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第23話【貧乏貴族のとってもお嬢さま】

 翌日、とってもお高い宿所生活二日目が始まる。独り寂しくバカみたいに広いホテルの部屋で目覚める。部屋割りなどはもう過去の話しだ。今後のことが最優先だ。持ち金を減らさないための猶予はあと一泊分しかない。今日は絶対に〝行動〟が必要な日だ。


 僕たちは『庭師』という商売を成り立たせることができるかどうか、見込みがあるかどうかくらいはハッキリさせたい。

 『庭師』のお客さんになってくれる人間は限られる。当然庭のある家に住んでいなければお話しにならない。〝そうしたお客さん〟の目星をつけるため、朝からこのナアロゥプの街の中を探索することに決めた。



 かくしてラムネさん含む元女奴隷の皆さん二十四人に、そのように方針を告げた。まだ〝探索〟の段階なのだから大人数ははっきり言って必要無い。できればラムネさんとふたりで、と思っていたのだが、

 ——なのに全員着いて来ちゃった! だからその辺の通行人が振り返る振り返る。『これはなんの行列か?』と思うんだろう。思うよな普通。

 それほど〝()()()〟って思われてるのか⁉ 僕は!


 さて、この奇妙な行列はいい加減そうに見えて考えて行動している。この僕がラムネさんに訊いたからだ。

「庭師の仕事がありそうな〝お屋敷〟ってある?」と。

 そうしたらどういうわけか、

「街の郊外の方に貴族たちのお屋敷街がありますよ」と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()答えをもらってしまった。


 よりにもよって訳の分からん一団が、貴族を相手に商売しようってんだから、成功よりは失敗する確率の方がかなり高い。それでもやらなければならないってのはもう生活上かなり、早くも精神的には逼迫している。


 塀で囲まれた都市などたかだか知れた広さと思いきやそうでもない。ナアロゥプは侮れない。その上貴族の邸宅は敷地面積が広くそれだけで歩く距離も無駄に伸びていく。

「疲れたー」「お腹減ったー」、案の定な反応が元女奴隷の皆さんから出てくる。

「取り敢えずがまんして」と言うと、一応ご主人様は立ててくれるらしく文句は口にはしなくなったが、表情だけは正直だ。



 何件か見込みがありそうなお屋敷を訪問したが、迷惑な訪問販売業者でしかなかったらしくここまでの収穫はゼロ。

 やはり貴族というのはカネがあるらしく、どの家の庭も隙無く整えられていて、「うちでは間に合っております」と言われてもその通りとしか言いようがない。既に専属の庭師がいるのだと想像させられた。


「この街って塀で囲われているのにすっかり塀を見なくなったよね」と傍らを歩くラムネさんに訊いた。

「塀は貴族の領地を囲うように続いていると聞いています」今度はしっかりラムネさんが教えてくれた。

「だけどもう〝街〟というよりは田舎だよね」

「外れには差し掛かっています。もうこの辺りだと二件だけですね」

「あとたった二件しかないのか……、」

「ずるいです。なんでずっとラムネとしか話していないのか」と後ろの方から苦情が来た。

 一人だけそうじゃない人と会話したけど数のうちに入ってないのか、と思いながら振り返るとやや小柄な美少女が顔をふくらませている。


 ふくらむくらいの元気があるコもいるんだ。と思ってしまった。他のコたちは無表情のまま黙々と歩いているだけだったから。

 そうして低い丘を越えると遠方に一軒家が見えた。草原の中の一軒家。しかしよくよく見直せばそれは遠目から一軒家に見えるだけで、実のところ一見屋敷だった。

「あっ、見てください」そのやや小柄な美少女が指を指している。その先に腐りかけた看板が見えた。

「たぶんあの看板から向こうがこのお家の領地ということになるんでしょうね」ラムネさんが言った。

「あっ、ラムネずるい」とやや小柄な美少女の反駁。しかしそのコに向かって他の女の子たちが一斉ブーイング。「抜け駆けしようとするな」「とかいって名前呼んで欲しいだけだろ」とか。

 そう言えばこのコの名前なんだっけ?

 いや、聞けば大荒れになる。ともかく今はあのお屋敷だ。


「不気味な屋敷ですね……」誰かが言った。明らかに『行きたくないな』という意思表示。

 しかし自分の反応は違う。

 この土地の主があのお屋敷の住人なら、これは〝まったく手入れが行き届いていない庭〟ということになる。大々的に草刈りをするだけで見栄えが良くなるなら、素人集団の庭師でも食い込むチャンスはありそうだ。

