第51話【とっくに『秘密』は共有されていた】
しかし、
「あなたにできることなんて無いでしょ」とエリタスサマからラムネさんへのにべもないお言葉。
しかししかしラムネさん、めげない。
「それに『ロクヘータさんがいま何をしているか、みんなに様子を伝える』と言ってここに来ているので」
いや、もしかして〝嫌みを言われている〟という感覚が鈍すぎるのか?
「防御術の研鑽です」とルゥンさんの方が答えてくれた。
「そういうことだから、早く帰って伝えなさい」とエリタスサマも続く。
この二人、あうんの呼吸だな。
「それは『守る』という意味ですよね? ロクヘータさんは無双ですから研鑽なんて積まなくても防御術も完璧です」
それを聞き露骨に怪訝そうな顔をしたルゥンさん、
「ロクヘータさんはエリタスお嬢様の護衛をする事になっています」と言った。
「はい。解ってます」とラムネさん。
「ご活躍の舞台は森の中ではありません。魔物が相手ではないのですよ」
「魔物じゃなくてもだいじょうぶです」
「だとするとロクヘータさんはできるのにわざとやらない、ということになるんですが」
「そんなことはありません! 現にわたしを助けてくれたんですから!」
えっ? え? ちょっとっ! ちょっちょちっと待って! ここには——
「迂闊ね、」とエリタスサマ。
ここでようやく自身の〝大失言〟に気づいたラムネさん。
「わわ、悪いのは全てわたしです! ロクヘータさんはなにも悪いことはしてません!」ラムネさんなりの必死のフォロー。
しかし僕の視線がエリタスサマへ——そしてそこで固定のまま。『迂闊』なんてことば、事情を知っていなければ出てこないことばだぞ。
ま、さか……、この女、あのこと、知ってるぞ、完全に。こいつはもう、気のせいなんかじゃない。
しかし〝じっ〟と視てるとその視線には感づかれるもの。
「なにわたしを視てるの?」と言われてしまう。さっきの昼食の時とはまるで違う。
「いや、べつに、」
つかつかとエリタスサマが距離を詰めてくる。
「視線の質が違うのって解るのよね、カワイイとかキレイとか、そういう感じで視てなかったよね?」
「それは…、『やらしい目つきで見ていない』っていう〝解釈〟が欲しいところだけど、」
「目の中に〝恐怖の色〟を感じたんだけど、むしろそっちが不快なのよね」
「気のせいじゃないかな?」
エリタスサマは唇を僕の耳に近づける。
「気になってるのは森の中でやったことでしょ?」
背筋も心臓も凍った。ルゥンさんの時を遥かに超えるくらい。
「い、いえ、それは……」
なにも返事ができないうちにエリタスサマの唇が離れていく。
「エリタスお嬢様、〝迂闊〟はどちらです?」と突然苦言のルゥンさん。顔を見れば表情が厳しい。
「このラムネってコは〝天然〟だけど、わたしは計算してやってる。これは〝こい〟よ」
「え?」と思わず声が出た。『これは恋よ』に一瞬聞こえた。
「はあっ⁈」とエリタスサマの裏返ったような声。もうこの時には一瞬の勘違いは解消している。
「『わざと』という意味の方の『故意』ですよね?」
「あっ、あったり前でしょ。この中でわたしだけ知ってて知らないフリし続けるなんて嫌なのっ」
やっぱりなのか——
「エリタスサマは怖くはないんですか?」
隣に〝殺人犯人〟は怖いはずだろう。
「いまさらそんなコト、わたしが気にするとでも思ってる? わたしの護衛を依頼してるってのに」
これ、『護衛をしなかったらどうなるか?』って脅されてるようにしか感じられない!
コイツには〝悪役令嬢〟の素養が備わってる!
ここで一転エリタスサマはラムネさんの顔を一瞥。
「その脅えたような表情は少しイイわね」などと口走った。
「ひっっ」とその期待通り(?)、心底脅えたような声で反応してしまうラムネさん。ニヤリ顔のエリタスサマ。
「でも安心しなさい。あなたの〝失言〟以前にわたしはもう知っていたから」
「え? そんなはずは……」
「ウチのルゥンを舐めてもらっては困るわね」
「ルゥンさん?……」
「そう。ルゥンにロクヘータの監視を頼んでたの。異世界から一人人間を転生させ無双にするって話しを聞いたのにいつまで経っても無双転生者が現れないからつい興味を持っちゃって」
一年森の中でのんべんだらりと暮らしていたのが完全に仇になっている。とっとと街へ行っていれば金をあれほど貯め込むことも無く、強盗に狙われることも無く、よって元女奴隷の皆さんをラムネさんの他二十三人も買えず、ギルドに睨まれることも無かった……
しかしもう今さら後の祭り……
「もうみんなに知られているのか……」
「みんなじゃない。ここにいる三人だけね、あっロクヘータを入れたら知ってるのは四人か」とエリタスサマ。
「もしこれ以上知られてしまったら……」
「だいじょうぶよ。フォーエンツオラン家でもみ消してあげるから」
悪役だ。この令嬢、完璧に悪役過ぎる。
「だからこれはここにいる四人だけの秘密。わたしも〝秘密〟に参加してみたかったの♪」
「……」
「エリタスお嬢様、」と渋い表情を浮かべひと言だけ苦言のルゥンさん。
しかしその程度の苦言がエリタスサマに応えるはずもなく、再びラムネさんへ、
「そういうわけで女奴隷のラムネさん、あなたを守った時のように同じコトをやられると教室が血の海になるわけ。もうこれで〝なぜ訓練が必要か〟解ったでしょ?」
なぜか勝ち誇ったような顔をしているエリタスサマ。
続きは『カクヨム』で連載中です。
お急ぎの方は『無双転生者と24人の女奴隷たち。そこへ悪役令嬢が突っ込んだ!』で検索してみて下さい!




