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僕は椎茸が食べられない  作者: 灰色シオ
第2章 僕と彼女の成長
31/43

30.シータケクエスト

 僕は椎茸が食べられない。

 好き嫌いの問題ではなく、食べられないのだ。あのぐにゃとした歯ごたえでぐにゅっとした食感でぐじゅっとした後味のあの食材を。思い出しただけで吐き気がする。実際吐いてしまう。だから、僕は椎茸が食べられないのだ。


 このお話は、椎茸が食べられない僕君と何が何でも食べさせようとするお母さんの戦いの物語です。僕君を助けてくれる彼女ちゃん。なついてくる妹ちゃん。温かく見守ってくれる友人たち。そんな仲間とともに成長していく僕君。はたして僕君は椎茸を食べられるようになるのでしょうか。

 僕は勇者だ。だから世界を(ほろ)ぼす魔王を(たお)しに行かなくてはならない。

 でも、最初の冒険は失敗だった。

「おお、勇者僕君よ。シータケごときにやられて死んでしまうとは情けない」

 復活の間で蘇生(そせい)させてくれたおじさん神父はそういった。ごときって……だったら、お前が倒して来いよ。

「仲間を集めてパーティーを組むのだ」

 おじさん神父のアドバイスに従うことにした。


「村人を(さそ)う時点で終わってね?」

 村人二郎の言葉は正しい。ただ、友達の少ない僕にパーティーを組んで戦ってくれる仲間などそう簡単に見つかるわけもない。

「僕君っ! 死んじゃったんだって?」

 幼馴染(おさななじみ)の彼女ちゃんが()け寄ってきた。彼女ちゃんはおじさん神父の娘で僕の恋人だ。

「次の冒険にはわたしもついて行くから」

 チャララチャチャラー♪

 聖女彼女ちゃんが仲間に加わった。


     *


「おお、勇者僕君よ。シータケごときにやられて死んでしまうとは情けない。死ぬなら、お前ひとりで死ねばいいのに。娘ちゃんまで巻き込むとは、ころすぞ。ごるぁ!」

 やくざみたいな口調(くちょう)のおじさん神父に蘇生してもらった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。

前衛(ぜんえい)が足りていないのじゃ」

 おじさん神父のアドバイスに従うことにした。


「お前に大切な彼女ちゃんをまかせてはおけねえ」

 戦士A子が仲間に加わった。

「今度は死ぬなよ~」

 村人二郎に見送られて僕ら一行は三度目の旅に出た。


 今度の旅は順調だった。スライムを討伐(とうばつ)して地道(じみち)にレベル上げをして(かく)しダンジョンに向かった。

 デロデロデロ~♪

 シータケガアラワレタ

 シータケAハレンチオニンヲホーシュツシタ

 シータケBハレンチオニンヲホーシュツシタ

 シータケCハレンチオニンヲホーシュツシタ

「うげぇぇぇっ」

 勇者ハ嘔吐(おうと)シタ

「これでも喰らえ!」

 戦士が斬撃(ざんげき)()り出した。

 シータケAハニゲダシタ

「僕君に非道(ひど)いことしないで!」

 聖女がホイミを唱えた。勇者は嘔吐している。

「ホイミじゃ、回復しない!?」

「聖女ちゃん、薬草では?」

 シータケの攻撃を()けながら戦士が叫ぶ。

 聖女は勇者に薬草を使った。勇者は嘔吐している。

「薬草もダメ!?」

 聖女ちゃんが悲鳴を上げる。勇者は嘔吐している。

「しょうがない。切り抜けるぞ!」

 戦士は連続切りを放った。会心の一撃!

