第53話【極意?】
「そう言わずにわたしにもなにか協力させてください。したいんです」と引き下がる気をまったく見せないラムネさん。
「仕方ありませんね、」とルゥンさん。「では、」と前置きし、
「——頭の中に風に吹かれたレースのカーテンを思い浮かべてください。それが目の前にかかっていて、カーテン越しに——」
誰が相手でも説明が同じになるんだな——
僕が何度聞いたか分からない、同時に何度聞いても解らないルゥンさんの〝話し〟を全て聞き終わるや、
「なんとなく解りました」とラムネさん。
「〝なんとなく〟、ね」と甚だ懐疑的そうなルゥンさん。しかしそんな態度を気にする様子も無くラムネさんはなぜだか僕の目の前に立った。
「じゃあいきますね、ロクヘータさん」
え? なんかすんの? ラムネさんは早くも右手を開き手の平を上へ。
「水魔法、」とラムネさんが口にするや辺りの草々から水の細かな粒がラムネさんの手の平に集まり始める。
「ちょっと待ってくださいね、森の中じゃないので大きくなるまで少しかかります」
ラムネさんの言うとおり、しばらくしてようやく森の中で見たのと同程度な〝水の球〟がその手の平の上でふわふわと。そして、
「きりっ!」というラムネさんの声とともにパッと消える〝水の球〟。顔に感じる僅かの涼感、同時にラムネさんの輪郭がもやっと霞がかる。
「これは?」と訊くと、
「集めた水を霧にしたんです」と戻ってきた。
なるほど。広く散らばらせるってことか。距離を犠牲にして拡散。そうか、レースのカーテンは向こう側が見えるくらい目は粗いけど一応〝面〟になっている。それが風に吹かれれば——
攻撃者は狙い澄ましては当てられない? そういうことなのか?
しかし僕のミラーレス一眼的なAF能力をどう使えばいいんだ? 〝広く散らばらせる〟をどう解釈するか。全てにピンが来ている(ピントが合っている)写真など——
待てよ、『広角レンズ』か。本来〝鉄道写真〟ではあまり使わないレンズ。でも〝スナップショット〟を撮るなら広角の方がメインだ。或る程度以上に絞り込んで被写界深度を深くする。後はレンズの鏡胴に刻まれている被写界深度目盛を読み取ってフォーカスリングを調整。ファインダーで見て確認する必要も無い。対象までの自分の距離感覚が極端に狂ってなければ近景から遠景から全てにピンの合った写真が撮れているというわけだ。
よし! この感覚でやってみよう。
まず心の内でAFからMFへと切り替える。絞りは、そう、F11くらいまで絞っているイメージで。〝心の中の距離計目盛り〟はまずだいたい3メートルで。そうして目標の〝飛んでくる薪〟という点ではなく〝薪〟を含む周りの風景全般を見ているようなとらえ方で。
「もしかしたら行けるかもしれません」僕はそう口にした。
「もう、ですか?」とルゥンさん。しかしそれ以上ことばをつなぐことも無く荷車に積んである薪の方へすたすたと歩いて行き一本薪を手に取る。エリタスサマとラムネさんに現場から一定の距離をとり離れるよう促し、事前準備が完了すると、
「じゃあ行きますよ」とルゥンさんから声がかかった。たったいま薪が投擲された。相変わらず誘導弾のような正確性で回転しながら僕の方へ向かって飛んでくる薪。グッとシャッターボタンを押し込むイメージで、写真にはならないが連写開始っ!
薪はそのままの形で地面にぼとりと落ちた。その距離僕の手前3メートル。
薪は木っ端微塵にはならなかった。
ルゥンさんはしばし呆然とした表情をしながら、僅かのタイムラグの後で「お見事です……」とそう口にしてくれた。
「さすがはロクヘータさんっ」とラムネさん。
しかし横やりも入ってくる。
「自然に手前に落ちたんじゃないの?」とエリタスサマ。
このド素人が! と言いたいところだが自分でもまるでピンと来ていない。自分がやったことなのに。
「ではこうしましょう、」とルゥンさんが何事か思いついたよう。
なんか、ヤナ予感を感じる。ルゥンさんはまたも荷車に積んである薪を一本だけ手に取ると、
「いまやったことに再現性があるかどうか。同じことができたなら間違いなく技を会得したと言えます」
再現性……
「それ、何回くらいできたらいいんでしょう?」
「わたしが納得できるまで。では投げますね」
同意の返事をする前にもう投擲体勢に入っている。
いったい何回薪を投げつけられるんだ⁉ と思っている傍から既に薪は空中でくるくる回りながら僕に向かって飛んで——
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