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妖精機動セイバー・シルフ  作者: 草間
妖精機動”フェアリー・マニューバ”
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白銀の騎士part1

轟音と共に震動が続く。


かき集めた携行対装甲火力で装甲車両を撃破したのも束の間。

コンクリ建築の多層住宅を肩ごと体でぶつけて破壊するその怪物を前に出る勇気はなかった。


装甲された深緑色のミリタリーカラーを纏う巨人、機甲機動兵器<アーマー・マニューバ>маневрировать80、M80は旧式といえど

ここ東欧の端の市街地防衛線では十分な戦闘……制圧、いや蹂躙能力を保有していた。

外見は巨大な二足歩行のなまずのよう。複眼式センサーを流し瓦礫と誇りまみれの周囲を探っていたが

やがてそれが面倒になってきたのか前腕部に装備された重機関砲をそこかしこ向けて掃射し始めた。


装甲車両を破壊した相手をひき肉にするためだ。


東の端側と言えど自由と人の権利を尊ぶユーロッパの一端が侵略されて半年。

本国と切り離されたとされているユーラシア経済同盟が現地人の救助と復興、治安維持を掲げて連合軍を結成してからここまで速かったのは

この機甲機動兵器の存在が大きい。


いくらお題目があろうと不安定化した地域にその即効性の武力行使を可能としたのは荒唐無稽な二足歩行の機動兵器の存在があってからだ。

聞いてはいたが80年代に中央アジアでの派遣で猛威を振るっていたのもいざ自分に向けられれば頷けるものだった。


そう。荒唐無稽ではあるが、荒唐無稽であるがゆえにどうしようもないのだ。

携行式の対装甲火器1つでどうにかなるものでもない。

西側諸国はその開発が遅れに遅れていた上での欧州全体の混乱だ。

希望はない。あるとすれば航空機による火力支援だがそれも混乱の原因の一つ、この霧の中では求められるものでもない。


砲撃の音が近い上に重なってきた。あれ1体だけ派遣されたわけでもない。

この街も……これで更地にされてしまう。

他の仲間は生きているだろうか、とも考えれれない。

おそらく、もう、自分以外いない。


音がやんだ。

最後に最後、機関砲の給弾の隙をついて一撃いれてやろうと駆けだす。


しかしそれも遅かった。

給弾が終わった重い金属音が鳴り砲口がこちらに向けられた。


撃たれるその前に引き金を、引く。

恐怖に背中押された指の動きよりも早く……何か光る巨大なものがM80の腕を吹き飛ばしていた。


照準器越しに信じられない光景が入ってきた。

何が起きているか確認するため携行対装甲火器を下すと、今度はM80の顔にめり込んでいた。

銀の……脚が。


そのまま倒れこんだM80を脇に先ほど飛んできた何かを掴んだように見える。

何かではなかった。


剣だ。

巨大な剣を持つ巨大な銀の騎士が……久しく聞いていなかった現代航空機の証であるターボ・ファン・エンジンの音を響かせて浮遊していた。


噂に聞いていたやつだ。


この戦線に霧の中から現れ、敵の装甲機動を切り裂いていく銀の騎士がいると。


銀の騎士は仲間の緊急無線を聞きつけたかぞろぞろ集まってきた他のM80を見れば剣を振りかぶり駆け抜けていく。


名前も知っている。


肩に妖精を描いた部隊章、特徴的なウイングに描かれたネーム・コード。


名前をセイバー・シルフ。


鋼と炎の時代に現れた、騎士の妖精。



「不愉快な報せだね。」


その戦線から遠く離れた拠点でユーラシア同盟軍のとある機甲部隊の長が報告を前に呟く。

背の丈は高く野性味がありながらも揃えられた蒼銀の髪は荒れ、その目は鋭く遠い彼方を睨んでいる。

ここ最近のことだ。旧式とはいえM80の損害報告、作戦の遅滞が上がってきている。


「詳細は依然不明ですが昨今の損害報告と重なる部分が多いものです。」


だからだよ、とマリヤ・パヴロヴァ少佐は呻くように呟き簡易椅子から立ち上がる。

報告に上がる火砲以外での撃破報告。その異様さ。

物理的な力によりねじ伏せられている装甲機動の被害。


「この魔性の霧に包まれた戦場をカッとんで装甲機動を切り裂いていくモノノケがいるということだ。」


モノノケ、そうとしか形容しようがない。東洋ではツジギリというのか?と短く笑いながら副官に問う。

最も二足歩行の装甲兵器相手にツジギリを行うサムライが東洋にいればだが。


「本国に上げますか?」

「上げたところでモノノケの正体を明かさない限り続くよ」


やれやれと言った体で体を伸ばし、この仮設拠点で従士のごとく控えている試験中の新型装甲機動を前に考えを巡らせる。

このイギリスで炸裂したという新型爆弾の影響か、視界や電子……それどころか距離も狂わせる魔性の霧は今まで東欧に進む我々ユーラシア同盟軍にとって有利に働いてきた。


しかし今その霧の中で自在に飛んではキッタハッタをやってるイカれたモノノケ現れ始めた。

戦略的に見て全体的な優位性が失われたわけではないが、いつどこから出てくるかわからないモノノケがいるというのは収まりが悪い上に

全体の士気にかかわることだ。


西側が我々より一足先に航空装甲機動を開発し実戦投入した、というのであればそれも問題である。

どちらにせよ藪を突いて蛇を検分しなければならない。


「少佐、出しますか」

「明かしてやろうじゃないか……モノノケの正体をさ」



試験目的の都合もある。ちょうどいいさ、と女は笑い隊員たちを呼び出すのであった。


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