第16話【顔にアザのある女奴隷】
それはそれは凄まじい強行軍だった。金の小粒拾いに相当の時間をかけ、その後の〝もしかして死体探索(?)〟でさらに時間を使い、帰り道の途中でダリーが松明を使わざるを得なくなり、その明かりを頼りにようやくナアロゥプの奴隷商社に辿り着いた時はとっくに夕食時も過ぎていた。
そんな時間帯だったというのにわざわざその夕食が僕らのために用意され、ラムネさんもテーブルにつけていた。女奴隷と言っても主人である自分が求めればこれくらいのことは可能だった。食事はホテルの洋食風といった感じで肉料理もあり、決して安そうではない。それに女奴隷と同じ食卓について同じものを食べていても店主はずっと上機嫌のまま。
「いやー、旦那様、お疲れ様でした。大きな商いをした後は実に清々しい」
心底〝すがすがしそう〟な顔を、奴隷商社の店主はしていた。しかしずいぶんと〝急いだ〟という感じはする。
「二十二人とはウチの店始まって以来のことだ。旦那様はやはりただ者ではない」
「はぁ、まあ」と要領を得ない返事しかできない。臭いだってそのままのはずなのに臭いについては〝臭っても知らぬ振り〟状態だ。
「時に旦那様、旦那様の集めた金の粒はまったく一財産ですよ。二十二人買ってもまだ余裕がある。そこでですね、お願いなんですが、あと一人買ってはいただけませんか? むろん〝有り金全てはたいて〟なんてことはありません。旦那様と女奴隷合わせて都合二十四人、あ、ラムネを加えれば二十五人ですか、それだけがひと月暮らせる金は優に残ります。ここはひとつどうでしょう?」
どういう意味だろう?
「最初から〝二十三人〟と言わなかった理由がありそうですが、」
「さすがは旦那様だ」そう言って店主は己のおでこをぴしゃりと打った。
「実は容姿に多少問題がありまして、それで売れんのです」
ここまで言うか……
「それで、どう容姿に問題が?……」
「顔にアザがあります。右半分額から頬にかけて。アザに隆起は見られませんのでしっかり化粧させれば〝並以上〟であるのは保証します」
ラムネさんに何かを訊きたいところだが真横だ。顔をそちらにも向けにくい。でもしかし——ラムネさんなら顔で差をつけるなんてしなさそう……そうして返事をためらっていると、店主の方から次を切り出してきた。
「まずは実物を見なければ分かりませんな。お食事中失礼でなければこの場にて品定めなさいますか」
何にも言ってないのに勝手に話しを進めてる!
「ルディアを連れてくるんだ」店主が命令を出すと男がさっそく一人、部屋から消えた。ダリーではない他の男だ。
ほどなくその男が一人の女の子を伴いやって来た。上品のようで上品でもないという奇妙な服装だ。下が極端なミニスカートのようだ。〝女奴隷〟の役割が性的なものなら実に絶妙なバランスの服のように思える。
うつむき加減で髪で顔が隠れていた女の子が顔を上げた。なるほど、あざがある。かなり目立つ。そして目力が、強い。
「いかがでしょう? もちろんお安くしておきます」店主が言った。
結論は決めた。決まっているが何とも言いにくい。気まずい沈黙の時間が流れている。
「まあ仕方ありませんな、お気に召さぬものを無理に押しつけるという行為は商人にはあってはなら——」まで店主が言いかけたとき、
「買いましょう」と自分の口が言っていた。
「ありがとうございます」と思いっきりの破顔一笑の店主。それと対照的に顔にアザのある女の子はにこりともしない。
なぜ返事をためらってしまったのか解った。こういうタイプの女の子は顔がどうこう以前に〝苦手〟なのだ。
「でも〝安く〟というのはどうでしょう? 他の女の子と同じ価値というわけにはいかないのですか?」思わずそう口にしていた。
「旦那様はお優しい。しかし、私どもにも商売人の矜持というものがある。ものには適正価格というものがあります。ここはぜひとも〝お安く〟でお願いします」
そうまで言われるとこれ以上は返答に窮する。しかし〝ものには〟と来るとは。奴隷はやはり〝モノ扱い〟ということなのか。
「なに、薹が立つ前に、買って頂けたんです。ルディアも本望でしょう」そう言うと店主は、「もう用は無い。連れて行け」と、そのルディアという名の女の子を連れてきた男に命じた。言われるままに男は動き、女の子の方も抵抗するでもなく奥へと消えた。
なんとも嫌な気分になる。
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