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僕は椎茸が食べられない  作者: 灰色シオ
第3章 僕と彼女の未来
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41.引っ越し

 僕は椎茸が食べられない。

 好き嫌いの問題ではなく、食べられないのだ。あのぐにゃとした歯ごたえでぐにゅっとした食感でぐじゅっとした後味のあの食材を。思い出しただけで吐き気がする。実際吐いてしまう。だから、僕は椎茸が食べられないのだ。


 このお話は、椎茸が食べられない僕君と何が何でも食べさせようとするお母さんの戦いの物語です。僕君を助けてくれる彼女ちゃん。なついてくる妹ちゃん。温かく見守ってくれる友人たち。そんな仲間とともに成長していく僕君。はたして僕君は椎茸を食べられるようになるのでしょうか。

 結婚式を来週に(ひか)え、わたしたちは引っ越しの準備をしている。お兄ちゃん大好きな妹のため同居にこだわっていたのだけれど妹子(いもこ)ちゃんが(すす)めてくれたのでわたしも()れた。

 妹子ちゃんは大手食品メーカーに就職が決まり来春卒業したら地方の研究所に配属されるのだそうだ。

「だから気にしないで新婚生活を楽しんで。お姉ちゃんの気持ちはうれしいけど私だっていつまでもブラコンじゃないんだから」

 そう言われてもわたしが(さび)しい。

「なら、こう言ったほうがいいのかな? お義姉(ねえ)さん!」

「気が早いよぉ」

「何言ってるの。もう来週でしょ」

「だって~」

 かわいい義妹(いもうと)ができてわたしもうれしい。


 ちなみに友人君改め彼氏君も同じ会社に内定をもらっていた。彼は工場勤務予定だそうだけど、いずれ結婚したら同じ地区に異動願(いどうねがい)を出すつもりらしい。それまでは同期として付き合っていくそうだ。


     *


 翌週の日曜日、大安吉日。わたしたちは結婚した。


 式は神前にした。ウエディングドレスを着てチャペルでの式も魅力的だったけどわたしには似合わないし。まあ、披露宴(ひろうえん)では着るんだけどね。

 三々九度(さんさんくど)(さかずき)を飲み干し、神前に(さかき)を奉納するときは緊張で手が震えた。それに比べて僕君は堂々としていた。緊張もしていないみたい。男の人って苗字(みょうじ)も変わらないしあまり意識しないのかも。


 披露宴にはみんな来てくれた。

 小学校からの親友A子ちゃん。次はA子ちゃんの番だね。

 中学校からの親友B子ちゃん。まさか先を越されるとは思わなかったよ。

 高校からの親友C子ちゃん。うらやましそうだけどお相手は7つ年下だもんね。頑張って。

 高校・大学の憧れの先輩。D美先輩。今日も金髪ツインテール、かわいいです。

 僕君の招待客には小学校からの親友二郎(じろう)君、最近初めての彼女ができたって言ってた。

 中学校からの友人、三太(さんた)君はもうちょっと頑張ろうか。

 会社の先輩さんや同僚の方々。

 みんな祝ってくれた。

 わたしたち幸せになります♡


     *


 三泊五日の新婚旅行 (なんとハワイだ)から帰ってきたのが金曜日の夜。やっぱり海外はいい。ご飯がおいしい。椎茸に(おび)えなくてすむ。それでも帰国したときはお米が食べたくなって夕飯は牛丼にした。

 「家に帰るまでが新婚旅行だよ。もっといいモノ食べない?」と聞いたのだけれど彼女ちゃんに「いつまでも浮かれてないの」とあしらわれた。これは尻に敷かれるの確定かもしれない。不満はないけど。