 シータケBヲタオシタ

 シータケCハニゲダシタ

「恐ろしい敵だった」

 勇者がつぶやいた。

「とりあえず、町まで戻ろう」

 戦士の言葉に勇者は(うなず)いた。だが、状態異常バッドステータスが解けない勇者は移動の途中でHPを全損(ぜんそん)してしまった。


     *


「おお、勇者僕君よ。シータケごときにやられて死んでしまうとは情けない。ねえ、娘ちゃん。本当にこんな勇者でいいの? もっといい男いるんじゃないかな?」

 おじさん神父は聖女ちゃんを僕と別れさせようとしている。余計なお世話だ。

「シータケのレンチオニン攻撃に物理防御は効かない。魔法使いを仲間に入れるのだ」

 僕たちはおじさん神父のアドバイスに従うことにした。


「しょーがねえな。俺が仲間になってやるよ」

 魔法使い先輩が仲間になった。

「先輩……リア充に見えたのに……魔法使いだなんて……」

「職業としての魔法使いだから! (30歳童貞の)称号じゃないから」


 4度目の冒険は順調だった。スライムを討伐して地道にレベル上げをしてラストダンジョンに向かった。

 デロデロデロ~

 ボスシータケガアラワレタ。シータケガアラワレタ

 ボスシータケハスーパーレンチオニンヲホーシュツシタ

 シータケAハレンチオニンヲホーシュツシタ

 シータケBハレンチオニンヲホーシュツシタ

「うげぇぇぇっ」

 勇者ハ嘔吐シタ

「僕君、これを食べて」

 聖女ちゃんが途中の町でトル〇コの親父から買い込んだ薬草パセリを食べさせてくれた。勇者は回復した。一つ1万ゴールドも出した甲斐はあった。

「これでも喰らえ、メラゾーマ!」

 ボスシータケハエンジョーシタ。

 シータケAハケシズミニナッタ。

 シータケBハケシズミニナッタ。

 魔法使いハ賢者ニナッタ。


     *


 ラストダンジョン入りを明日に控えた僕らは手前の町オーイタで休息をとっていた。

 だけど僕は気分がすぐれない。ラストダンジョンから流れてくる瘴気レンチオニンのせいか、胸がむかむかする。

「大丈夫、僕君?」

 聖女ちゃんが気遣(きづか)ってくれる。

「栄養のあるモノ食べて今日はゆっくり休みましょう」

 彼女ちゃんに(すす)められて僕たちは食堂に入った。

「イラッシャイマセー! キョウノオススメハカレーダヨ」

 こういうときは香りの強いもののほうが気がまぎれる。僕らはカレーを注文した。

「うげぇぇぇっ」

 勇者ハ嘔吐シタ

「ワハハハハ、カカッタナ、勇者」

「お前は、カレーさん!」

「ドウダ、トクセイシータケカレーはウマイダロウ」

「カレーに椎茸を入れるだなんて……」

「なんて非道いことをしやがる」

「許せない!」

「おぇぇぇっ」

 シータケ四天王が一人カレーさんの卑劣(ひれつ)(わな)にはまった僕は状態異常バッドステータスのままラストダンジョンに向かうこととなった。


 ラスボス・キングシータケとの最終決戦はまさしく死闘(しとう)だった。

()()くせ、メラゾーマ!」

「ぬるい。ぬるいぞ。その程度の火力では美味しい焼き椎茸にはならんぞ。強い火力で表面を一気に焼き()めた後、遠火で中までじっくり火を通すのだ。さすれば表面カリカリ、噛めばじゅわとろの最高の焼き椎茸になるのだ。焼きあがったところにお醤油を3滴。これはもうたまらん」

 キングシータケが焼き椎茸の作り方をレクチャーし始めた。それって共食いじゃないのか?

 僕たちは追い詰められていた。僕たちの火力ではキングシータケを焼き椎茸にすらできなかった。戦士A子の真空切りはキングシータケの傘に十字の傷をつけたが、それは飾り切りにしかなっていない。僕たちの攻撃はキングシータケに通用しない。

 だが、僕には切り札があった。瀕死(ひんし)状態でしかだせない対シータケ勇者の必殺技だ。そのために状態異常のままラストダンジョンに乗り込んだのだ。僕のHPは残り1%を切った。

