第54話【1センチ手前で】
ひえええっっ!
でも当たらない、当たらない。回転しながら飛んできた薪は僕に当たる1メートルほど手前で、まるで網に引っかかるように空中に浮いたまま止まり直後地面へボトリ。
〝1メートル〟は正直まったく意識してなかった。悪く言えば〝反応が遅れた〟、良く言えば〝ここまで引きつけられた〟。どちらにとるにせよ頭で考えること無しに反応できてしまった。
いったん頭の中でイメージできたことはもう身体が覚えてしまっているらしい。やるじゃないか! 自分‼
「すごい、すごいですロクヘータさん」とラムネさん。
どうよ!どうよ! と心の中だけでドヤ顔。一方で、
「うそ、」と、〝こうなる反応〟はエリタスサマ。実は『どうせたいしたことない』と、そう思っていたろ! しかし敢えて腹は立てるまい。何しろ僕本人だって実のところは『嘘?』なんだからな。
なのにルゥンさんからはまだダメ出し。
「もうちょっと身体の近くで止められませんか? その間合いに入り込まれて攻撃されたら終わりですよ」
「……」
1メートルよ、1メートル。最初の3メートルの3分の1よ。
まさか10センチ、いや、5センチくらい手前で止めろってこと?
「あの。ルゥンさん、ちょっといいでしょうか?」と、おそるおそる手を上げる。
「時間がもったいないので質問は手短にお願いします」
なんか怒ってない?
「敵に入り込まれない間合いというのはこれくらいですか?」と言って両手の平を開き30センチほどの〝間隔〟を視覚的に示してみせた。一番最初に頭の中に思い描いた〝10センチ〟よりはだいぶ甘い。
「お話しになりませんね、これくらいにならないと」とルゥンさんが示したのは片手の親指と人差し指で作った隙間。その幅〝1センチ〟ほどしかなかった。
まじかー⁈ そんなことできるのっ⁉ とは思っただけで声に出す勇気も無い。これでさらに特訓続行は確定的となってしまう。
僕を目がけて飛んでくる薪を止めてまた飛んでくる薪を止めて、ひたすら同じことの反復練習が始まる。しかし意識すると却って1メートルより悪くなる。1.5メートルくらいか? そんなケースもあった。
ようやく、「いったん休みましょう」とルゥンさんの許可が出た。ルゥンさん、まったく平然とした顔をしている。あれだけ薪をブン投げているのに。鉄砲肩ならぬ大砲肩だよ。
地べたに座り込む。身体を動かすのをやめたら突然ふと〝違和感〟を感じた。
僕の異能はなぜかミラーレス一眼的、つまりカメラ的。そこで『広角レンズ』を使い絞り込んだパンフォーカスの画をイメージしたら、薪の形そのままに地面にはたき落とせた。
しかし『1メートル』。どんなに絞り値を大きくしようと1メートルから無限遠までパンフォーカスになるか?
やったこと無いけど1メートルは近すぎるんじゃないか? どう考えてもならないだろ。つまりこの異能はミラーレス一眼的でも、ミラーレス一眼そのものじゃないってことだ。
となれば、理屈の上でははたき落とせる距離はもっと短縮できるはず——
息も切れ切れそんなことを考えていたこの僕の耳に、
「なんだかたいへんそうですね、」とラムネさんの声が。
「あなたはいつまでいるの?」と今度はエリタスサマの声。ラムネさんに言ってるようだ。
「終わるまで、でしょうか」とラムネさん。
「なにそれ、ならわたしが帰るに帰れないじゃない」と苦情タラタラのエリタスサマ。「いつ終わるの?」と今度はルゥンさんへとその矛先が向かう。
しかしルゥンさん、僕と同じく〝雇われの身〟でありながら一切の遠慮が無い。
「わたしの言ったことができるまでです」とあっさり〝ご主人様〟に言い返した。
これはつまり、僕を解放してくれる他者は無く、僕を解放できるのは僕だけということだー(棒)。
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