隣国の王子と秘密の出会い4
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二人のそばを離れたフィーナは誰に挨拶をするでもなく夜会のために解放されている中庭へと足を向けた。
会場の大広間の熱気が嘘のように外はひんやりとしていて気持ちがいい。
フィーナは池の端にあるベンチに腰かけるとポケットから先ほどの小瓶を取り出した。
月の光の下でもオレンジ色の液体がキラキラと輝いている。
思いがけず再会したジェイ。
まさか、隣国サランドの皇子だったなんて……。
記憶にある弱々しい少年はすっかり逞しい青年になっていた。
昔別れ際にされたお子様のキスを思い出して顔がにやけてしまう。
思い起こせばあれがフィーナの『初めて』だった。ジェイが去った後もしばらく動けずバクバクの心臓を落ち着かせるのが大変だった事を覚えている。
もう一度会いたいと思っていたのはフィーナも同じだ。
あれから何度か森に行っても彼に会えなかった。
実現はしなかったが、内緒と約束したジェイとの出会いを父に打ち明けて彼を探してもらおうと考えたほどだった。
「まさか、お隣の国にいたとはね……。」
幼い頃の淡い恋のような思いは流石に今はなくなってしまったが、ジェイの先ほどの発言が気になった。
『堂々と彼女を口説こうと思っています。』
あれは本気?
フィーナの悩みの種がまた一つ増えた。
◆◆◆
目が覚めると何やら屋敷がバタバタと騒がしかった。
いつもなら目を覚ますとどこからともなくやってくる侍女のマリカもいない。
フィーナは怪訝に思ってベッドの横にある窓のカーテンを開ける。すると早朝にも関わらす沢山の騎士たちが己の騎獣にまたがって空へと飛び立っていくのが見えた。
何か大変な事があったことは明白だった。
「お嬢様、起きていらしたんですね。」
「マリカ、なにがあったの?」
「領地で火災です。森が燃えているそうです。知らせが届いてから庭に集まっていた騎士たちは取り合えず身支度をして領地に向かいました。」
「お父様も?」
「はい、丁度先ほどお見送りをして来たところです。」
それでマリカの姿が見えなかったのかと、納得がいった。
一家そろってのお見送りが貴族の基本なのだがそれすらもする事なく出立するとはかなりの急を要する事態らしい。
「私もすぐに準備をします。」
自分もなにか手伝う事が出来るかもしれない。
フィーナは自分も領地へ向かうための着替えをマリカに頼んだ。
しかしマリカは動かない。
「お嬢様、今はおやめください。」
「なんで?」
「軍用の騎獣はすでに連絡用に待機させたもの以外はほとんど出払っております。お嬢様の馬車のために四頭の用意はできかねます。」
確かにフィーナは父達のように一人ではガラリスに乗ることはできない。馬車を四頭で釣り上げての移動は大がかりなものだ。そしてもし仮に四頭のガラリスを用意できたとしてもそれは、フィーナが使うべきではない。一人でも多くの騎士が現地に向かえばそれだけ領民の助けになるのは明らかだった。だからと言って馬車で陸路を行く事もできるが時間がかかりすぎる。まさに今こそ辺境伯の娘として行動したい時にフィーナは何もできない事に苛立ちしかなかった。
「奥様は火災にあった領地の者達のために支援物資を手配されています。其れのお手伝いをなさったらいかがでしょう?」
フィーナの気持ちを察してマリカが助言をした。確かに領地に行くだけが支援ではない。自分にできることをする事が先決だった。
「動きやすい服を頂戴。お母さまのところへ行くわ。」
フィーナはすぐに気持ちを切り替えた。