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僕は椎茸が食べられない  作者: 灰色シオ
第2章 僕と彼女の成長
24/43

23.海

 僕は椎茸が食べられない。

 好き嫌いの問題ではなく、食べられないのだ。あのぐにゃとした歯ごたえでぐにゅっとした食感でぐじゅっとした後味のあの食材を。思い出しただけで吐き気がする。実際吐いてしまう。だから、僕は椎茸が食べられないのだ。


 このお話は、椎茸が食べられない僕君と何が何でも食べさせようとするお母さんの戦いの物語です。僕君を助けてくれる彼女ちゃん。なついてくる妹ちゃん。温かく見守ってくれる友人たち。そんな仲間とともに成長していく僕君。はたして僕君は椎茸を食べられるようになるのでしょうか。

「ふっざけんなーっ!」

 お兄ちゃんが(おこ)っている。怒っているというより激怒(げきど)している? キレている?

 まあ、とにかくこんなに怒っているお兄ちゃんを見るのは久しぶりだ。私が小学校1年生のとき、上級生に(から)まれていたとき以来かもしれない。お兄ちゃんは基本怠惰(たいだ)なのだ。

 お姉ちゃんはお兄ちゃんのことを落ち着いているとか優しいとか勘違(かんちが)いしているようだけど、妹の私は知っている。椎茸のこと以外でお兄ちゃんが感情を(あらわ)にすることは少ない。去年くらい……多分お姉ちゃんと何かあったんだと思うけどお兄ちゃんは少し変わった。いろいろなことに感情を見せるようになってきた。私はそれを好ましく思ってるけど人間の本質はそう簡単には変わらない。お兄ちゃんが感情を見せないのは落ち着いているからでもなく、優しいからでもない。ただのものぐさなのだ。

 そんなお兄ちゃんが激怒している。その理由は……やっぱり椎茸だった。


     *


 夏休み。そう、JKの夏休みだ。

 私は高校生になった。でも、私はお兄ちゃんたちとは同じ高校を選ばなかった。通学に小1時間ほどかかる学区で一番の進学校に入った。理由は空手部の先輩たちがいたからだ。

 「うりゃ」とか「おりゃ」とかばかりで頭悪そうに見える先輩たちだが、実は優等生だ。対人で戦う格闘技は()け引きも多く精神力がものをいう。つまりバカでは(つと)まらないのだ。私は道場での稽古(けいこ)終わりに先輩たちに泣きついて勉強を教えてもらい何とかぎりぎりで(もぐ)り込んだのだ。ちなみに同級生さん改め親友ちゃんは余裕で合格していた。


 というのは言い訳だ。お兄ちゃんを卒業した私は意地(いじ)でも一緒の高校に行きたくなかったのだ。意地になること自体、卒業しきれていないのかもしれない。そんなことはわかっている。でも、形からだっていいじゃない。お兄ちゃんとお姉ちゃんを間近(まぢか)で見ていたら決心が()らいじゃう。

 別に仲違(なかたが)いしたわけじゃない。卒業したってお兄ちゃんはお兄ちゃんだし、私は妹だ。だから一緒に海にだって行く。今日はお兄ちゃんとお姉ちゃんと3人で海に来ているのだ。

 付き合っているんだから2人で行けばいいのにって言ったんだけどお姉ちゃんが(さそ)ってくれた。そこまで言われちゃしょうがない。私だって本当は嫌じゃない。でも、お姉ちゃん後悔(こうかい)しないでよ。


 私が大きいのは身長だけじゃない。おっぱいだって巨乳と呼べるくらいには大きい(決して胸板が厚いからだけではない)。お姉ちゃんもバストサイズだけならいい勝負だけれどウエストは私のほうが3cm細い。空手で(きた)えた体は伊達(だて)ではないのだ。

 黒のハイレグビキニをお兄ちゃんは初めて見るはずだ。うっふ~ん。どうだ! お兄ちゃん。妹のセクシーボディに悩殺(のうさつ)されろ!

 あれっ? ……なんでお兄ちゃん、パーカーを羽織(はお)らせるの!?

