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僕は椎茸が食べられない  作者: 灰色シオ
第2章 僕と彼女の成長
25/43

24.合コン

 僕は椎茸が食べられない。

 好き嫌いの問題ではなく、食べられないのだ。あのぐにゃとした歯ごたえでぐにゅっとした食感でぐじゅっとした後味のあの食材を。思い出しただけで吐き気がする。実際吐いてしまう。だから、僕は椎茸が食べられないのだ。


 このお話は、椎茸が食べられない僕君と何が何でも食べさせようとするお母さんの戦いの物語です。僕君を助けてくれる彼女ちゃん。なついてくる妹ちゃん。温かく見守ってくれる友人たち。そんな仲間とともに成長していく僕君。はたして僕君は椎茸を食べられるようになるのでしょうか。

 僕たちは大学生になった。

 ()()()生の彼女がいるとバレた時点で同級生や先輩から合コンの要求がひっきりなしだった。すべて断っていたけど、いつまでも断ってはいられない。「社交的な彼女じゃないから」ばかりでは彼女ちゃんがやばいヤツに思われかねない。

 相談したら彼女ちゃんから「お友達に聞いてみるね」と返事をもらえてほっとした。人見知りな彼女ちゃんにも大学で友達ができたんだ。高校時代、仲の良かったABC子と進路はバラバラになった。C子は同じ女子大だけど保育学部のC子と家政学部の彼女ちゃんでは学部が違う。どちらも実習が多い学部なので高校時代ほど頻繁(ひんぱん)には会えないようだ。


「無理しなくてもいいんだよ。断ればいいだけだから」

「大丈夫。(まか)せて」

 彼女ちゃんがそういうので心配しながらも僕は彼女ちゃんに任せていた。

 そして当日

「なんでA子がここにいるんだ?」

「てめえこそ、彼女ちゃんという彼女がありながら、なんで合コンに参加してんだよ。(しめ)るぞ、コラっ……」

 なんで同じ大学のA子が女子大側で参加してるのかわからなかった。しかも、〆られそうになるし。実際に首絞められたし。彼女ちゃんが止めてくれなかったら合コンは開催(かいさい)すら(あや)うかった。

「僕と彼女ちゃんが互いの友達を紹介するんだよ。だから実質3×3の合コンだよ。それより何でうちの学校のA子が女子大側で参加してるんだよ」

「そんなの勝手だろ。彼女ちゃんの友達が参加要件だろが。(うそ)は言ってないぞ」

「A子、合コン前に本性をさらけ出すものじゃないわ」

「僕君がいてよかった……怖いよ。もう、帰りたい……」

 4×4の合コンに彼女ちゃんが連れてきたのはABC子だった。それに対して僕が連れてきた(強引に合コンを要求してきた)のは小学校からの友達である二郎に中学校からの友人である三太、それにフットサルサークルの一年上の四也(よつや)先輩だった。

 幹事の彼女ちゃんとC子には彼氏がいる(彼女ちゃんの彼氏はもちろん僕だ)。C子に年下の彼氏がいることは知らないはずだが、高校からの知り合いの二郎と三太はドン引きだった。実質的に合コンしているのは四也先輩だけだ。ほとんど同窓会だね。


「君はうち(大学)の子だよね」

 A子を見た四也先輩が声をかけた。

「すいません。女子大のお嬢様じゃなくて。(同じ大学の)経済学部のA子です。なんで知ってるんですか?」

「俺も経済学部だから。君は目立つから……ごめん、俺のほうから名乗らなくちゃね。俺は四也。よろしく」

 うん。義理は果たした。2と3については知らない。フリーなBでも口説けば。


 僕の入っているフットサルサークルは先輩後輩のけじめが(ゆる)いアットホームなサークルだ。対外試合は積極的でなくほとんど仲間内でのミニゲームで過ごしている。サッカー経験者だけど大学の運動部ほどがつがつしたくない仲間が集まったお遊びサークルだ。それでも本当のサッカー好きが集まっているのでモテが目的の人はおらずちゃんと活動をしている。女子部員もいるけど男女差はない。一緒にプレイする。基本的には真面目なサークルなのだ。

 四也先輩は高校時代、強豪校でレギュラーを張っていた人だけど、大学では勉強に専念(せんねん)するために体育会には入らなかった。全国大会に行ったとは思えないほど温厚(おんこう)な人で大学でもモテる。本人には自覚がないようで彼女は作らないでいた。今回も女子大との合コンに参加者が殺到(さっとう)して僕が困っているのを見かねて立候補してくれた。四也先輩がどうしても合コンに参加したいと思っているとは考えにくい。

 そんなところも四也先輩は格好いいと思う。サムライブルーカラーのシャツにサマージャケットの姿はラフでありながら自分の好きなものに対する主張が込められていたし、清潔感とファッションがこなされているようで自然体だった。無理して女子受けを狙って恥ずかしい格好になった二郎や三太とは一線を(かく)していた。(ねら)ってはいないとはいえ僕も似たようなものだ。

 誕生日を迎えていない四也先輩を含めて全員が未成年だった。予約していたイタリアンレストランではノンアルコールで健全に盛り上がった。もちろん店選びでは椎茸が出ない店を僕が選んだ。