 アパートに二人で帰るのは初めてだ。それだけで楽しい。新婚って気分になる。明日は彼女ちゃんの荷物が届く。今日は早く休もう。

 彼女ちゃんの布団が届いてないので僕のベッドに二人で入る。新婚なんだけど……二人とも疲れていたのでイチャイチャもしないですぐに眠ってしまった。


 翌日の土曜日はゆっくり起きて遅めの朝ご飯を食べ終わったころ、宅配便がきた。彼女ちゃんの荷物だと思ったら違った。大分のおばあちゃん(お母さんのお母さんだ)からの荷物だった。おばあちゃんは腰を悪くしていて結婚式には参列(さんれつ)できなかった。代わりに結婚祝いを送ってくれたらしい。

 宅配便の段ボール一つ。だが軽い。嫌な予感がする。

義祖母おばあさまからのお祝い? なにかしら?」

 彼女ちゃん改め新妻(にいづま)ちゃんが箱を開ける……僕はがっくり(ひざ)から(くず)れ落ちた。

 段ボールの中身は箱一杯に詰められた干し椎茸だった。


『僕君へ

 ご結婚おめでとう。式に出られなくてごめんなさい。おわびに丹精(たんせい)込めて育てた椎茸を送ります。お嫁さんに料理してもらってください。 かしこ

                                祖母より』


 悪気がないことはわかってる。でもね。おばあちゃんも僕が椎茸食べられないの知ってるよね! まったくお母さんといいおばあちゃんといい大分人は椎茸に関しては聞く耳持たないのだ。


 椎茸は彼女ちゃんがアパートの人たちにお裾分(すそわ)けといって配って回った。このアパートは2DKとやや広めの間取りなので独身者はおらず僕たちみたいな新婚からまだ子供が小さい若夫婦しかいない。僕が引っ越したときに彼女ちゃんも一緒に来てご近所さんに挨拶(あいさつ)したから顔見知りだ。

 だが、ご近所に配ってもそれでもまだ箱半分近く残っている。

「全部配っちゃえばよかったのに」

「だめよ。頂きものなんだから食べなくちゃ失礼でしょ。まあ、僕君は食べなくていいから、私が食べてお礼状書いておくね。僕君は電話でもしてあげて」


 その後、彼女ちゃんの荷物が届いたのだけど僕はほとんど戦力にならなかった。部屋に椎茸の瘴気(しょうき)が充満していて力が出ない……


     *


 翌週の土曜日、うちに友人たちが遊びに来た。

 彼女ちゃんの親友ABCと僕の親友二郎だ。二郎が三太にも声をかけたそうなのだが「リア充爆発しろ!」と言って断られたのだそうだ。

 最近まで二郎もそっち側だったのだが、ようやっと彼女ができたのだそうだ。大学時代のゼミの先輩だとか。おめでとう。


「新婚旅行ハワイだったよね」

「写真見せて!」

「いいな、ハワイ」

「Bちゃんはどこ行ったの?」

 先月、結婚したB子に新妻ちゃんが聞く。

「西海岸」

「えーっ、すごいーっ!」

「……あの野郎、途中で仕事入れてやがった」

「それは……大変だったね」

「仕返しに一人でオイスターバーに行って豪遊(ごうゆう)してやったわ。知ってる? ドンペリと牡蠣(かき)ってすごく合うのよ」

「知らないよ」

 庶民派の代表A子が冷静に突っ込む。

「いいなぁ」

 C子の彼氏君はだいぶ年下らしく、うらやましそうだ。

「プロポーズとかされないの?」

「されてるよ。毎日」

 勤めている保育園の園児にC子はモテモテらしい。

「二郎君はまだなの? 彼女できたんでしょ?」

「ゼミの先輩だって? だったら年上でしょ。早く決めてあげないと」

「ああ、でもな。先輩も体調崩したりいろいろあったから、まだな……」

 このときの僕は二郎の彼女が僕が知っている人だとは夢にも思わなかった。いずれ二郎も幸せな家庭を築くのだが、それはまた別のお話。


「そうそう彼女ちゃんの写真見せて」

 ハネムーン話で盛り上がる。

「お土産も買ってきたからね」

「どうせマカダミアナッツだろ」

「なぜわかる」

「ハワイ土産で日持ちするもんっていえば見当つくだろ」

「ならいらない?」

「い、いや、ありがたくもらうけど……」

「ついでに干し椎茸も持って行ってくれ」

 せっかく来たんだ。友人たちに処分を手伝わせよう。


 ピンポーン!

