第25話【サンドイッチ】
「なんで草刈りなんてー」「手が荒れるー」
元女奴隷の皆さんたちの案の定なセリフを聞いてしまっている。が、その一方で楽しそうにお喋りしながら草刈りをしているグループもいる。元女奴隷の皆さんが二つの派閥に別れてしまったかのようになっている。
正直、悪態をついてくれている皆さんは今すぐの〝解放〟を、ぜひとも選んで欲しいくらいだが、ぶつくさ文句を言いながら手だけは動かし続けている。ギリギリの許容範囲というやつだ。
しかしこの〝文句組〟も侮れない。「道具は?」と来たもんだ。
『庭師』を名乗りながら道具も持っていないとはいったいどういう連中だ、と自己嫌悪の大波に洗われてしまうが、エリゼさんにその事を相談すると「物置倉庫の中に一通りの道具はそろっていますよ」とのお返事を得た。
その『物置倉庫』なる建物の中に案内してもらえば、貧乏とは言えさすが貴族の邸宅。文字通り物置なのに倉庫のように広い。そしてもはや使う人もいない道具だというのにお庭管理のための道具がひとそろい、きれいに整頓され保存されていたのもさすがだ。
『手間賃はいりません』と言っておいて本当に良かったというしかない。勝手に押しかけ道具はその家から借りて、これで代金を請求したら悪徳業者以外の何者でもない。僕らの事情をあらかじめ話しておいて良かったと、心底思う。向こうの厚意で二人分は受け取っているけど。
そんなわけで二十五人みんなで『鎌』を持ち、ただ今草刈り中。二十五人というからには当然自身も人数の中に含まれる。庭師を名乗った以上〝ご主人様も奴隷も既に無いけどな〟とそういうことである。かくしてみんなで仲良く(?)草刈りに没頭し続けている。
しかし、僕は草刈りをやるべきかやるべきではないかを迷った。と言うのもみんなが着ているミニスカートの制服もどき、その格好でしゃがみ込み草刈りなどされるとどうしてもチラチラ視界に入ってしまう。それはもちろん〝ぱんつ〟だ。
赤・緑・青・黄色、原色系の派手な色多し。見せパンなのかみんな気にする様子が無い。
で、ラムネさんはやっぱり〝黒〟だった! でもその中身まで見てしまった以上、下着くらいはな、とも言えるが。
ともかく一人だけ何もせず奴隷に命令しているだけという状況の方が気まずく、一人だけ少し外れて視線を合わさないように草刈りを続けている。なんて女子に対してチキンなんだろうな! 全員この僕が買った女奴隷だというのに!
そうやって困りながら(?)仕事を続けていると、
「お食事ができましたよー」と遠くからよく通る声。声の主はエリゼさん。
え? 昼を用意してくれたの?
時間帯からして昼とおやつの中間時間といったところか。用意してくれたのは本人分も含め合計二十六人分ものサンドイッチ。
そしてエリゼさんから頼まれ事「ロクヘータさん、ちょっと手伝ってくれませんか」と。
一つ目は足が折りたたみ式になっている白テーブルを屋敷前に搬出する事。続けて今度は僕とエリゼさんとラムネさんがそのテーブル上に3つに分けた大皿に山積みにされたサンドイッチを載せていく。だがテーブルに付随する椅子は無い。人数分二十六脚も椅子があるわけない。
そこでさらにエリゼさんからはもう一つの頼まれ事、件の『物置倉庫』から物品をひとつ持ち出した。
かくしてお屋敷前の、きれいに草を刈り尽くしたその一角に〝赤い細長い絨毯〟が敷かれた。
「ほんとうは馬車に積んでおく絨毯なのだけど、まだ一回も使ってないですから」とエリゼさん。
あぁ〜と心の中で合点する。なんかアニメとかで見たことがある〝かの絨毯〟。馬車が目的地に着くと御者が降りて〝巻物〟のように巻いてある絨毯を転がし地面の上に展開。ご主人様の足が汚れないようにというアレだ、たぶん。
そうして貴族家の当主も無双転生者も元女奴隷も関係無くみんなでその巻物赤絨毯の上に一列に並んで座りサンドイッチを食べている。みんなに取り皿、その上にサンドイッチ。載せた分を食べ終わるとテーブルの方へ。
ちなみに異世界だから非常識な味がするとか、そういう事はいっさい無かった。というかおいしくてたまらない。
正直この『サンドイッチ』という食べ物は嫌いじゃないけど特別好物とも言えない、自分の中ではふらふらした立ち位置の食べ物だった。
だがここで予想外の昼食を採らせて頂けることになった。それがサンドイッチ。そう、僕にとっては〝頂ける〟だった。さっきお屋敷の中で食べたクッキーもおいしかったが、これはエリゼさんが手ずから作ってくれた〝サンドイッチ〟だ。そういうモノで間違い無い! もう感覚が違う!
しかし——、だ。
いま敷物にしている赤い絨毯は実に細長い。そこへ皆横一列になって座り昼食を食べているわけだが——
最初僕はラムネさんの隣に席をとり、エリゼさんはそのラムネさんの隣に席をとっていた。取り皿の上のサンドイッチが無くなったので白テーブルの上から取ってこようと立ち上がり、戻ってきたら僕の席が無くなっていた。なので僕はまだ顔と名前の一致していない元女奴隷さんふたりの間に挟まれている。
「お腹が減った後の食べ物はおいしいですね」とか話し掛けられ、
「あっ、そうだね」と、〝誰だったっけ?〟と思いながら相づちをうつ。
そのコが自身の取り皿にサンドイッチを、と席を立つともうその席が別の元女奴隷のコによって埋められてしまう。僕がまた取り皿の方へと立ち上がり戻ると元のスペースが無くなっている。こうして段々とラムネさんから物理的距離が離れていく——
ラムネさんの隣に戻れない上にこれっていったい……
ほのかに殺伐とした空気を感じるのは、気のせいじゃないかもしれない…………
さて——
無双転生者・鹿路六平太と二十四人の女奴隷たち、そしてエーデルワイス家の当主令嬢までがいっしょに屋敷前でピクニック然とした遅い昼食を採っているその光景を、遠目から観察している一人の騎乗の女がいた。
鹿路六平太と二十四人の女奴隷たちが草刈りをしている時からずうっとそこにいて、その様子をじっと見続けていた。
「ふぅん、」と女はひとつ独り言。
女はフォーエンツオラン家の一人娘、エリタス・フォーエンツオランの専属メイド・ルゥンであった。ようやく一連の観察を終えたのか「ヤッ」と馬に鞭を入れ、その場から風のように走り去る。
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