(いも)ちゃん……背伸(せの)びしすぎだよ」

「……」

 まあ、兄としては妹の水着姿に欲情(よくじょう)しているところ見られたくないよね。そうだよね。わかるわかる……

「お兄ちゃんのバカーっ!」

 ()りをお見舞(みま)いした。

「妹ちゃん、なんでーっ!」


「せっかくかわいい水着を着てきたのに、ひどいお兄ちゃんだね。よしよし……」

 お姉ちゃんが優しく抱きしめて(なぐさ)めてくれた。

 ふんっ! いいもん。お姉ちゃんのおっぱいを今日は私が(ひと)()めしてやる!

 そんな私にお兄ちゃんがぼやく。

「妹ちゃん、痛いよ……」

 当たり前でしょ。中学で全国大会出場した私の渾身(こんしん)の蹴りなんだから。ジト目で見返してやる。

「僕君、そういうところだよ」

 お姉ちゃんもお兄ちゃんにダメ出しをする。

 5万人を超える夏のビーチにお兄ちゃんの味方はいない。(さわ)ぎに注目する周囲の視線は皆お兄ちゃんを非難(ひなん)している。「かわいい娘二人も連れやがって」とか「リア充爆発しろ」とか聞こえてくる。どうだ。これが世間の評価だ! 「なんであんなチビが……」という声には殺意(さつい)を込めた一瞥(いちべつ)(だま)らせた。


     *


 世間(せけん)を敵に回したお兄ちゃんを放っておいて私はお姉ちゃんを誘って海に向かう。

「きゃあ、冷たーい」

「お姉ちゃん、それーっ!」

「やったな。妹子(いもこ)ちゃん、仕返(しかえ)しだーっ!」

「きゃーっ……」

 神聖(しんせい)儀式(ぎしき)を行う。JKが海に来たらこれでしょ。


 ややおとなしめの白のワンピース水着がお姉ちゃんにはよく似合う。おっぱい大きいんだからビキニにすればいいのにと思うけど、()ずかしがり屋のお姉ちゃんはこれでいいような気もする。むしろそのほうが胸元(むなもと)強調(きょうちょう)されてエロいかも。

 水着姿を恥ずかしがるお姉ちゃんはとってもかわいい。でも、どうせお兄ちゃんは()めてくれないよね。ほんとに、そういうところだよ、お兄ちゃん!


 マシュマロボディのお姉ちゃんはどこもかしこも(やわ)らかそうで(さわ)りたくなる。

「えいっ!」

 実際に触ってみる。

「やだぁ、妹子ちゃんのエッチ!」

 本当に柔らかい。指が()もれそう。同じおっぱいなのになんでこんなに違うんだか……やばっ、鼻血が……


 波打ち際ですっかりエロ親父モードになっていた私たち(ごめんなさい。私だけでした。)はすっかり油断していた。お姉ちゃんはかわいいんだから……

「君たちどこから来たの?」

 声をかけてくる男たちがいた。

 大学生かな? 3人連れのチャラそうな男たちだった。金髪に浅黒い(はだ)。金のネックレスがいかにもだ。

「友達と来ているから……」

「友達って隣の()? いいじゃん。君もかわいいよ」

 彼女お姉ちゃんが(ことわ)っても男たちはしつこかった。

 それにお姉ちゃん。友達じゃないでしょ。友達じゃ!

