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真実の愛と王太子3

改稿しました。

「フィーナ嬢、私と恋人のふりをしてくれないか?」


口に含んだ紅茶が飛び出さなかったことがせめてもの救いだった。


宣言道理フィーナを訪ねてきたアレク殿下は、椅子に座ってお茶を一口含むなりとんでもないことを言いだした。


兄達に残りの仕事を押し付けて来訪早々、二人きりになりたいと駄々をこねまくったあげく『嫁り前の令嬢と二人きりなど言語道断』と言い張った専属侍女のマリカに黙秘の誓いをさせてしぶしぶ扉の近くに控えさせながらであるが、ほほ二人きりの状況で殿下はそう提案してきた。


「正確には『俺はフィーナ嬢に求愛するが受け入れなくて構わない』だ。」


「あの……流石にちょっと、意味が分からなくなってきました。」


何か裏があるなと思ってはいたものの、想定の斜め上以上の事を言われると人間の頭の中は真っ白になるらしい。


そして、発言した当人は涼しげな表情で紅茶を堪能している。

憎らしいくらい王族だ。


「ここからは本当に他言無用の話だが、実はイランダには好きな人がいる。恐らく両思いだ。」


……目が点になった。


「俺としては幼い頃に決められた婚約者を好いてはいるが縛り付けたくはないのだ。」



すごいスキャンダルを聞いてしまった。


たしかに正式に結婚してしまってからでは流石に別れられないが今なら『婚約破棄』だけで終わる。


殿下曰く、そのためには王太子自ら真実の恋に目覚めて円満に婚約解消をすることが良いと考えたというのだ。


「で、なんで私なんですか?」


なんとか意味を理解はしたが一番重大な問題である。


フィーナでなくてもおそらく本当に婚約者になりたいご令嬢は掃いて捨てるほどいるはずだ。


母が王妃様の妹ということで幼少のころに数回会ったことがあるらしいが覚えていない。


物心ついてからは当然会う機会などなかったから、昨日の挨拶がほぼ初対面だ。



アレク殿下は一瞬ポカンとした表情をしてその後ふんわりと微笑んだ。


「まずは身分が丁度良かった。」


まあ、うちより高位は王族くらいしかいない。


だから父は相変わらず王様と少し話してそのまま領地に帰ってしまったし、今日も母に殿下が来ることを告げたら同席するともいわず、自分のお買い物に行ってきますと言われてしまった。


「更には辺境の領地からほとんど出てこないとう珍獣…神秘性もポイントが高い。」


何やら侮辱された気がする。


「そして小さくて可愛いのは俺好みだ。なによりも王太子の俺の事を好きじゃないだろ?」


母譲りのさらさらした青みのかかった黒髪と父親に似た大きな瞳が印象的なその容姿は自分で見ても可愛いと思う。


身長は計ったことはないが知り合いのご令嬢の中で自分より背が低い人を知らない。


騎士団の人たちの中では埋もれてしまっていつもラインハルトに迷子にならないように手をつながれてしまう始末だ。


それに、好きとか、そろそろ結婚したいとか……目の前の殿下はおろかどの男性相手にも今まで考えたことがなかった。


「まあ……そうですね。考えたことないです、好きとか。」


「こちらとしても暫く結婚するつもりもないから俺の事が好きでたまらないご令嬢のお相手はお断りしたいんだ。一年くらいしたら諦めて口説くのをやめる設定で考えているからその後はゆっくり領地で静養してくれ。」


一年間この王太子に追いかけられる?それも愛しているフリをされながら?

何の罰ゲームだろうか?


「……で、私にメリットありますか?」


普通の令嬢なら流されてしまったかもしれないがこちらは実年齢+現世の〇十年程の知識がある。流石に騙されない。


「このままいくと私は一年間どの男性ともお付き合いが出来ない上に、更には一年後王太子に厭きられた女、もしくは王太子との結婚を拒んだ令嬢ってことになるんですけど?」


そんな噂がたったらそれこそフィーナだけでなく辺境伯であるミュランナ家にも傷がついてしまう。


「大丈夫、その時には素晴らしい相手を紹介する。それとも本当に婚約するかい?」


アレク殿下に艶っぽく目を細められてフィーナは今朝のキスを思い出してしまった。


「それと……」


殿下は来訪時に従者に運び込ませた大きな包みをそっと開いた。


色とりどりの瓶詰めの中身は明らかにシロップ。


それもフィーナが見たこともないものばかりだった。


そして最後に出てきた大きめの瓶には虹色に輝く小さな蜜の塊が入っている。


フィーナの目の輝きが変わった。


「もしやそれは、あのクリスタルビーの!」


クリスタルビーは高地の山の頂に住んでいるという魔物で蜂に似て蜜を集める習性があるという。見た目は大きな鳩ていどだが集団で巣を作りその凶暴性はすさまじくほぼ採取不可能の蜜といっても過言ではなかった。


それは高地に咲く水晶ユリの蜜から出来ているといい、すがすがしい香りと共に程よい甘さをもっているという。


どんな紅茶に合わせた良いだろうか?


ああ、お菓子にも入れて見たい。


「あの…一口いただいても……?」


「瓶ごと差し上げよう。」

 

これが全部自分のもの!


「俺が通う一年間、集められるだけ多くの蜜をフィーナ嬢に持って来よう。良い取引だと思わないか?」


いつの間にかフィーナの髪を一房持ち上げてアレク殿下が口づけをし、ニッコリと微笑んだ。

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