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第31話【黒髪の乙女】

 オテル・ナーロッパの玄関前に元女奴隷の皆さん全員集合。ここにまだいようと思えばいられたが、きんが無くなる前に〝次の居場所〟が見つかったことを良しとすべきだろう。


 メイド姿のお姉さんが引き連れて来たと思われる一同と、ギルドの女組合長以下二名が連れ立ってどこかへ行ってしまった。その姿を見送るとメイド姿のお姉さんはくるりとこちらの一同に身体を向け、

「申し訳ありませんね、人数分の馬車が用意できなくて歩きでの移動となってしまいます」とこちらに告げた。

「いや、みんなで歩いた方がいいですよ」と自分で言うのもなんだが愛想良く応ずると、

「そういうのは好印象ですね」とメイド姿のお姉さん、そう笑顔で言ってくれるではないか。


 なんか、イイ!



 ずいぶんと距離がある。しかしもう着く前には気づいている。この道には間違いなく見覚えがある。それが気になってメイド姿のお姉さんに訊いてみた。

「僕たちは昨日この道の先のお屋敷で〝草刈りのお仕事〟をしていたんですが……」

「それは当家の隣家のエーデルワイス家ですね」メイド姿のお姉さんは答えた。

「隣ですか、隣があるなんて意識してませんでした」

「両家ともに広いですからね。建物が見えなければ〝隣〟なんて分からないでしょうね」



 ある所から急に景色が整い始めた。昨日自分たちが草刈りをしていたエーデルワイス家とやらは、ほとんど自然の野っ原といった風情だったが。ここは違う。

 ここまで広くて、ここまで整った庭とはスゴい。少なくともここじゃ自分たちは『庭師』なんてできそうもない。そもそも僕らのような素人庭師など要らないだろう。間違いなくプロが仕事をしている。


 広い広い芝の公園のような庭に一人の女の子が立っている姿が遠目に見えた。その背には間違いなく石造り、直線だらけのいかにもヨーロッパな屋敷が重層的に連なっているが、建築群の色はどれも漆黒。それらを背景にずっとそこで待っていたかのよう。その髪の色も黒髪で、風になびきまるで一枚の絵のよう——


 黒髪?

 この間にも歩き続けその距離はどんどん縮まっていく。

 芝の公園のような庭に立つ一人の女の子は間違いなく長い黒髪をたなびかせている。歳は自分とそうは違わないように見える。メイド姿のお姉さんがすたすたと歩速を早め、その女の子のところへ。

「エリタスお嬢様、こんなところでお出迎えにならなくても」

 確かにそう言ったのが聞こえた。


 いつの間にかすっかりこの世界に慣らされ違和感を違和感とも感じなくなっていた。ラムネさんを始めとする元女奴隷の皆さんやこのメイド姿のお姉さんの髪の色は〝黒〟ではない。もっと言うとあの店主やダリーやオテル・ナーロッパの支配人も黒じゃあなかった。

 髪の色が〝黒〟というのは元の世界じゃ大半が〝この色〟でありふれた色だが、逆にこの世界だと〝黒〟の方に違和感がある。そして当然この自分の髪の色も〝黒〟。周辺にかなりの違和感をまき散らしてきたであろうことを今さらながらに自覚する。


 エリタスお嬢さまと呼ばれた女の子がしゃべり出す。

「いいのよ。()()()()()()()みんなの顔が見られないから」


 このたったひと言に近い〝喋り〟に重要な意味が含まれていることを直感的に感じた。


 元女奴隷の皆さん対貴族のお嬢様。


 普通に考えて昨日のエリゼさんが〝特殊過ぎた〟ってのは間違いなくある。その〝特殊〟が二度も続くものか?


「では皆さん、わたしに着いて来てください。皆さんに住んで頂くところへご案内します」そう黒髪の乙女、いや、エリタスお嬢さまという人は言った。

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