「いいじゃん。お友達も一緒に遊ぼうぜ!」

「困ります……」

 嫌がるお姉ちゃんに男たちはなおもしつこく言い寄る。

 あの野郎! お姉ちゃんの腰に手をまわしやがった。

 それを見て私の理性はぶっ飛んだ。


「……いいよ。遊んであげる」

 イラっとした私が肩に回された手を打ち払った。

「おっ……その気になった? えっ、なに?」

「彼女、怒ってんの?」

機嫌(きげん)直してよ。かわいい顔が台無しだよ」

 相手の気持ちなんて全く考えてない能天気(のうてんき)なセリフに思わずビンタを食らわせる。でもそのくらいじゃ理解できなかったようだ。

 私は(こぶし)を上げ、腰を落として(かま)えをとった。

「なになに。やる気?」

「ちょっと、妹子ちゃん……」

 お姉ちゃんが止めようとしたけど私は本気だった。本気でイラついていた。

 私の目はごまかせない。男たちは(ほそ)マッチョを気取っているけど、筋肉はぶよぶよだ。日焼けだって日焼けサロンだろう。お呼びじゃない。

 本当の細マッチョというのは……

「僕の彼女と妹に何か用かな」

 そうこんな感じ……

「僕君……」

 それはお兄ちゃんだった。


 椎茸が主食のうちでは食べるものがなくてカロリー不足になっているお兄ちゃんは(たし)かに小柄だ。脂肪(しぼう)なんてつく余裕はない。でもサッカー部で(きた)えている。練習だけでなくトレーニングもしっかりやっている。短パンとストッキングで(おお)われない膝周(ひざまわ)りだけ日焼けした足は筋肉の(すじ)が浮き上がっている。上半身だって脂肪のかけらもない。腹筋なんかシックスパックだ。

 彼女お姉ちゃんと私をかばって前に立つ155cmのお兄ちゃんがなんだかとっても大きく見えた。私は思わずお兄ちゃんの背中にしがみついた。


「な……なんだよ」

 チャラ男たちが気圧(けお)される。

「僕の彼女と妹に何か用かな」

 お兄ちゃんがもう一度言う。大事なことだから2回言わなきゃね。

「な、なんだよ。彼氏いるんじゃねーか……」

「い、行こうぜ!」

「お、おう……」

 男たちは逃げるように去っていった。


「お兄ちゃん!」

 やっぱりお兄ちゃんはかっこいい!

「僕君、ありがとう」

「うん」

 お姉ちゃんもとっても(うれ)しそうだ。

 でもね、お姉ちゃん。ちゃんと彼氏がいるって言わなかったお姉ちゃんも悪いんだよ。

「妹ちゃん、むやみにケンカを売っちゃいけません!」

 なのに叱られたのは私だった。()せぬ……


 まあ、そんな感じで些細(ささい)なトラブルはあったものの私たちは高校生の夏を満喫(まんきつ)したのであった。


     *


「あーっ、遊んだーっ!」

「お腹すいたね」

 そろそろ帰ろうかという頃、着替えを済ませた私たちは小腹(こばら)を満たすため浜茶屋(はまぢゃや)で何か食べることにした。お姉ちゃんが作ってくれたお弁当はおいしかったけど、ほら……私ビキニじゃない。お腹いっぱい食べてポッコリするのはねえ……


「私、焼きそばが食べたい!」

「焼きトウモロコシがあるよ」

「僕はおでんにしよう」

 午後3時過ぎの出店(でみせ)はすいていた。それぞれ買い物を済ませて並んで食べる。うん! 焼きそばおいしーっ!


「ぶふぉっ……」

 突然、お兄ちゃんがおでんのおつゆを()き出した。

「僕君、どうしたの? (あつ)かった?」

 まさか……お兄ちゃん……

「ふっざけんなーっ! なんでおでんに椎茸入れるんだよ! バッカじぇねえのっ!」

 ああ、うん……やっぱりね。


 ……お兄ちゃん、本当にかっこいいかなあ?



 お兄ちゃんは椎茸出汁(だし)ですら食べられない。ついでにキレる……

 第23話は僕君が彼女ちゃんと妹ちゃんの三人で海に行くお話でした。ブラコンを卒業した妹ちゃんですが、立派な巨乳JKに育ちました。そんな妹ちゃんから見た僕君はあまり成長しているようには思えないようです。でも普通に考えて妹の水着が刺激的だと困りますよね。頑張れ僕君!


 このお話にはところどころで料理に関する記述が含まれます。全部とは言いませんがほとんどの料理は作者の体験済みです。椎茸出汁のおでんは……もちろん幼いころのトラウマです。椎茸に関する内容の90%は作者本人が体験した実話をもとに書いています。私怨が込められているのでお見苦しい部分があろうかと思います。特定の地方の方には不快な思いをさせてしまうかもしれません。お詫びを申し上げます。温かい心でお目こぼし頂ければと思います。


 本作は毎週水曜日に投稿する予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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