 玄関のチャイムが鳴った。

「はーい!」

 新妻彼女ちゃんが戸口に向かう。

「あら、こんにちは」

 どうやらアパートのお隣さんの奥さんだったようだ。

「先日はたいそうなものを頂きましてありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。いっぱいもらって食べきれないものですから」

「でも、あんな立派なものを……」

自家栽培(じかさいばい)なんだそうです」

「そうですか。それでね。筑前煮にしてみたの。よろしければ……」

「まあ、よろしいんですか?」

「お口に合えばいいのですが」

 なんだか不穏(ふおん)な会話が()れ聞こえる。


 やがて戻ってきた新妻ちゃんの手にはタッパーがあった。

「せっかく配ったのに返ってきちゃったね」

 がっかりだよ!


 ピンポーン!

 新妻ちゃんが座る間もなく、再びチャイムが鳴る。

「あら、こんにちは」

「先日はたいそうなものを頂きましてありがとうございます。でね……」

 ・・・以下略・・・

 ピンポーン!

 ・・・以下略・・・

 ピンポーン!

 ・・・以下略・・・

 ピンポーン!

 ・・・以下略・・・


 アパートの部屋数は6戸だからうちを除く5軒全てからお返しが来てしまった。しかも全部が椎茸料理だ。

「腐らないものだからってあげ過ぎなのよ。相手だって処分に困って返しに来たんでしょ。そのまま突き返すのも失礼だから料理にして」

「ま、そういうことだろうな。どれどれ筑前煮に椎茸ご飯に椎茸の肉詰め」

「こっちは椎茸の天ぷらに……これは?」

「椎茸味噌かしら。これは知らなかったな。ご飯に()せたらおいしそう」

「どうやって作るの?」

 C子の質問に味見をしながら新妻ちゃんが応える。

「シイタケをみじん切りにしてネギとショウガと合わせてごま油で炒めて、お味噌で()えてみりんと砂糖で味を調(ととの)えたんじゃないかな」

「よくわかるね」

「フキ味噌やニンニク味噌と作り方は一緒だから……」

 女子たちは椎茸料理で盛り上がっていた。


「……」

「ドンマイ!」

 二郎に(はげ)まされた。

「私たちもお返しに椎茸料理持ってこようか?」

 B子には皮肉(ひにく)まで言われてしまった。


 せっかく処分したと思ったのに……

「どーしてこーなったーーーーーーーっ!!!!!」



 僕は椎茸が食べられない。

 頂いた料理は新妻ちゃんとその友人たちがおいしく召し上がりましたとさ。

 第41話最終話でついに僕君と彼女ちゃんが結婚しました。そんな新婚家庭でひょんなことから手に入れた大量の椎茸を処分しようとして僕君が返り討ちに合うお話です。椎茸をおすそ分けされても困りますよね。皆さんだったら大量の椎茸をおすそ分けされたらどうしますか?


 今話ではさまざまな椎茸料理が披露されています。椎茸味噌は作者も経験ありません。ジャージャー麵の肉味噌に椎茸を入れられたことはありましたが……それも作者のトラウマです。


 これまで「僕は椎茸が食べられない」にお付き合いくださり誠にありがとうございました。私怨が込められているのでお見苦しい部分があろうかと思います。特定の地方の方には不快な思いをさせてしまうかもしれません。お詫びを申し上げます。温かい心でお目こぼし頂ければと思います。次にエピローグをアップしましたので最後までお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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