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第24話【ティータイム】

「待ってください、もう少しお話しをしていきませんか?」

 美少女にしてエーデルワイス家の現当主のエリゼ・エーデルワイスさんに引き留められてしまったのは、もちろん僕、などではなくラムネさん。

 そのラムネさんは僕の顔を見ている。あくまで〝ご主人様の意向〟ということなのだろう。


 こちらとしてもせっかく獲得してくれた顧客(?)の希望を無下にできるはずもなく、

「せっかくだからお話しをしたらいいんじゃない?」と言っておいた。


 しかしラムネさんの方が条件をつけた。「ロクヘータさんといっしょなら」と。


 さあてこの貴族のお嬢様、というか当主はどう来るか? と思っていると、あっさり、「もちろんです」とのお返事。


「じゃあティータイムにしましょうか」と当主エリゼ様から、「さあどうぞ」と屋敷内へといざなわれる。邸内を少しばかり歩きダイニングルームとおぼしき部屋へ案内された。イメージ的には白い布をかけられた長テーブルが、といったところだが、そこにあったのは重厚そうな木製の丸テーブル。少し大きめで四脚の椅子がテーブルの縁に沿うように円形に並べてある。


「手伝わなくて大丈夫ですか?」と思わず訊いてしまった。

 執事も使用人もこの屋敷にはいないことはさっき聞いた。貴族令嬢というか当主にそんなことさせていいのか? だがラムネさんは言うことが少し違っていた。

「わたしも手伝いましょう」と。

 当主エリゼ様は微笑み、

「じゃあお願いしましょうか」と応じた。


 ……ラムネさんに比べこの僕の対応というのは…………


 こういう時のラムネさんは凄く頼りになる、以外の感想がない! 人脈とはこう作るものなのか……。予測は微妙に外れることもあるけど…………



 男、つまり僕が一人でしばらく待ちぼうけていると女の子が二人、それぞれお盆を持ってやって来てくれた。ラムネさんのお盆にはティーカップが三つ、当主エリゼ様のお盆にはお菓子を載せた平皿が載っている。それらが丸テーブルの上にきれいに並べられる。


 ティーカップの中は紅茶のようであり平皿の上に載ったお菓子はクッキーのようだ。それぞれ飲んで食べてみれば〝おおかたそれに近い〟ような味がした。ただ、あまり甘くはない。

 しかしこれだけは言える!

 このよく分からない〝異世界〟という場所に来て、どういうわけか葉っぱが食べられる体質になっていて、ありがたいことに食うに困らなくなっていたこの自分。なのにこれらの飲み物や食べ物を口にして感慨無量だということ。正直、ホテルに入る高級そうなレストランの味など、その現代世界における味を元々知らないが故に比較するなど不能だからな!


 ——そんな感じで心が満たされていると、視線を感じた。

「なんだかお二人の関係は不思議ですね、とても〝主人と奴隷〟の関係に見えないというか、」それは当主エリゼ様だった。


「ありがとうございますっ」とラムネさん。


「ラムネさんって言いましたよね?」当主エリゼ様が唐突な感じで切り出した。


「はい」


「先ほどからあなたと話していて気づいたのですけど、わたしの名を呼ばないようにお喋りしているのはなぜかしら?」


「えーと、何を言っても失礼に当たるのではないかと思って、本来わたしのような身分の者がこのように会話を交わすことさえあり得ないお方ですから……」


「構いませんよ。さあなんと呼んでくれますか?」


「では『ご当主様』では、」


「じゃあ『エリゼさん』で」


「いいんですか⁉」


 ここで当主エリゼ様はティーカップに一口。

「はしたないお話しですが〝()()〟をくっつけて言い直してくれませんか?」


「えーと、あっ、そうか。ありがとうございますっエリゼさんっ」


 パッと花が咲いたような表情になる当主エリゼ様。

「今のことばだけで〝わたしの言いたいこと〟を察してくれるなんて」と口にして、それでもまだ言っておきたかったのか「あなたは頭のいい人です」とも加えて言った。


 あの、しかし、僕は?