 今がそのときだ。

「必殺、起死回生! 喰らえ、逆転サヨナラ満塁ホームラン拳!」

「あっ、ダメ! 今、物理攻撃は……お(しる)()れちゃう……ぎゃあああああああーっ!」

 強敵だった。


「あらあら、せっかくよい加減(かげん)で焼けたのに……もったいない」

 やはり出てきた。隠れラスボス……お母さんだ。

「お母さん、無駄だよ」

 僕はもう今までの僕ではないのだ。お母さんの椎茸嫌いな子に椎茸を食べさせるぞ攻撃には負けない。だって

「僕はもう椎茸は食べないから」

「えっ……なんですって?」

 真のラスボスはダメージを受けた。

「おばさま、無理やり椎茸を食べさせようとするのやめてあげてください! 僕君だって頑張ったんです。でも、余計に(こじ)らせちゃって……かわいそうです」

 聖女彼女ちゃんが援護(えんご)してくれる。仲間がそれに続く。

「私だってパセリ食べられないけど生きているわ」

「そうだ。好き嫌いなんかあるものだろう。野菜なんか食べなくても死にゃしねえよ」

「ダメよ。野菜は食べなさい。いつか後悔するわよ。具体的には三十代以降に尿酸値(にょうさんち)となって表れるわ」

 お母さんは魔法使い先輩には(きび)しかった。


「母さん、もうやめないか」

 オトーサンガアラワレタ

「無理に食べさせなくてもいいんじゃないか?」

「嫌よ! だって私は椎茸を愛しているの。椎茸を残されると息子に母の手料理を否定(ひてい)されたような気持ちになるわ」

「私も母さんの作った料理のピーマンを残してしまった。()まなかった……」

「椎茸じゃないもの。構わないわ」

 ……ピーマンは気にならないらしい。でも、お母さんはお父さんの気持ちを理解したようだ。

子離(こばな)れしなければならないようね。さみしいわ」

「仕方ないよ。子はいつか巣立(すだ)っていくものだ」

 お父さんはお母さんの手を取った。今までも、そしてこれからも支えていくというお父さんの決意の表れだった。


 こうして悪の魔王キングシータケは倒された。


 僕たちはラストダンジョン前の町オーイタに戻ってきた。

「イヤ~ゴメンナサイデシタ。ワタシモ、レーセーニナッテカンガエタラ、カレーにシータケをイレルノハナイナとキガツキマシタ」

 僕たちはカレーさんの謝罪を受け入れた。本当に良かった。

 町の人々もシータケの洗脳が解けたようだ。世界は平和を取り戻した。


     *


「僕君、その夢の話はシリーズ化するの?」

 (ねむ)そうな顔をして彼女ちゃんが言う。ちょっと冷たくないかな?

「もう寝ましょう」

「それだけ?」

「まだ、何かあるの?」

「なにかって……いつも助けてくれてありがとう。夢の中でも助けてくれた」

 僕は彼女ちゃんを抱き寄せ、耳元で(ささや)いた。

 つまり僕は彼女ちゃんに感謝の気持ちを伝えたかったのだ。あの世界を席巻(せっけん)した壮大な物語はそのための前振(まえふ)りにすぎない。

「うん……」

 その気持ちだけは彼女ちゃんも素直(すなお)に受け止めてくれた。



 僕は椎茸が食べられない。でもそれでいい。

第30話は僕君の夢シリーズのお話でした。かの有名なゲームの世界で僕君はどんな活躍を見せたのでしょうか? 意味不明な技も出てきてついてこられない方もいらっしゃったかと思います。すみません。でも、所詮は夢の話ですから。……対シータケ勇者って何?


 このお話にはところどころで料理に関する記述が含まれます。全部とは言いませんがほとんどの料理は作者の体験済みです。シンプルに焼き椎茸は……もちろん幼いころのトラウマです。椎茸に関する内容の90%は作者本人が体験した実話をもとに書いています。私怨が込められているのでお見苦しい部分があろうかと思います。特定の地方の方には不快な思いをさせてしまうかもしれません。お詫びを申し上げます。温かい心でお目こぼし頂ければと思います。


 これにて第2章「僕と彼女の成長」編はおしまいです。次回からは大人になった僕君と彼女ちゃんや友人たちがどんな関係を築いていくのかを紹介する第3章「僕と彼女の未来」編をお送り致します。


 本作は毎週水曜日に投稿する予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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