「そのサマーカーディガン、A子ちゃんが自分で()んだんだ。すごいね」

「そんな……売ってるものとは比べ物にならないです。あっ、四也先輩、サラダ、お取りします」

「ありがとう」

 合コンは四也先輩とA子を中心に進んでいた。

「僕の皿も空いてるんだけど」

「僕、俺が取ってあげよう。幹事ご苦労様!」

「二郎、やめろ! 気持ち悪い」

「僕君、わたしが取ってあげる」

「うがあぁぁーっ!」

「三太、うるさい!」

 もちろん外野は置き去りだった。

「C子、最近は彼とはどうなのよ」

「順調だよ。B子、気になる?」

「ならないよ」

 高校時代からの付き合いは相変わらず。

「僕、俺たちもう帰っていいか?」

「会費払ってくれたら、いつでも帰っていいぞ」

「ぼったくりだ」

「彼女ちゃんの友達を連れてこいって話だったから、約束は果たしたぞ」

詐欺(さぎ)だ……」

「3太、(あきら)めろ。人見知りの彼女ちゃんに女子大で友達を作れたかどうかは()けだったじゃないか」

 小学校から僕たちを知っている二郎が(くや)しがる三太を(なぐさ)める。

「二郎君、ひどい。わたしだって友達ぐらいできたんだからね。ただ、みんな彼氏がいて断られただけだから」

「「ぐはぁ……」」

 当然だろう。人気が高い女子大生ならば彼氏がいる率も高いだろう。彼女ちゃんのお友達がフリーになるタイミングを狙うしかないだろう。モテ(じょ)の眼鏡にかなうほどの男になれているかは君たちの努力次第だ。


 なんだかんだ言って二次会のカラオケまで全員が参加した。四也先輩とA子はアドレスを交換したらしい。

「なんでお前は一緒に帰ってくるんだよ」

 彼女との帰り道、同じ電車に乗っているA子に僕は突っ込んだ。二郎と三太はどうでもいい。

「四也先輩、格好良かった……」

 A子に僕の嫌味は通じなかったようだ。

「お持ち帰りされればよかっただろうに」

「そんな……今日初めて会ったんだよ。そんなはしたないこと……」

 恥じらうA子を見て全員がどうでもよさげな返答をした。

「「「「「あっ、そう!」」」」」


「はなからA子にそんな女子力期待していない」

 B子が辛辣(しんらつ)な一言を放つ。

「だってまだ水曜日だし、弟たちの明日のお弁当作らなきゃだし、朝ご飯だって……」

 そうなのだ。A子は忙しい両親に代わって妹弟の朝ご飯やお弁当を作っている。今日だって夕飯の支度(したく)を済ませてから出てきたのだ。

「A子がお弁当作り始めたのって中1からでしょう。妹さんだってもう高1だし、下の弟だって中2でしょう。一日くらいお姉ちゃんの代わりできるでしょう。できなくたってコンビニだって購買だってあるでしょうに」

 B子は嫌味で言っているわけではない。ただ、A子の幸せを願ってのことなのだ。

「わかってる。妹だって、それくらいできるって。弟だって一日くらい我慢してくれるって……でも、私ができないの。(まか)されたからにはちゃんとしてあげたいの!」

 小学校の頃から変わらない。責任感の強いA子は(たよ)り方を知らないのだ。

「A子……お前、まだパセリが食べられないのか?」

「……何のことよ」

 僕の問いに答える前にA子は彼女ちゃんを見た。あのときのことを忘れてないのだ。なら、僕の言葉は届くはずだ。

「自分一人で抱える必要はないんだ」

「……」

 A子の視線を僕は受け止めた。A子もその意図(いと)を理解しただろう。反らしたA子の視線に彼女ちゃんが優しく応えた。

「大丈夫。みんなAちゃんの幸せを願っているよ」

 B子もC子も、2、3も(うなず)いた。

「ありがとう」

 A子はみんなの思いをちゃんと理解した。


     *


 翌週のフットサルサークルの練習後、更衣室(こういしつ)で僕は四也先輩に話しかけられた。

「合コンの後、メッセージを送ったけど、ずっと返信がないんだ。迷惑だったのかな?」

 四也先輩は、誰からとは言わなかった。

「責任感の強い娘です。真剣に考えているからこそ時間が掛かってるんじゃないですか」

 ピコン!

 答えたのと同時に四也さんのスマートフォンのメッセージ着信音が(ひび)いた。

「見てあげてください」

 打ち合わせも何もない。彼女ちゃんからも聞いてない。それでも僕はあの娘(A子)からの返信だと確信していた。

「すまない。お先っ!」

 メッセージを見た四也先輩が(あわ)てて着替え、部室を出ようとする。その背中に僕は言った。

「彼女はパセリが苦手なんです」

 振り返った先輩は答えた。

「そうか……俺はセロリが苦手だ」

「それは彼女に言ってやってください。きっと喜びますよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

 僕たちに手を振り、四也先輩は出て行った。

「うまくいったようだな」

「うまくいくさ、きっと」

 確信をもって僕は二郎に答えた。



 A子は相変わらずパセリが食べられない。

 四也先輩はセロリが食べられない。

 でも、だからこそ二人はうまくいく。

 第24話は僕君が彼女ちゃんたちと合コンをするお話でした。僕君たちも大学生となっていました。いつの間に……だって受験ってあんまりいい思い出ないから、すっ飛ばしました。というわけで大学生編開幕です。といっても今回のメインはA子ちゃんなんですよね。見かけギャルっぽいけど家庭的でいい娘なA子ちゃんです。幸せになれよ!


 本作は毎週水曜日に投稿する予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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