第29話【無双転生者、悪役令嬢からすばらしい提案(?)を受ける】
「チッ」
女組合長が舌打ちをしたのを聞き漏らさなかった。
「分かったすぐ行く」と、だが舌打ちした割には返答はこうなった。そんな女組合長に対し支配人は、
「あ、申し訳ありません。しばらくそのままで」とストップをかける。
「今度はなに?」と女組合長。
「いえ、ロクロ様に、」
「僕?」思わず自分を指差す。
「はい。ルゥンと名乗る方はあなた様とも面会を希望されていますが」
「誰よそれ?」と元女奴隷の皆さんのうちの誰かの声。トゲを感じた。
「つまり女の人ってこと?」とそちら方向に尋ねるように声を飛ばすと「そう」と返事が戻ってくる。やはり女性名なのか。
とにかくその〝フォーナントカ家〟というのが凄い家で、この女組合長も無下にはできないところをみると、もしかしてこれは〝救いの神〟、ホワイトナイトかもしれない。女の方がナイト役じゃあ情けないは情けないが。
「じゃあ呼んでいいから」とそう言った。
まもなくルゥンと名乗る女がこの宿の従業員に案内されこの3階特別室に入ってきた。
それはどこからどう見ても完璧なメイド姿の女だった。女組合長よりは年下に見える。僕からだとどうだろう? 雰囲気的には少しだけ上か。
「お久しぶりです、ムーチ様」そうメイド姿の女が言うと、
「最近ずいぶん幽霊組合員じゃない」と女組合長は応じた。
「それは誰も彼もが同じはずです。狩る魔物がいないのでは活動のしようがありません」
「それでこっちも途方に暮れてる!」
「やはりギルドの運営資金が苦しいのですね?」
「ギルドだけじゃない。冒険者たちだって狩れる魔物がいないんだから!」
どうも何となく話しが見えてきた。魔物を倒すと金の粒になる。その金の粒を回収して生活の糧としていた者達がいたらしい。この自分が襲ってくる魔物を片っ端からやっつけて、金の粒化したそれらを隠し貯め込んでいたため、これまでの生活が成り立たなくなり生活苦になる者が出ていたらしい。
で、その足りなくなっていた分の金の粒を回収しようと、そういうことらしい。
悪いのって自分なの⁉
知らんよ、普通、異世界の事情なんてさ。
そんなことを思っているとメイド姿の女が喋り出した。
「無双転生者さんがギルドに加盟もせず密漁した金、そして罰金をフォーエンツオラン家が肩代わりさせて頂きます。その代わりこの無双転生者さんは当家が雇うという形を採ることを認めて頂きたく思います」
オイオイ、これはどういう展開だ?
「お金を受け取れるのは率直にありがたいわ、ルゥン」女組合長が言った。
「わたしに言われても困ります。あくまでそれを求めるのはお嬢様ですから」
「でもそれは『ギルドはその無双転生者に関わるな』って意味になってない?」
「さすがはムーチ様、その通りです」
「それって無罪放免ってことにするつもり?」
「悪魔の数字だとかなんとか、騒いでいませんでしたか? そんな者とどう関わるつもりでしょうか? 関わらないで済むことこそ渡りに船というものではありませんか?」
ひでエ言われよう。
「なんでそれを知ってるの? 今来たばかりでいなかったでしょあんた?」
「わたしどもはなんでも知ってます。事前に調べてますから」と言い切るメイド姿の女。
「調べていてなおこの無双転生者と関わろうっての? あんたの雇い主はそれを知っててこの男を引き取ろうっての? ルゥン」
「お嬢様はたいへんに度胸のあるお方です。そうしたことはお気になさいません」
度胸がある? 〝お嬢様〟は女だろ? そこは度量があるとかの間違いじゃないのか?
「さすがは〝悪役令嬢〟として名が通っているだけのことはあるわね」
「申し訳ありませんがムーチ様、お嬢様を侮辱するのはわたしが許しませんが」
「んっ……」
「それに金の切れ目が縁の切れ目と申します。今ギルドに不足分のお金が入らないとあなたの今のお立場もそのままとはいかないのでは?」
「分かったわよ!」
「ではお嬢様に対する謝罪を」
「ここでするの? 本人いないのに⁉」
「わたしがそれをお伝えします」
このメイド姿の人が『お嬢様』とやらが侮辱されたことを黙っていたら問題は起こらないはずだけど……
女組合長は眉間に皺を寄せながら、
「申し訳ありませんでしたエリタス様っ」とそう言った。
メイド姿の女は一転にっこりと笑顔になり、
「ありがとうございます。ムーチ様」と言ってのけた。表情が違うだけで受ける印象というのはここまで違うのか。もうメイド姿のお姉さんだ。その笑顔のままなぜかこちらを見られた。なんだろうこの背筋がぞわっとする感覚は。こんなにも笑顔なのに————
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