 この視線に感づかれたか当主エリゼ様と目が合ってしまった。

「もちろんあなたも、えーと、」


「ロクヘータですが」


「『エリゼさん』でけっこうですよ、ロクヘータさん」と言われた。


 正直、う〜ん、この〝()()()()〟。しかし返事はこうなった。

「はい、ありがとうございます」

 ここは顧客第一か。


「ところでラムネさん、なぜあなたのような人が〝女奴隷〟に?」とエリゼさん。


 なるほど、これが訊きたかった事か。ラムネさんは僕にしたのと同じ話しをエリゼさんにもする。

「聖女なんだから困っている可哀想な女の子を助けなきゃって思って。それで身代わりで自分で女奴隷になって今ここに至っています」


「…………」


「けどわたしは『聖女』ということになっているので、困っちゃいけないし、自分で自分のことを〝可哀想〟だなんて思っちゃいけないんです」


「そう思いたくないのは誇り高い心を持っているからだと思いますけど、でも……」


「いえ、〝誇り高い〟と言うよりは、はっきりバカでした。聖女だからバカなのか、バカだから聖女なのか解りません。わたしは〝奴隷〟って『下働きをする人』としか思ってなかったんです」


「我が家にお金があれば、あなたをメイドとして雇ってあげたい……」とエリゼさん。


 雇われた場合僕の立場はどうなるものか。


「その親切心だけで嬉しいです。でもわたしにはロクヘータさんがいますから」とラムネさん。

 そのエリゼさんに顔を向けられてしまった。

「ロクヘータさん、ラムネさんのこと、くれぐれもお願いしますよ」


 なぜに僕がエリゼさんにお願いをされる? さっき合ったばかりのラムネさんだろうに。しかしもちろん返事は。

「そのつもりです!」


「だけどおふたりにあの広い庭の雑草取りを任せるというのは……」


 あれ? そういや言ってなかった?


「だいじょうぶです、あと二十三人いますから!」と元気よくラムネさん。


 あちゃー。


「二十三人って、どういう事です?」と顔を引きつらせ気味のエリゼさん。


「わたしみたいな人があと二十三人ってことです」同じ事を繰り返すラムネさん。


 やはり僕がエリゼさんに睨まれてる! でもさすがにこの〝視線(刺線?)〟にはラムネさんが気づいてくれた。

「全てわたしのお願いなんです。みんなを解き放とうって思って」とエリゼさんに訴えてくれた。

 しかしエリゼさんは立ち上がり、

「ちょっと、ロクヘータさんいいですか?」と、部屋の外へ誘導してきた。

 エリゼさんの後をついていき僕も部屋の外へと出ると、振り向かれさっそくに告げられた。

「一応貴族令嬢として生まれた人にこんなこと言われたくはないでしょうけど、」と前置きし「ラムネさんはあまりに〝()()()()()〟過ぎます。奴隷商館とはいえ、まがりなりにも衣食住を心配しないで生きてきた人に『明日から自由です』と言って誰が喜ぶんです? ()()()()()()()()()()なんですよ。どうやって生きていくんです?」


 さすが()()()()()()()()。金銭感覚には厳しい。


「二人だと思っていたのに二十五人分の手間賃だなんて——」とエリゼさん。


「いいです! 手間賃なんて」思わずそう出てしまった。


「それじゃあタダ働きじゃないですか、ダメですよそんなのは」


「それだと僕たちが〝押し売り〟になってしまいます——。じゃあこうしましょう。これで僕たちとの間にコネができましたよね?」


「〝こね〟っていうと、」


「貴族には貴族同士の人脈みたいなものがありますよね、なにか機会があったら誰かを紹介してくれるとか、そんなんでいいんです」


「いいんですか、それくらいで?」


「いいんです!」

 僕は〝タダ働き〟を請け負ってしまった。みんな(元女奴隷の皆さん)が聞けば怒り出しそうだから、ここはもう黙っておくしかない。


「でもやっぱり二人分くらいは出させてください」エリゼさんはそう言った。

 続きは『カクヨム』で連載中です。

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