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第28話【女ギルド組合長戦慄する】

 もう昼前にはその人物はオテル・ナーロッパ三階、僕が使っている部屋にいた。身体の線をこれでもかと強調する服にその身を包んだグラマラスな女がわざわざ訪ねて来た。歳は二十代後半といったところだろうか。

 女はふたりのむくつけきボディーガードと思われる男を引き連れている。


「私はナアロゥプギルド組合組合長のムーチといいます」女は言った。


 女だてらに組合長などやっているのか。自分よりは年上そうなのは間違いないが、組合長をやるにしては若いような。


「令状を示す前にさっそくのご招待。なかなかに良いお心がけです」

 そう謎の笑顔で言われてしまった。かたわらのむくつけき男ふたりも笑い出していた。

 こっちも愛想笑いをしながら、

「なに礼には及びません」と応ずる。

 その瞬間女の表情が変わった。

「お前はあたしたちがわざわざ出向いて〝()〟を言いに来たと思ってんのかい⁉」


 ひえっ!


「令状ってのはな、命令するための〝状〟だ!」むくつけき男の片割れがわざわざ解説してくれた。


 ぷっ、と元女奴隷の皆さんの誰かの吹き出す声。人の勘違いがそんなに面白い? 

「えーと、いったい僕が何の命令をされるんです?」


「無双転生者さんはずいぶんこちらの事情に疎いようだから、これ以上にないくらい解りやすく説明してあげる」と女組合長が言う。心底底意地の悪そうな声色で。


「あんたのやっていることは密漁。ギルドに加盟していない者が魔物を勝手に狩る事は許されない。当然狩った分だけカネ払え。それに加えて罰金も」


 なんとも分かりやす過ぎる口上。()()()()()()()()ここまでわざわざやって来たということか。っていうか魔物は獣かお魚かよ。

「残念ながら持ち合わせが無い」と言うしかない。

「見れば解るわ。これだけ女奴隷に散財すればすっからかんってことくらい」

「オイ、お前解ってるんだろうな? お前はもう魔物を狩っちゃいけない身分なんだ」むくつけき片割れが凄んできた。


 確かにこれは想定外にマズい。


 自分はいざとなったら魔物を狩ればそれが(きん)の粒に化けてくれて、それで元女奴隷の皆さんもなんとか養えるんじゃないかと、庭師がダメでもどうにかなると、ふわふわ楽観的に思い込んでいた。だが〝魔物を狩っちゃいけない〟という。


 ……待てよ、今にして思えばあの奴隷商社の連中、やけに成約を急いでいたような気がするぞ。こうなることを解っていて強行軍で森の中へと代金の確保へと動いたのか。

 ギルドとやらがカネを取り立てに来ることがあらかじめ解っていたら、女奴隷にこれほどにまで散財しなかった……

 っていうかラムネさんもなぁ……。まあ聖女だから仕方ないのか。


 とにかく、無駄であろうと思われる抗議でもしないよりはするに限る。


「だいたいなんでそのギルドとやらが罰金を取り立てることができるんだ。おかしいじゃないか」

「あーら、こちらは王様のお墨付きなんだけど」女組合長がこれ以上に短くならないくらいのあけすけの理由を告げてくれた。

 よほど政治献金とかして取り入っているんだろうなぁ。

「カネを持たぬ者にカネを払えとは無茶な話しだ」と、開き直ってみた。

 普通は自己破産で債権者(?)には泣いてもらうパターンだろ。

「その無双能力を生かしギルドのために無償奉仕すればだいじょうぶ」


 はあっ? これじゃあまるで僕自身が〝奴隷〟じゃないか。こんな無茶な要求に『はい、そーですか』などと温和しく二つ返事ができるわけがない。コイツは女組合長と言うよりは女組長だぞ。


 とはいいながら自分の観察眼はもう〝ある事〟に気づいている。ギルドからやって来たというこの三人組は手ぶらでやって来ていて、バッグ・鞄の類いも所持してはいない。

 即ちあのタブレット端末のような物は持ってきていない。

 それはあの女奴隷商社の店主が持っていた()()()()()だ。あれに向かって『すてーたす・おーぷん』と口にすれば人間の能力が数値化されて示される。その道具を持ち合わせていないのならこの僕が〝無双転生者〟かどうかなど証明されないに違いない。


「僕は転生者ではあるけれど無双じゃないですよ」

 迫真の嘘は、嘘の中にも一部真実を混ぜ込むことだという。〝転生者〟という部分は認めつつ〝無双〟は否定した。どうだ、証明できまい。無双でなければ僕を連れて行く意味など無いからな。


「ステータス・オープン」女組合長がそのことばをあっさりと口に出した。

 ⁈

 すると空中に半透明のウインドウが現出。これは拡張現実か⁉ それとも魔法か⁉ すげエ、こんな技が! そう思っている傍から「バレないと思った?」と女組合長が勝ち誇ったような張りの声で問うてき——

 キエエエエエエエアアアアアアアアッッッッッッ!

