第44話【コーチング】
「なによそ——」とあからさまに不機嫌そうにエリタスサマが口を開くや、
「エリタスお嬢様、お話しがたいへん盛り上がっているところ失礼しますが、このロクヘータさんを明日から護衛に使うのは無理です」メイド姿のお姉さんがその言を中途で遮断。
「なに? ルゥン」とメイド風の専属護衛官を睨みつけるエリタスサマ。
「早くもロクヘータさんが学校へ入った後の話しになっていますが、ロクヘータさんが今の段階で真面目に護衛をしてしまった場合、学校の中で誰かが死体になってしまうとか、そういう事態も考えられます」
おおっ、なんということ! さすがはお姉さん! 頼りになる! 僕の不安をこれ以上ないくらいに代弁してくれた! でも『死体』はズバリ過ぎるんだけどね……
「…………言われてみれば、そうね……」と、これには納得するしかなくエリタスサマのご機嫌も回復の方向へ。
「学校の中で本気で無双されても困りますし、何かがあった時この家の責任にされてしまいます」とメイド姿のお姉さん。
「ただでさえ評判悪いのにこれ以上は困るわね……」
ありがたい。ここまでだめ押ししてくれるなんて。どうかこの話しよ流れてくれ——。
「力を抑えながら無双する術を、まず学んでいただかないと」
「えぇっ⁈」思わず口から飛び出した。
「なにそのリアクション?」「いただけませんね、その反応は」とふたりからほぼ同時に責め立てられる。なぜ僕が?
「その、それを学ぶためにまずどこかの学校へ行ったりして……?」と妙な反応で返してしまう。なんだかぞわぞわするような居心地の悪さを感じる。
「そんな学校はありません。わたしが教えますのでわたしから学んでください」メイド姿のお姉さんからそう言い渡されてしまう。だがすぐさまそれにエリタスサマが異議を唱え始めた。
「なんであなた達ふたりが仲良く教え・教わりするわけ?」
「私は〝仲良く〟などとはひと言も言ってはおりません。しばらくの間ロクヘータさんと一緒にいるだけですから」
「その〝一緒にいる〟ってのが引っかかるのよ。なんかこう、いらいらするというか、解るでしょ?」
「よく解りませんが、では〝エリタスお嬢様もご一緒に〟ということでしょうか?」
「そう! それそれっ」
「見学されたところでエリタスお嬢様には到底真似などできませんが」
「解るわよ、それくらい」
「だいいち、学校はどうなさるのです? ロクヘータさんが使いものになるまで何日かかるのか分かりませんが」
「その間はズル休み」
「ご両親が心配されますよ」
「へっちゃら。だってわたし、成績良いもんね」
「では仕方ありません。しかし報告だけは一応上げさせて頂きます」
「報告なんて上げても答えは決まってるけどね」
スゲーなあ、親が(といっても〝養父・養母〟なんだろうけど)公認でズル休みさせてくれるんだ——、なーんて思っていたら、
「では朝食が済み次第ロクヘータさんにはさっそく始めてもらいます。エリタスお嬢様を長期欠席にさせておくわけにはいきませんから」とメイド姿のお姉さんに一方的に告げられてしまった。
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