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第19話【元女奴隷諸君! 君たちは自由だ!】

 風呂から無事何事も起こすことなく上がると、脱衣所には新たな服が用意されてあった。着てみる。

 現代世界から着てきた服とサヨウナラ。これでいよいよ中世異世界人(?)だ。ただ、新たな服のすぐ横に置かれていた『ソーラー電波時計』、これだけが〝現代世界の証明〟だ。

 腕時計をつけ脱衣所の扉を開くとそこにダリーがいた。

「旦那様、お買い上げ頂いたラムネと寝所をともにしますか?」などと訊かれた。

「いや、今日はいいから」

 しかしダリーはそのことばを別の意味にとっていた。

「もし〝他の女奴隷が良い〟と考えてるのでしたら、明日〝対面式〟が済んでから後の方がいいでしょうね。あいつらにも感情や気分というものもある」

 店主が言ったのと同じようなことをダリーも言った。

 それって面識も無い状態での性交は避けて下さいってことだよねっ⁉

 それって限りなく〝強姦〟じゃん! それしようとするように見えるわけ?


「いやいや、ラムネさんがいいから」

 〝初体験〟は絶対ラムネさんで! そう心に決めてる。既に処女じゃないけどさ——





 日は変わりただ今、昨日ダリーから聞かされた『対面式』なるものが行われている最中。奴隷商社の建物の中庭に、見たこともないような壮観な景色が現出している。


 奴隷商社の店主以下社員一同が自分の後ろに横一列でずらっと並び、そして自分の前には、自分が買った、いや、買ってしまった女奴隷が二十三人もずらっと横一列で並んでいる。こんな感じで対面する以上、本当に昨日風呂に入っておいて良かったと心底思う。

 その列の一番最後にはあの顔にアザのある女の子、確か『ルディア』って言ったっけ、そのコもいた。

 昨日、そのルディアと対面した時にルディアが着ていた服装、そしてお風呂から上がった後にラムネさんが着替えた服装、上品のようで上品でもないという奇妙な、下が極端なミニスカートのような服をみんなで着ていて、それはさながら制服で、まるでアニメの中の学校のよう。

 そして誰も彼も、いや、誰も彼女も美少女で、なぜか誰も彼女も髪型が〝ロング〟。くせっ毛のコもいるけど。


「どうしてそのコだけがご主人様の横にいるのです?」

 一人の女奴隷の女の子がラムネさんを怖い顔で睨んで言った。ラムネさんも制服姿(?)なのに、立っている位置が一人だけ違うことにクレームがついた。

「お前、ご主人様に対する口のきき方かそれが」店主がその女奴隷の女の子にビシリと言った。そのコはもう無駄口を叩かなくなった。

 ぱんぱん、と例によって店主が手を叩き言った。

「さあさあお前達ご主人様に挨拶しないか」

 端の方から自己紹介が始まる。

 一人が頭を下げスカート(?)の端を軽く持ち上げる。中が見えそうになるが見えるほんの少し手前で下げたスカートと頭が元の位置に戻り、

「メイサです。ご主人様、今後ともよろしくお願いいたします」と挨拶された。

「ミララです。ご主人様、わたしのことも今後とも—」

 またしてもぱんぱん、と手が鳴った。

「お前達、挨拶の最中ずっとご主人様を立ちぼうけにさせる気か。挨拶は名前だけでいい」

 店主がそう言うと実に簡略化された挨拶が始まった。


「メイサです、ご主人様」(1)

「ミララです、ご主人様」(2)

「ローティです、ご主人様」(3)

「アトリです、ご主人様」(4)

「サラーゼです、ご主人様」(5)

「リコルンです、ご主人様」(6)

「イラステです、ご主人様」(7)

「ネイティアです、ご主人様」(8)

「ウーナです、ご主人様」(9)

「ユーリネです、ご主人様」(10)

「マーネッテです、ご主人様」(11)

「ララティカです、ご主人様」(12)

「ファーミーです、ご主人様」(13)

「ナルスです、ご主人様」(14)

「ナリスです、ご主人様」(15)

「ミストラルです、ご主人様」(16)

「シカリスです、ご主人様」(17)

「リュリューです、ご主人様」(18)

「ソランです、ご主人様」(19)

「レテーナです、ご主人様」(20)

「コロンです、ご主人様」(21)

「ユチッタです、ご主人様」(22)

「ルディアです、ご主人様」(23)

 最後のルディアさんだけ解った。


 ん? なんかみんなの刺すような視線を感じるが……

「お前は挨拶無しでいいのか?」店主はラムネさんの顔を見てそう言った。

「あっ、すみません。ラムネです、ご主人様」とすぐ横でラムネさんが自分に挨拶。都合二十四人か。

「どんなもんでしょう?」店主が笑顔を作り自分に訊いてきた。


「いや、ちょっと一回では……」

「お前達もう一度だ」僕が何かを言う前にもう店主がそう言っていた。さっそく始まってしまう挨拶の二度目。


「メイサです、ご主人様」(1)

