらみんなに恩を着せられて二十四人の中で絶対的優位なポジションに立てたのに。それをしないのが『聖女』の聖女たるゆえんか——
「じゃあ、いまわたしがここにいられるのは、あなたのおかげなの……?」と半ば呆然とした表情で言ったはルディアさん。
「いえ、わたしのしたことなんて〝きっかけ〟に過ぎません。正直先のことなんてあまり考えてませんでした。いまわたしたちがこうしていられるのはロクヘータさんがエリタスお嬢さまに気に入られるよう、努力してくれているからです」
さすがはラムネさん——、僕をここまで立ててくれる——
「すみません、ごめんなさい。でもラムネのおかげでもあるから、」とルディアさん。
「いいの、いいですから。わたしも少し世の中が解ってないところがあって。でもあなたの言ったことも当たっている。結局は〝運〟って」
声も出さずにルディアさんが僅かにうなづく。それにうなづき返すラムネさん。
「誰に買われるかで決まってしまうんですよね。奴隷商館は買い手の能力値しか見ないし、人格まで保証してくれるわけじゃないから」
「ありがとう、ありがとうっ」そう言ってルディアさんはラムネさんの手を両手でギュッと握る。
感動っぽいシチュだけど、また僕が置き去りになってるね。しかし置いて行かれたままでいるわけにはいかない。どうしても知っておきたいことがあるから。
普通、『奴隷になろう』なんて自分から進んでやろうとしない。本人の意志とは無関係に勝手に支配者から奴隷にされ、そうして商品として売られる、それが奴隷というものだ。ましてそれが〝女〟、買ったのが〝男〟なら〝使い方〟なんて決まり切っている。
ルディアさんは『女奴隷なんてやってる意味がない』とまで言い切った。これって自分の意志でやってるってことだ。その続きを聞こうとしたらルディアさんがラムネさんに絡んでいくから現状この僕は〝事情の盲目状態〟。
「ちょお〜っといいかな、」とふたりに声をかける。
「はい」とラムネさん。ルディアさんもこちらを向く。だがここはラムネさんに訊いてもしょうがない。訊くのはルディアさんだ。
「ルディアさんはどうして『女奴隷』なんてやろうと思ったの?」
ルディアさんは僅かに顔を曇らせた。そして言った。
「わたしの口から言ってしまうと、わたしの〝印象〟、下がっちゃいますね、ただでさえこのアザなのに」自然と、なのだろうか頬に手を当てている。
しかしそう言いながらもチラとラムネさんの方へ視線を送るルディアさん、
「でもラムネに訊いてもしょうがないんでしょう。解りましたご主人さま、わたしの口から『女奴隷』の事情をお話しいたします」そう言うとルディアさんは短いスカートの裾を両手でつまみお辞儀をした。いつもの定型の動作。
「わたしは最下層から抜け出したい。女奴隷になれば奴隷商館が高い能力値を持つ冒険者と女奴隷を結びつけてくれる。冒険者が女奴隷に求めるのは〝行為〟。そうして女奴隷が冒険者の子を孕み、その冒険者が活躍し貴族社会で認められるようになったならその冒険者には貴族の地位が与えられる。そして貴族に必要なのは後継者。女奴隷の生んだ子は貴族の後継者になる。その母はもう女奴隷ではなくなるし最下層どころか一気に最上層になる」
「……」なんか、『婚活』ってのに似てないか? 医者限定婚活とか。Fラン大卒ではまず関わりそうもっていうかカスリもしない話しっていうか……
「でも、そんなに上手くいくものなの?」いったい条件がいくつ必要かって話しで、現にラムネさんは不幸になっていた。
「『でも』って返させていただきますが可能性はあるんです。可能性があることが大事なんです現にこの——」まででルディアさんのお話しは急に止まってしまった。「——ではご理解いただけたようなのでこの辺で、」と慌てたようにお話しが強制終了モードとなるルディアさん。
「ちょっと、もう少し続けて! それはみんなも同じなのっ⁉」
中途半端に話しを終わらせてしまうのはまずいと思ってくれたのかどうか、
「——それは間違いなく同じです。そう言い切って差しつかえないと思います」と回答が戻ってきた。
一瞬だけ垣間見えた〝狼狽〟のようなものはもう消えているような声の調子。あれはいったい何だったんだ?