「よし、じゃあ行ってくる」そう言っても誰からもブーイングが来ない。それどころか勝手に〝行かない理由〟を喋りだしてくれる。


 『顔が半分潰れた男が出てくる』とかなんとか。なんだそりゃ。


「わたしは行きますよ」とラムネさんが一人手を挙げても〝どうぞどうぞ〟状態。

 そんなわけで二人っきりの頃に戻ったようになった。買ってしまった女奴隷の皆さんと顔を合わせたのがつい昨日。ついこの間なのにずいぶん一緒にいなかったような気がする。


 草々で覆い隠され気味の小径を進んでいる最中、ラムネさんが声をかけてきた。

「申し訳ないです、ロクヘータさん。見込み違いで」

 言わずと知れた元女奴隷の皆さんのことだろう。

「まあ気にしてないから。そのうち気分も変わるかもしれないし」

「ぜったいにそんな人たちじゃないと思っていたんですけど……」

 二通りの意味が考えられた。『いなくなる筈だったのに』と『もっといいコもいる筈なのに』という。

「でも何人か協力してくれそうなコもいたし」と後者の方のみを選択し口にした。ただ数が少ないのは明白。ために同調圧力の前にイチコロなのだ。

「そうですね。いまは庭師をやらないと、ですよね」ラムネさんは励ましてくれるような返事をくれた。



 お屋敷前に辿り着いた。近くで見るとお屋敷はまったく凄くお屋敷だった。背の高い古そうで重厚なドアの前にぶら下がる紐を引けば、リンゴン・リンゴン鈴の音が鳴る。

 しばらくして何か声が聞こえたような気がすると、ほどなく重厚そうなドアが重厚そうなきしり音をたて開いた。

 

 目の前に立っていたのは〝()()()()〟だった。どこからどう見ても育ちの良いお嬢さまにしか見えない少女。しかも自分が買ってしまった女奴隷の皆さんにも顔でも負けてない。


「ご用件はなんでしょう?」お嬢さまな少女は言った。


 しかしなにか違和感がある。この少女がこの家のお嬢さまだとして、いきなり出てくるか? こういう家には執事とか、そういうのがいるもんじゃないのか? そういうのが玄関の扉を開けるもんだろ? しかしまったく使用人に見えない。


「僕は鹿路六平太ろくろろくへいたといいます。庭師のご用はありませんか? 見たところずいぶんと草が伸び放題に伸びていますし」


「そうですね、元々一面芝生だったんですけど、でもいまのウチに余裕が無いので」


 自分がいまやっていることはやはり〝訪問販売〟以外のなにものでもない。正直家に来て欲しくないヒトである。このお嬢さまに迷惑をかけている感がハンパない。それを思ったらもう引き際ということか。


「もしかして、困っていますか?」唐突にお嬢さまな少女は尋ねてきた。

「五日後くらいに困る予定になってます」そう自分が言うと、

「え、変わっていますね?」と笑うのをこらえているような声調子。で、また尋ねられた。

「いまはどうされているんですか?」

「街中で宿屋住まいです」と言ってその宿の名、『オテル・ナーロッパ』と告げると、

「お金があるのか無いのかよく分からないお方ですね」と言われてしまう。やはりよほど名の通ったホテルなのだろう。

「ときにあなたは?」と今度はラムネさんに話しが振られた。

「はい。聖女なんだけど女奴隷でラムネといいます」

 ラムネさんがそれを言った途端に、お嬢さまな少女の顔に露骨な嫌悪感が浮かんだ。すぐさまそれを察知するラムネさん。

「違います。違うんです。『わたしを買ってください』って、わたしがお願いしたんです」

 お嬢さまな少女はまじまじとラムネさんの目をのぞき込んでいる。

「みんな、もういいわ」突然不思議なことばがお嬢さまな少女の口から発せられた。

「〝みんな〟とは?」と思わず訊いてしまった。

「見えないでしょう。だけどナニカがいたんですよ。わたし一人じゃなにかと不用心ですし」

 回答をもらっても何のことだか分からない。

「ひとり、ひとりなんですか⁉」ラムネさんが驚いた調子で訊いている。

「はい、ひとりでココに住んでます」

「もしかしてここ、エーデルワイス家のお屋敷ですか?」

「ええ、わたしが当代当主のエリゼ・エーデルワイスです」

「やっぱりエリゼさまっ。前に聖女院に多額のご寄付をくださりましたよね、直接お礼を言いたかったんです。ありがとうございましたっ」

 パッとお嬢さまな少女の顔が華やいだ。

「じゃああの聖女院に」

「はい。いまはこんなになっていますけど、あの時はいました」

「入って入って。貴方たちとお話がしたいから」エリゼお嬢さまというのか、当主エリゼ様というのか、急転直下お家に招待されることになってしまった。


 ラムネさんとエリゼお嬢さまのお話しが弾みに弾み、

「払える範囲で庭の草刈りをお願いします」との契約を結べてしまったのだ。ラムネさん、頼りになるなぁ。このラムネさんの〝がんばり〟を無駄には絶対できない。


 あの元女奴隷の皆さんは『やりたくないーっ』とか言いそうだがこれだけはご主人様命令に従ってもらわねばならん。


 なぜなら、何か世の中『()()()()()()()()()()()』という、薄ら寒い予感を感じているからだ。

 続きは『カクヨム』で連載中です。

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