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婚約者と手紙

「早まっちゃったかなぁ?」


机に並べられたカラフルな小瓶を眺めたフィーナは早くも後悔していた。

小瓶の隣にはそれと同 じくらいの量の手紙の束がある。


なにが『多少迷惑をかけるがよろしく』だ。


殿下が城に帰ってから半刻おきに呼び鈴が鳴り従者が手紙を置いていく。それがかれこれ夕方まで続いたのだ。


中身はフィーナの身を案じてくれた王都に住む数少ない貴族の友人。

それ以外は興味本位であろう名前しか知らないような家からのお茶会のお誘いだった。


かなり格下の男爵家からのお誘いに関してはお礼状をお返ししてしまえば良いのだが四大公爵家とそれにつながる伯爵家、子爵家からのお誘いについては母に伺いを立てたほうがよさそうだ。アマリア公爵家、サランドール公爵家、リスエット公爵家、それにラインハルトのクリスフォン公爵家などなど……これでは暫く領地に帰ることなど出来ないではないか。


「アマリア公爵家はイランダ様よね……。」


舞踏会で倒れられた姿を思い出して心が痛んだ。どう見ても殿下以外の好きな人がいる令嬢の演技には見えなかったけど本当なのだろうか?真偽はともかくやはり彼女とはなるべく早めに一回話さなければならないだろう。


「イランダ様は蜂蜜お好きかしら?」

フィーナは虹色に光る小瓶をツンツンっと人差し指でつついた。



その日の収獲とばかりに沢山の紙袋や小箱をお付きの使用人にもたせて帰宅した母にフィーナは事の詳細を手短に伝え、届けられた手紙を見せた。


「で、フィーナはどうしたいの?あのバ…じゃなくて殿下と結婚したい?」

「いきなりの申し出なので良く分かりません。」


辺境伯…上位貴族の令嬢の回答としてはありえない。通常なら二つ返事で『光栄です』が正しいだろう。でもそれが許されるのが王家の親戚筋にあたる当家のゆえんだ。アレク殿下いもそう答えれば婚約話をかわせるアドバイスされた


「まあね、子供のころ数回あっただけの間柄じゃね……。王妃のお姉様からも暫く放っておけって手紙が届いていたわ。」


母は話をしながら手紙の山を三つに分けていった。

一つは純粋な親睦関係にある貴族。

二つ目はアマリア公爵家など穏健派貴族。

三つめはサランドール公爵家など革新派貴族。


「そうね…ご招待を受けるなら殿下と関係のあるアマリア公爵家は絶対で、あとは革新派のリスエット公爵家とガランドル伯爵家。クリスフォン公爵家は久しぶりだし私も行きたいわぁ。」

「サランドール公爵家は行かなくて良いの?」

「だってあそこは男のお子様が三人いらっしゃるだけでしょ?それもちょっと素行に問題があるらしいのよぉ。伯爵夫人名義のお茶会かもしれないけど面倒なことになったら困るわ。その代わりに同じ派閥の中で比較的上位にあたるガランドル伯爵家に顔を出すのよぉ。」

母マリリスによる貴族の遊泳術はまだまだ健在のようだった。





「はじめてお目にかかります。フィーナ・ミュランナと申します。」


アマリア公爵家に着くとそのまま執事に先導され大きなサロンに案内された。

フィーナはその場の主賓であるイランダ様に挨拶をすると促されるままに向かいの席に座る。イランダ様の両脇にはおそらく彼女の『お友達』のご令嬢達がすでに座っていた。


「いらっしゃいませフィーナさま。今日は珍しいお茶が手に入りましたの。ごゆっくりしていってくださいな。」


メイドが運んできたポットから良い香りのするお茶が各カップに注がれていく。

それと共に運ばれてきたのは三段のティースタンドに並べられていたのは小さくカットされたサンドイッチや良い香りのするスコーンだった。


最初こそお互い緊張して言葉少なめではあったが、イランダ様は知識が大変豊富な方で様々な話題について話す事は大変有意義な時間だった。と、何やらあったらしく先ほどの執事がイライザを呼びに来た。

イランダはそっと中座の挨拶をすると足早にサロンから出て行く。

忙しいようならそろそろ帰ったほうがよいのかもしれない。それにあの話をするには人が多すぎる。


「丁度よろしいので、少し伺ってもよろしいでしょうか?」

「サリバン様いかがいたしました?」

スカーレット子爵のご令嬢サリバン様が少し硬い表情をしながらフィーナを見た。

「私、舞踏会にいましたの。殿下に抱えられている貴方様をお見掛けしました。」

お見掛けというか…たぶん誰もが知っている事実なのだと思われるがやっと本題に入ってくれたらしい。

「お恥ずかしいところをお見せしてしましました。あの日は長旅の疲れで気絶してしまったのです。ご挨拶途中だったので殿下が大変気を使ってくださったようです。」

真実の愛うんぬんの話は当事者以外聞き取れるはずがないのでそそこは端折ってフィーナは会場を縦断した事実についての言い訳をする。

「では殿下とはなんの関係もないと?翌朝フィーナ様のお屋敷から殿下がお乗りになった王家の馬車がお帰りになったとの目撃情報もごさいますのよ。」

どうやら会場からその後はずっと誰かに見られていたらしい。社交界は恐ろしい。

「大層ご心配いただいて、朝まで兄達と別室にて待機されたと聞いてわたくしも驚きました。」

事実なのでありのまま話したのだが、どうやらこの場のご令嬢たちは納得されていないようだった。

「じゃあ真実の愛ってなんなのよ!?」

我慢できなくなったのかサリバン様が声を荒げながら立ち上がる。


「もうその位にしていただけませんか?サリバン。」


静かな声が響いた。振り向くとイライザ様が立っている。

「確かに貴方に少し泣き言を言ったかもしれませんが、それを相手にぶつけて良いのは私だけだとおもっていますが違いますか?」

イランダ様は諭すようにサリバンに言った。にこやかなイランダ様の笑顔とは裏腹に有無を言わせぬ怒気が見え隠れしている。


「少し用事が出来てしまいましたの、せっかく来ていただいたのですが本日はこれで終わらせていただきます。」


それを合図にご令嬢たちは慌てて立ち上がると丁寧にあいさつをして出て行ってしまった。フィーナも立ち上がると帰宅の準備を始める。


「フィーナ様、お土産がございますので少々お待ちくださいませ。」


呼び止められてしまい顔を上げると先ほどとは違いすっきりとした笑顔のイランダ様がいた。

「先ほどはサリバンが大変失礼な事を言いました。友人として謝らせていただきます。」

「いえ、気にしておりませんので……。」

「殿下との件、もしフィーナ様が前向きにお考えならぜひその様になさってください。幼少のころからの付き合いですから、言い出したら聞かないのが殿下です。」

イランダ様はニコッと笑った。それが彼女の本心なのか、フィーナにはわからなかった。

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