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僕は椎茸が食べられない  作者: 灰色シオ
第3章 僕と彼女の未来
35/43

34.伝説

 僕は椎茸が食べられない。

 好き嫌いの問題ではなく、食べられないのだ。あのぐにゃとした歯ごたえでぐにゅっとした食感でぐじゅっとした後味のあの食材を。思い出しただけで吐き気がする。実際吐いてしまう。だから、僕は椎茸が食べられないのだ。


 このお話は、椎茸が食べられない僕君と何が何でも食べさせようとするお母さんの戦いの物語です。僕君を助けてくれる彼女ちゃん。なついてくる妹ちゃん。温かく見守ってくれる友人たち。そんな仲間とともに成長していく僕君。はたして僕君は椎茸を食べられるようになるのでしょうか。

 うちの高校の料理部には禁忌(きんき)がある。それは椎茸料理を作ってはいけないということだ。なんでそうなったかは知らない。たぶん伝説の先輩たちがかかわっているのだとは思うけど……


「F代、何考え込んでるんだ?」

 料理部の仲間G乃が話しかけてきた。

「今度の文化祭のメニューをね」

「部長ともなると大変だね」

他人事(ひとごと)じゃないわよ。H奈も考えて!」

「「はーい」」

 私はF代。料理部の部長をしている。G乃とH奈は同じ3年生で料理部の仲間だ。他に2年生が2人、1年生が2人いる。合わせて7人が我が料理部のメンバーだ。

 料理部は設立されてまだ10年の新しい部だけれど知名度は高い。文化祭で開催する試食会には大勢の人が集まるし、料理部の名を出せば学内ではかなりの融通(ゆうづう)()く。生徒会には料理部担当という意味不明な役職もあるくらいだ。それもこれも伝説の先輩たちのせいなのだとおもうけど


 料理部には伝説と呼ばれる先輩がいる。名前も伝わっていないけど世界的料理ガイドブックの調査員が三ツ星を付けただとか、辛口料理評論家に「くっ……おいしゅうございます」と言わせただの数々の伝説が残っている。それでも料理部が一目置かれているのは間違いない。運動部の栄養管理をして大会で躍進(やくしん)させたんなんて話もある。さすがにそれは眉唾(まゆつば)で、わたしも信じてはいないけど。


 伝説の先輩と関係あるか知らないけれど、料理部には禁忌がある。それは料理に椎茸を使ってはならないというものだ。私は特別好きなわけじゃないけれど、椎茸は出汁として和食では重宝(ちょうほう)する食材だ。椎茸が使えないとなると不都合が出ることもある。

「はぁ~」

「どうした。F代」

「いやさ……なんでうちは椎茸使っちゃいけないのかなぁって……椎茸が使えれば煮物だってレパートリー広がるし、茶わん蒸しとかお吸い物とか使い勝手あるのに……」

 うちの料理部では既存(きぞん)のレシピをそのまま使うことは許されていない。ひと手間、ひと工夫することがルールなのだ。だから使えない基本食材があるのは正直痛い。

「なんだそんなことか」

「そんなことって何よ。人が文化祭のメニューを考えているっていうのに!」

 冷やかすG乃にメニュー作りで煮詰(につ)まっていた私は()みついた。


「ふっふっふっ……お困りのようですな、F代っち。その疑問にわたしが応えて進ぜよう」

「H奈、今まじめな話してるから後にして」

 すげなくあしらうとH奈が泣きそうになる。いつもおちゃらけているくせに冷たくさっると泣いてしまう面倒(めんどう)くさい娘なのだ。

「ああーっ、噓うそ。聞きたいなーっ」

「本当に……?」

「ほんとほんと」

 隣でG乃がウンウンと頷く。G乃もH奈の面倒くささを身に染みて知っているのだ。


「……そっか! そこまで言われちゃしょうがない。私だって鬼じゃないんだからね。土下座(どげざ)して頼まれたら嫌とは言えないじゃないか」

 誰も土下座なんてしてないし頼んでもいない。

「実はね。その禁忌は迷信(めいしん)なのですよ。たまたま起こった出来事が椎茸のせいにされて縁起(えんぎ)が悪いからタブーとされた……そんなつまらない話なのです」

「もったいぶらないでさっさと話せよ」

「まあまあ、G乃っち、(あせ)らないで」

 聞きたくもない話をもったいぶられると余計にいらいらする。G乃も同じ気持ちだ。そんな私たちには気を使うこともなくH奈は自由気ままに話を続ける。

「JKにとって一番(こわ)いことって何だと思います?」

「スマホなくすこと」

 G乃が即答(そくとう)する。私も同感(どうかん)だ。

「ちっちっちっ、そりゃ私もスマホなくすのは困りますけど、怖いってのとはちょっと違うと思いません?」

「じゃあ、他に何があるってのよ」

「もちろん、彼氏にフラれることですよ」

「………………?」

 私はG乃と顔を見合わせた。

「H奈、彼氏いたっけ?」

「いないですけど! お二人だっていないじゃないですか!」

 私たちだけじゃない。料理部に彼氏持ちはいない。この(みが)き上げた料理の腕は完全に宝の持ち(ぐさ)れだ。

「私たちの……ぐすっ……ことじゃないです。一般論です! 一般的にはJKが一番怖いものは彼氏とうまくいかなくなることなんです!」

 どうやらH奈の自爆(じばく)のようだった。

「昔々、料理部のある先輩が……その先輩にはサッカー部の彼氏がいたそうなんですけど……けっ……その先輩が彼氏さんにいいところを見せたくて料理部に招待(しょうたい)して手料理をふるまったのだそうです。その日のメニューはヘルシー豆腐ハンバーグだったそうです。とはいっても料理部です。ただの豆腐ハンバーグではつまらない。ひと手間かけたのでした。