「でも奴隷商館が能力だけを基準に〝男〟を決めるなら性格が二の次になるのは当たり前じゃないか。それなら誰かに決められるんじゃなくて、自分である程度は〝男〟を選べるんじゃないの? みんな美少女だし、あっ、もちろんルディアさんもだけど」
「いちおうわたしの名前も挙げていただいてありがとうございます、ご主人さま」
「……」
「——わたしはともかく他のコたちは選べますけど、その中から選んでいると最下層のままなんです。奴隷商館にいるコたちの財産は〝その顔〟なんです。その財産が財産であるうちにそれを使って少しでも幸せに近づく夢を見たいんです、みんな」
つまり、『美少女であるうちが花』というわけか……、あまりにあまりな世の中の真実をここまであけすけに口にするとは。元の世界のフェミ(フェミニスト)どもが聞いたなら逆上必至。これが異世界感覚というものか。
しかしだ、フェミはこの際僕に無関係としてこれって男の視点ではどうなんだ?
出世しそうな男、偉くなりそうな男、そうした男の子どもを産みたいってのは。
ここに『真実の愛』なんてもんがあるのか? 口に出すと恥ずかしいから決して言わないけど、男としては心が濁るぞ。
そしてもう一つ分かったこと。『安全日だからシよう』とかいう感覚、無いぞこの世界! 逆に『危険日だからシたい』っていう。
「あの、ルディアさん、」
「はい」
「最後にひとつだけいいかな? その割りに僕は元女奴隷の皆さんから〝迫られていない〟ような気がするんだけど……」
〝迫られる〟とは性的関係を持つよう迫られるという意味以外には無い!
ルディアさんは明らかに困ったような顔をしている。しかしそれでもその顔をじっと見つめたままでいると、ようやくといった感じで喋り出し始める——
「——わたしたちの人数が多すぎるということもあって〝互いの目を気にしてる〟と解釈するのが穏便なんですが、ご主人さまは〝そういう回答〟を求めていないのですよね?」
おおっ、頭の回転が速い。正にその通りだ。
「そうっ!」
「こう言ってはなんですが、ご主人さまがご出世なさるかどうか微妙なんです」
「いちおう『無双転生者』なんだけど、」と素朴な疑問をぶつけてみる。無双転生者は美少女にモテモテ、のはずだろう。それが王道ってもんだ。
「だけど、いまご主人さまが仕えている相手は貴族家で、王家の直臣じゃないですよね。貴族家に仕え続けている限り貴族の家の使用人なんです。これじゃあいくら〝無双〟でもこの先が見えてしまっているというのか、」
「……」
「——かといってここでご主人さまに見切りをつけて出て行ってしまったらここへは二度と戻れないこともみんな解っていますから。もし出て行ってその後気が変わって戻ろうとしても、たとえご主人さまが許したとしても、残ったコたちが出て行ったコを受け入れるわけないんですから」
うわぁ、女子グループ……
「——それに〝あのお嬢さま〟のご機嫌を、この先もご主人さまがとり続けられるのかもどうかも分からない。なら『いまはまだ判断は早すぎる』ってのがわたしたち二十四人、いやラムネはどうか分からないから二十三人か、二十三人の暗黙の意志のようになっています。だいたいこういうのが『ここだけのお話し』の中身です」
ルディアさんのお話しはこうして〝真の結論〟へと行き着いた。
「ありがとう(棒)」と機械的な返事が口から出た。
女の子たちにモテモテになるという現象の正体はこういうことなのだな。これは現実世界では得がたい体験だ。おかげで僕は現実世界に戻ったとしてもやって行けそうだよ、モテなくても。戻る算段は無いが。
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