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隣国の王子と秘密の出会い3

ジェイと出会ったのはフィーナが九歳のころだった。

当時、屋敷に籠っている事がつまらなかったフィーナは人目を盗んでは甘い蜜を探し求めて屋敷の裏にある森に入っていた。図鑑でしか見たことがなかった花々や果物を見つけての日々はとても楽しく、多くの発見の毎日だった。



そしてある日、木の上にいる彼を見つけたのだ。


フィーナはある樹の前でじっと考え込んでいた。

前世でも見たことのある手の形のような葉、この樹液は甘いのだろうか?

流石にそのまま舐めたらお腹を壊すかもしれない。

そうしたら森に入ったことがバレて外出禁止。

……それはリスクが高すぎるので止めておこう。


本日の探検はこの辺で終わりっ、クルリと回れ右をして来た道を戻ろうとしたフィーナにか細い声が降ってきた。



「あの……降りられないんです……」



「え?」

声がした方を見上げると木の少し上の幹に男の子がしがみついていた。

「さっき遠くにクマが見えて怖くなって必死に木の上にのぼったんですけど、降りられなくなっちゃいました。」

流石に恥ずかしいのか照れ笑いを浮かべた少年は砦に住む騎士の子供だろうか?

だとしたらだいぶ情けないのだが。


「ここ、誰も通らなくてやっと貴方を見つけたんです。お願い一人にしないで…。」

「あのね、その高さぐらい飛び降りなさいよ。」


地上から1メートルもないであろう高さである。ちょっと足を延ばせすぐ地面に足がつくはずだ。

「こんな高さから飛び降りるなんて……できません!」

なぜか胸を張って宣言されてしまうと何と答えたら良いのだろうか?フィーナは仕方なく両手を少年の前に差し出した。

「はい、つかまって。何かあったら私が支えてあげるから、そう、そのまま片足づつ地面につけて。」

フィーナの手を掴んだことで安心したのか少年はそれでも慎重に片足ずつ足を下ろしていく。そして当たり前だが、何の問題もなく地面に到着した。


「ありがとうございます。貴方は命の恩人です。何かお礼をしなくてはいけませんね。」

丁寧に頭を下げられてフィーナは驚いた。

背の高さはフィーナと同じくらい、サラサラな髪からは良い匂いがした。身なりも簡素だが使っている生地がどうみても高価なものだ。

どうやらどこかの貴族の子供なのかもしれない。


「わたし、フィーナ。なら、ここに私がいたこと黙っておいて。怒られちゃう。それに貴方も女の子に助けてもらったなんてお家の人に言ったら恥ずかしいわよ。」

「そんなものですか?」

少年はとても不思議そうな顔をした。

「当たり前じゃない。男の子は強くなくちゃダメ。」

フィーナの周りはいつも強い騎士たちがいて彼女を守ってくれる。だから男の基準は彼らなのだ。


「だから、今日会ったことはお互いの秘密。二人で黙っていれば『証拠隠滅』よ。」


最近覚えたばかりの大人な雰囲気の単語を使ってフィーナはニッコリと笑った。

「私は、ジェイです。二人だけの秘密……そうですね。」

ジェイはそう言うとフィーナの頬にそっと触れる程度のキスをした。


「今度会う時まで、内緒ですよ。」

手をふりながら森の奥に消えていったジェイを見つめながら、フィーナは暫くその場に蹲っていた。




目の前のジェラルド皇子の顔をよく見るとあのころのジェイの面影がかすかに残っていた。

「大きくなったのね……それに綺麗。強くなった?」

ボー然としながら呟くとジェラルド皇子はフィーナの手をそっと引き寄せるとそのまますっぽりと身体ごと抱きしめる。

「ずっと会いたかったです。」

耳元でささやかれて頭の中が真っ白になる。

何とかこの状況から脱出しなければと思い直し、藻掻いては見たがジェラルドの体はピクリとも動かなかった。

これではゆっくりと話もできない。

「頑張って体を鍛えたので、それくらいじゃ逃げられませんよ。」

「……ジェイ恥ずかしいから、離して。」

ダメもとで小声でお願いをしてみたら少し力が緩んだ。すかさず彼の身体から抜け出して安全な距離を確保する。

「その言い方……卑怯ですよ。」

「?」

なぜかジェラルド皇子の顔がほんのりと赤く染まっていた。



「フィーナ嬢、貴方は誰とじゃれているのかな?」


背後から低い声が聞こえて振り返るとアレク殿下が冷めた微笑みを浮かべて立っていた。

「いつから知り合いなのかは聞かないが人目があるところで抱き合うのはご令嬢として、

どうかと思いますが?。」


「突然の出会いに、つい気分が高揚してしまったのです。マナーを外してしまったのは私であり、彼女は素晴らしいご令嬢ですよ。」

そっとフィーナの右手を握りながらジェラルドが皇子のキラキラとした微笑みを浮かべた。

「貴方と違って私には婚約者はいませんので、この素晴らしい出会いをきっかけに堂々と彼女を口説こうと思っています。」

フィーナが知らない隣国の王族『ジェラルド皇子』だった。

アレク殿下が小さく舌打ちをしたのが聞こえた。

「貴公がなにを言いたいのかわからんが、フィーナ嬢といつまで手を握っているつもりだ?」

二人の冷たいやり取りに居たたまれなくなったフィーナは慌ててジェラルトに握られていた右手を振りほどく。

一瞬ジェラルドが悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか?


「おいしいお料理を沢山いただいたので、私は少し他の方にご挨拶してきます。」

フィーナは二人を残してその場を去った。

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