「ミララです、ご主人様」(2)

「ローティです、ご主人様」(3)

「アトリです、ご主人様」(4)

「サラーゼです、ご主人様」(5)

「リコルンです、ご主人様」(6)

「イラステです、ご主人様」(7)

「ネイティアです、ご主人様」(8)

「ウーナです、ご主人様」(9)

「ユーリネです、ご主人様」(10)

「マーネッテです、ご主人様」(11)

「ララティカです、ご主人様」(12)

「ファーミーです、ご主人様」(13)

「ナルスです、ご主人様」(14)

「ナリスです、ご主人様」(15)

「ミストラルです、ご主人様」(16)

「シカリスです、ご主人様」(17)

「リュリューです、ご主人様」(18)

「ソランです、ご主人様」(19)

「レテーナです、ご主人様」(20)

「コロンです、ご主人様」(21)

「ユチッタです、ご主人様」(22)

「ルディアです、ご主人様」(23)

 そして僕の真横から、

「ラムネです、ご主人様」(24)


「どうでしょう?」と改めて店主が訊いてきた。

 改めて。ハッキリ言って全員美少女である。逆に美少女だからこそ実に区別がつけにくい。しかもそろいも揃って全員髪が長く、ほぼ同じ髪型と言っていいのはなぜなのか? 不思議に思いそこを店主に訊いてみた。


「なんでみんなの髪型がほとんど同じなんです?」

「そりゃ長ければお好みでどういう髪型にでもできますからね。長いものを短くはすぐにでもできますが、短いものを長くするには時間がかかる」

 なるほど、そういうことなのか。

 しかし名前が覚えられない。いくらなんでもこれは買いすぎじゃなかったか。


 ここでダリーが自分の前に進み出てきた。

「ナアロゥプ一の宿屋、オテル・ナーロッパの最上級の部屋を二十五人分既に手配してあります。日数は二泊分、当商店からの寸志です。もちろん途中で別に移ることも可能です。ではご案内させて頂きます」


 そして残ったきんを袋詰めにしたものを手渡される。かくして女奴隷専門商社(?)の従業員たちの拍手に送られぞろぞろとこの奇妙な一行は街へ繰り出した。取り敢えずはその〝高級宿屋〟とやらに行くことになっている。先頭はダリー。通行人達がこの行列を振り返る振り返る。


「こちらです」

 宿屋までの案外距離は無かった。中世ヨーロッパ風の世界に高層ホテルなどは無いが、石造りの重厚な建物が眼前にあった。間違いなく高級ホテルといった雰囲気を漂わせている。

 その建物をただ呆然と見上げていてふと気づくとダリーの顔がすぐ近くに。

「旦那様がこれまで着てきたお召し物は乾き次第ここに届けさせます」と。

 そこまでしてくれるのか。

「ありがとう」と素直にお礼をした。なにしろ下着も含めて洗濯してくれるんだから。

「それともうひとつなんですが——」と今度はやけに声をひそめて言ってくる。

「なにか?」

「いま旦那様の持ち金は庶民からすれば大金だ。でもこの人数でここに泊まり続けていたら、あと五泊で〝タマ切れ〟になりますよ」

 重い衝撃を受けた。

「ひと月は暮らせると聞いたけど、」とこちらも小声になる。

「そりゃ〝普通に暮らしていたら〟の話しです」

「なるほど、ありがとう」

「配分、間違えないでくださいよ」

 〝配分〟とは間違いなく『調子に乗ってカネを使うな』という意味なんだろう。表情はほぼ変わらないが存外親切な男なのかもしれない。

 だがなに、僕は無双転生者だ。きんなど森の中でいくらでも稼げる。

「では後はゆっくりとお楽しみを」ダリーは最後に実に意味深なことを、これまた実に無表情に言ってくれた。

 背中がこちらの方を向く。そして少しずつ離れていく————



 改めて視線をずらり並んだ女の子たち、総勢二十四人の方へと向ける。

 なんとも壮観だ——


 この女の子たちは本当に自分のものになってしまったらしい……

 さっそくにみんなに言っておいた方がいいことがある。みんなの方に、改めて。

「取り敢えずこのホテル、じゃない宿屋には〝一週間は滞在できる〟。この一週間の間にそれぞれが身の振り方を考えよう!」

 ダリーの警告を無視し、期限いっぱいの〝一週間〟と口にした。二日でこれからどうするか身の振り方を決めてくれ、ではあまりに急すぎると思ったから。


 なぜだかみんなが不安を抱えたような顔をしている。中に目つきが鋭くなっているコもいる。


「みんなは女奴隷だったけど、もう女奴隷じゃない。元女奴隷諸君! 君たちは自由だ!」

 その瞬間から一斉に黄色い声なブーイングをぶつけられる。止まらない! いったいこれは何がどうなっているんだっ⁉

 続きは『カクヨム』で連載中です。

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