第55話【わたし、言っちゃっていいのかな?】
夕刻が近づきつつある頃、エリタスサマ、ルゥンさんと別れラムネさんといっしょに住み処としている美術品収納庫へと帰宅途中。
一日。結局僅か一日で〝成果〟を出してしまったぜぃ!
あのルゥンさんのお墨付きだ。難題だとしか思えなかったあの〝1センチ手前〟の課題を何度も何度でもそのまた何度でも再現して見せた。再現し尽くした。でもルゥンさん、なぜか複雑そうだったけど。
しかしつくづく〝僕という人間〟は、本当に、この世界では無双なのだな。そう改めて思う。隣を歩くラムネさんが誉めてくれないかな〜、とさりげなく期待しているが、どこか元気無い。
う〜ん……、そうだっ。
「ラムネさん、今日はヒントありがとね」
〝ヒント〟とは水魔法で集めた水を霧にして拡散するという、あの事。あれでようやく具体的にイメージがつかめた。
ヤッパ、感謝の気持ちを率直に伝える、これに勝るものはないっしょ。
しかしラムネさんはかろうじて僅かの笑みを浮かべただけで、
「少しはお役に立てたなら嬉しいです」と型にはまったような返事をしてくれただけ。
どうも心底から嬉しそうじゃない。なぜ僕のいいところを誉めてくれないのか? 無双能力自体はなんの努力も伴わず手に入ってしまった能力だが、そこを敢えて力を抑えるというのは努力の結果だというのに。たった一日での達成だけど。〝僅か一日〟というのが傍から見て苦労を感じさせない原因なのか?
謎の沈黙がなお続いている。
「どうしたの? 体調でも悪いとか?」と訊いてみる。ふと頭をもたげ始めてる僅かな不安。
直接誰かから教わったとは言えない。が、なんとなく〝知っているだけの知識〟というものがある。女の人が妊娠すると(ま、男は妊娠しようがないけど)、『つわり』なるものが来る、という。
まさか、ラムネさんそれじゃあ——と不安が頭をよぎりつつのそのタイミングで、
「体調は別に普段通りですよ、ただちょっと気分が、」と、割とあっさりとした声色のお返事。しかし語尾は濁している————
「でも気分がすぐれないってのも〝体調が悪い〟の一種じゃあ……」
「ご心配ありがとうございます。だけど不平不満を口に出してしまうというのも……」
不平? 不満?
不安じゃなくて?
「えーと、それはどういうことかな?」
「いえ、いいんです、わたしのことは」
「いや、よくない。だってラムネさんなんだから」
「あ……」と口にしたきり足を止めてしまったラムネさん。顔をこちらに向け、なぜか僕たち〝見つめ合ってる〟状態に。
「ラムネさん?」
「ロクヘータさん、わたし、言っちゃっていいのかな?」
「何でも言ってみて!」
「あの、これはここだけのお話しにして欲しいんですど、大丈夫ですよね? 他の人に黙っていてくれますよね?」
「むろんのもちろん!」
「ロクヘータさんがたった一日で技を使えるようになってしまったってことは、明日からもうエリタスお嬢さまと貴族の学校に行ってしまうのですよね?」
「頼まれちゃったからね」
「なんだかロクヘータさんが遠くへ行ってしまうような気がして……こうやって話せる機会も無くなってしまうのかなって……」
と、その瞬間だった。
「じゃあ自分から進んで『行ってくる』って言ったのはそれなんだ」と斜め後ろからの声。
振り向けばそこにはルディアさん。バケツのような形をした桶の取っ手を両手を使って下げている。その顔のあざのせいで真っ先に名前を覚えてしまった元女奴隷のコ。
「あの、〝ここだけのお話し〟っていう話し、わたしはどうしたらいいですか?」ルディアさんはそう訊いてきた。
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