第39話【エリタスさま専属】
「では本題というのは?」と訊いた。
『こんな異世界で学歴なんか披露し合うのが本題であるわけない』なら人に言わせるんじゃねえ、と思いながら——
だがもう次の瞬間には、
「あなたにはわたし専属で働いてもらうつもり」
耳を疑うようなことばがコイツ(エリタスさま)の口から飛び出した。
「まさか僕を使って金を集めアクセサリーでも造ろうとか?」
「あら、それもいいわね、〝ギルド〟がうるさくなかったらね」
ソレ少しでも考えてたのかよ。
「僕の〝無双の力〟など魔物を狩る以外は役に立ちそうもないですが、もしかして冒険者パーティーでも造って冒険の旅にでも出たいとか?」
「それはよくないわね、そんな危険なコトしなくても暮らせるし」とあっさり否定される。『冒険者願望』は無しって事か。
「となると僕が雇われた理由が解りませんが」
「護衛よ」
?
「護衛ならもう専属でついているんじゃないですか?」
と言うやコイツは薄い笑みを浮かべ、
「なにも言ってないんだけどね、ね、ルゥン」とメイド姿のお姉さんに同意を求めた。
「さすがはエリタスお嬢様が目を付けた人物です。そしてロクヘータ様も」
突然僕の名前が〝様づけ〟に。
「別にどうということも無いですけど」
「参考までになぜわたしがただのメイドでないと分かったか、知っておきたいものです」とメイド姿のお姉さんに訊かれる。
「ギルドとやらに組合員として登録してあるメイドなんて普通いないんじゃないですか。なにか特殊な能力があるはずです。そしてこの場にいることを許されているからです。能力があっていつでも近くにいる存在というのは〝護衛〟以外に思いつきません」
「ロクヘータさんは人の話しを聞き漏らさない、割と油断のならない方のようですね」とメイド姿のお姉さん。
『人の話しを聞き漏らさない』ってのは誉め言葉なのか?
「なるほどね、」と言ったのはなぜかコイツ(エリタスさま)。
あっさり同意すんな! せめて『記憶力がいい』とかいう表現に言い直す優しさは無いのか!
「だけどFラン大なのよね」
そして余計なことだけは喋る! うっるせーっ‼ 口には絶対出せないけど。
「専属護衛を二人も付けねばならないほど人に恨まれているのですか?」と〝嫌味〟を込めて言ってやる。
「恨まれてるわね、」
ソコあっさり認めるか?
「やっぱりですか」
あらゆる意味で〝やっぱり〟としか言いようがない。
「はぃ? 〝やっぱり〟ってのはどういう意味? わたしが〝恨まれてる〟って言ったのは〝フォーエンツオラン家〟のことよ」
さすがに反発するか。
「この家というか、家系が恨まれていると?」
「あまり詳しくは言いたくないけどそんなカンジで〝恨まれてる〟わけ。日本から転生してきたわたしのせいじゃないから。くれぐれもソコだけは覚えておいてよね」
「はぁ」
「なにそのやる気のない返事は。そこは『はい、エリタス様』でしょ。さあ言ってみて」
ぐぐぐ、三歳も年下の高校一年風情が曲がりなりにも年上の大学生に向かって……いや、僕が森の中で相当長い時間を過ごしてきたからいまの僕は大学二年になっている歳かも。ならもしかして四歳年下もあり得るのか、余計に最悪じゃないか。
だがこちらはしょせん雇われた身、ガマンするしかないのか……
「はい、エリタスサマ」
コイツの名前は『エリタス』ではなく『エリタスサマ』という名前だと思うしかねーっ。
「それからこの家の跡継ぎはわたし一人。わたしになにかがあったらフォーエンツオラン家は断絶。そこんトコよくよく覚えておいてよね」
「つまり、それでエリタスサマを転生させて無理矢理跡継ぎを造った、と?」
「カンがいいわね」
「カンがどうとか以前に、ならどうして正気のまま平然とここに暮らしてるんです? そんなのどこだか解らない余所の家の都合でしょう?」
「へえー、言うわね。じゃあその理由を考えてみてよ」
いちいち人を試すようなマネするな、元の世界に戻りたいとは思わないのか?
しかしコイツの言っていることが真実ならコイツは元の世界でも人並み以上に恵まれている。それをこの訳の分からない世界へたった一人流されて発狂もしないということは……
「元の世界へはいつでも戻れるとか、ですか?」
「元の世界にはあまり戻りたくないのよ」
なんだそりゃ? 自殺願望者の幸福的成就がこの世界だとでも?
ここで唐突にメイド姿のお姉さん、
「ロクヘータさん、先ほどの『死んでいる・死んでいない』のお話しの時もそうでしたが、元の世界に戻るとか戻らないとか、そうしたお話しは控えて頂きたく思います」
ハッキリ釘を刺された。
このエリタスサマと僕に自由な会話をさせないためにここに居残っているのか?
「じゃあ話しを少し変えましょう。元の世界に未練や執着は無いのかと、そんな話しならどうでしょう?」
「微妙なお話しにはなりそうですね」とメイド姿のお姉さん。
「少しくらいならいいでしょ、ルゥン」エリタスサマがそこまで言うとメイド姿のお姉さんは引き下がった。「—それで?」
「僕はしょせんはFラン大の大学生、だから学校についての未練や執着はありません。でも僕と違って慶墺至塾の附属高の高校生なんでしょう? 〝明るい未来〟はあったんじゃないですか? それとも、『人間関係は時の運』とでも言うつもりですか?」
「そう、言うつもり。Fラン大なのに割と早く頭が回るじゃない」
「日本というところでは数学と英語ができないともれなくバカになれますから」
エリタスサマはしばらく絶句していて、そしてようやく——
「まあ、そうよね……」と来た。
自分で言っといてナンだがあまり同意されるのもな、まるで理科や社会や国語が並以上にできるみてーだし。
「まあまあ気に入ったわ。じゃあ専属での護衛の件は〝了承〟ということでいいわね?」
「ちょっとその前にっ、!」
『Fラン大』なんてゆー腹立たしい話しで話しを逸らされてしまったがどうしてもエリタスサマに確認しておきたいことができてしまった。
『あまり戻りたくない』って、確かに言った。言ったってことは戻れるのか? 元の世界へ? 思わずそれを訊こうとしてことばを飲み込んだ。
「どうかした?」と少し怪訝な顔でエリタスサマ。
「いや、元女奴隷の皆さんたちの今後はどうなるのかなーって、」
「だいじょうぶ、そちらを放逐しろだとか、そういうのは無いから安心しなさい」とエリタスサマ。
戻ることは可能なのかどうか。
いつかエリタスサマと二人きりのシチュエーションもできるだろう、その時訊こう。ルゥンさんのいないところで。なにしろ護衛の役をやるのだから必ずそういう時は来る。
「あなたがあの女奴隷たちのことを気に掛けるように、わたしはこの家を守らなければならないから」とエリタスサマ。
分からん。これは『しがらみ』なのか、それともこの世界が『心地いい』からいられるのか。
『しがらみ』を既に背負ってしまったという意味で、目の前の三歳ないし四歳年下の女子と、立場だけは等しく同じなんだ。
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