 問うては来ず、代わりに耳をつんざくような悲鳴が上がった。ヤクザの組の姐さん的に思えた女組合長がその場に尻もちをついたように倒れた。


 頭で僕が無双だと分かってはいてもさては現実の数値に驚愕したか? そうだろう、さもありなん。無双の力は数字の力、それを目の当たりにしてビビってしまった。そうに違いない。なにせ空中に現出した半透明の窓の中、『9』が際限なくずらーっと並び続けている。どこまで行っても限りなく『9』だ。これが無双だ。無双にはその圧倒的な力ゆえ誰も逆らえないのだ——などと思っていたら

 尻もちをついたまま女組合長が喋り出した。見えそうでぎりぎり見えないスカート(?)の中、そんな体勢もおかまいなしに。


「なんで悪魔数字なの?」

 あくま・すうじ? なるほどそれくらい怖いということか。

「全部『9』だからってそれほど驚かなくても」と言ってやった。かなり気分がいい。

 だが女組合長は〝逆〟のことを言った。

「違う! 全部『6』っ。あんたは逆に見てるから!」

 言われて初めて気がついた。僕の勘違い。半透明に透けたウィンドウを裏から見ていて感覚が狂っていた。よくよく見ればその数字、上下逆だったのだ。

「——レベルが666とずーっと『6』が並び続けている。これが悪魔数字でなくて何と言うの!」


 なんかこういうの、オカルト系の雑知識にあったような気がする。『666』と、6が三つ並ぶとそれは悪魔数字というのだと。なんで異世界に〝元いた世界の価値観〟的なものがあるのか。こんなトコを同じにするか、という思いしかない。

 それにずーっと『6』が延々並んでいるのならそれは悪魔数字じゃないじゃないか。基本6が三つだろ、確か。そこだけは微妙に価値観が違っているってか?

 ふいにここで思い出した。そういや奴隷商社で従業員が何か不安そうな様子だった……。あれはダリーだったよな。しかし店主の方は〝平然〟だったが。あれはヤクザな仕事の経営者だからこそなのか?

 一方で目の前の女組合長はまだ空中に浮かぶウインドウを表情を強ばらせながら凝視し続けている。するとこちらはヤクザな仕事じゃないということなのか——?


「悪魔とかそんなことを言われてもこっちは勝手に数字表示されてるだけで」と、こちらとしてはそう言っておくしかない。

 悪魔などと認定されて良いことがあるわけがない。

 それにレベル表示で出た数字が『6666——』なら、『7777——』や『8888——』に負けるってことじゃないか、理屈の上では。


「それだけじゃない。メインジョブもサブジョブもスキルもぜーんぶ分からない。表示されない」僕の反応がきっかけとなったか女組合長はまくし立てた。

「それ、壊れてるんじゃないの?」

「私の能力が壊れてるって⁉ あり得ない! これが見えないってことは妨害魔法が使われてるってこと!」

 まるで〝対抗電子戦〟みたいじゃないか。それこの自分が今やってるの?

「その自覚は無いけど」

「あんたは正体不明なのよ!」

「正体不明とは失礼な。名は鹿路六平太ろくろろくへいたという」

 ここでむくつけき片割れが女組合長に訊いた。

「ど、どうします? コイツをギルドに連れ込みますか?」

 もう一人の片割れがすかさず突っ込んだ。「そこは〝連れ込めるか〟じゃないのか?」

「バカ、余計なこと口走るな!」

「バカとはなんだ!」

「このままでは組合員の生活が成り立たなくなるぞ!」

「お黙りっ!」と女組合長が怒鳴ったがその後が続かない。女組合長自身もそれきり黙り込んでしまった。


 その時だ、「失礼します」と声が聞こえ、この宿の従業員がもう一人この部屋に入って来た。そして支配人の元へと一直線、そして何やら耳打ち。支配人は肯くと女組合長に向かい声をかけた。

「お取り込み中失礼しますムーチ様。面会を求める方がいらしていますが、いかがいたしましょう?」

「誰?」

「ルゥンと名乗りました」

「後にして」

「今日は組合員としてではなく、フォーエンツオラン家の使いとして面会を希望、とのことですが」そう支配人は告げた。

 続きは『カクヨム』で連載中です。

お急ぎの方は『無双転生者と24人の女奴隷たち。そこへ悪役令嬢が突っ込んだ!』で検索してみて下さい!

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