 ところがその彼氏さんは椎茸が大嫌いだったそうで。付き合いだして間もない先輩はそれを知りませんでした。煮物(にもの)のように椎茸が見えていたら彼氏さんも警戒(けいかい)できてよかったんですけどねぇ。先輩は(きざ)んだ椎茸を豆腐ハンバーグに()りこんだのです。付き合いたての彼女の手料理です。彼氏さんは喜んでハンバーグにかぶりつきました……あとは皆さんのご想像の通りです。その場で彼氏さんは嘔吐(おうと)したそうです。

 他の生徒たちが見守る中でゲロるってきついですよね。それ以来、彼氏さんはゲロ太とあだ名をつけられ、学校に来られなくなり……すいません。脱線(だっせん)しました。とにかく、その事件がきっかけで先輩は彼氏さんと別れることになったそうです。先輩がリサーチ不足だっただけで別に椎茸のせいじゃないんですけど、それ以来、料理部では椎茸料理は縁起が悪いといって禁忌とされたそうです」


 バカバカしい……そう思っていたのだが

「それはあたしが聞いた話とはちょっと違うな」

 G乃まで馬鹿話に参戦してしまった。

「あたしが聞いた話では、その彼氏さんは頑張ってトイレに駆け込むまでは耐えたのだそうだ。そりゃ初めての彼女の手作り料理だからな。いくら椎茸が嫌いでも意地でも彼女の前ではゲロできねえだろ。それで彼氏さんはトイレまでは頑張った。でも、テンパっていた彼氏さんは近場(ちかば)にあった女子トイレに駆け込んでしまったんだ。しかも手前から3つ目の個室……。椎茸を吐き出してすっきりした彼氏さんはそこで気が付いたんだ。なんで気が付いたのかって? 女子トイレに先輩がやってきたからさ。渾身(こんしん)の手料理を食べた彼氏が逃げ出したんだ。傷ついた先輩だけど人前で泣くわけにはいかない。友人に支えられながら女子トイレまでやってきてやっと泣けたんだ。彼氏さんが聞いているとも知らずに。先輩の懺悔(ざんげ)を聞いてしまった彼氏さんは()やんだ。そして(うら)んだ。なんで椎茸なんてものがあるんだ。全て椎茸のせいだ。全部椎茸が悪い。その(のろ)いに身を焦がした彼氏さんは女子トイレから二度と出てくることはなかった。ただ単に女子トイレに(こも)っている変態だと彼女に思われたくなかったのかもしれないけど……。そうして彼氏さんはトイレの花子さんになってしまったのだそうだ。彼氏をトイレの花子さんにしてしまった先輩は二度とこんな悲劇が起きないようにと椎茸料理を料理部から永遠に封印(ふういん)したんだとさ」

 同じ話じゃない。そして花子さんなのに男じゃない。


「こんな話もあるんだけど」

 H奈、まだ続けるの!?

「椎茸って中毒性があるじゃない」

「ああ、聞いたことがある」

 私は聞いたことないけど!

「F代、料理部長として不勉強だぞ」

 ……私がおかしいの?

「それで椎茸の中毒性を利用して世界征服をたくらんだ秘密結社があったんだって。椎茸胞子に感染すると椎茸を(むさぼ)り食らうように洗脳されちゃうんだって」

「恐ろしいな……」

「うん、怖いよね…… でね。その組織は世界中に椎茸胞子をバラまいて世界征服寸前まで行ったんだって」

「バラまいただけでそう簡単に洗脳されるか?」

「そこが悪の組織の非道(ひどう)なところだよ。なんと椎茸をカレーに入れたんだ」

「カレーに……(ひど)いことしやがる。日本人なら年に100食は食べるカレーだぞ」

「うん、インド人もびっくりだよね。それでインドはもちろん世界中の人がシータケに洗脳されちゃったんだ」

「私にはそんな記憶ないけれど……」

「ダメだなぁ、F代は……洗脳された人間が洗脳中のことを覚えているわけないじゃん」

「そうだぞ、F代。まじめな話なんだから、ちゃんと聞けよ」

 ……

「全世界の人口の99%が洗脳されてもう駄目だと思ったとき」

「人類最後の希望、シータケバスターズが立ち上がったんだよな」

「さすがG乃。よく知ってるね」

「まあな」

「人類解放戦線シータケバスターズは独自に開発した抗胞子剤パウダーリムバー洗脳ナイトメア解除銃キャンセラーを使って人類を救ったんだ」

「……誰がそんなバカバカしいことを(たくら)むのよ。そんな悪の結社なんて聞いたことないわよ!」

「そんなの決まってるじゃん」

「「シータケ王イタだよ!!」」

 頭痛くなってきた……


「他にもあるよ。椎茸ウイルス説だとか、シータケ星人地球侵略説だとか……」

「もう、いいからーーーーーーーーっ!!!!!!」


 結局、今年の文化祭の試食会メニューも椎茸抜きで作られることになった。



 私は椎茸嫌いじゃないけど椎茸料理は作らない。

 伝統は大事!

 第34話では彼女ちゃんが守った料理部の後輩たちのお話でした。彼女ちゃんやD美先輩がごちゃ混ぜになって尾ひれがついて嘘・偽り・紛らわしくなって伝説となっているようです。夢シリーズも一部混ざっているかも


 〇年後の未来ではシータケは禁忌となっているようです。ぜひ、伝統を守り続けてほしいものです。


 本作は毎週水曜日に投稿する予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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