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真実の愛と王太子2

少々改稿しました。

遅い朝食をいただいたのちフィーナは散歩もかねて庭にある騎士団の訓練場に出かけていた。


ミュランナ辺境伯家の王都の屋敷の敷地には小さいながらも森があり、それを少し切り開いて運動場を作ってある。


公務、私用にかかわらず砦の騎士たちが王都に来た時には、鍛錬の場に使えるように開放しているのだ。


ちょうど各自、愛馬の手入れしているところだった。


この世界では馬が移動手段の基本となっていて騎士団には個人に軍馬が支給されている。


そして更に、陸を走る馬のほかにも空を駆けるガラリスという四枚の翼の生えた生き物もいるのだ。


フィーナはその美しい生き物が大好きだった。


奥の水飲み場でひときわ美しく輝いた羽を持つガラリスを見つけ、フィーナはその主人のもとへ駆け寄る。


「ラインハルト!」


本当なら国境の領地で任務にあたっているはずの騎士団長にフィーナは勢いよく飛びつく。


フィーナより頭一つ分は背が高くそして騎士の誰よりも逞しいその身体はよろけることなく彼女を抱きしめた。


まばゆい彼の黄金の髪が朝日に輝いてキラキラとしている。


「フィ、昨日は大活躍だったな。」


笑いをこらえているのがはっきりとわかる。

自分を抱きしめるラインハルトの肩がプルプルと震えていた。


「……あの場にいたんだ?」


昨晩は自分の事で精一杯で周囲の参加者の事は全く見えていなかった。


「ああ、昨日は父の名代で挨拶だけのつもりで参加したんだ。」


ラインハルトは国境の砦で騎士団長をしているが、筆頭公爵クリスフォン家の二男でもある。


家督は長男が継ぐことが決まっているので現在は『無駄に身分が高いだけのお気楽な立場』で、フィーナが小さいころからずっとそばにいてくれた第三の兄的存在だった。


「昨日はフィが気絶なんて普通のご令嬢みたいな真似をするから驚いたよ。」


ラインハルトは抱きしめたフィーナを開放すると頭を優しくなでた。


「その後は、王太子が懸命に止める双子を無視してフィを抱き上げて……」


「なにそれ?知らない……」


当たり前といえば当たり前、意識を失っていたのだから当たり前なのだが、てっきり兄達のどちらかが自分をあの場から運んでくれたのだと思っていた。


「なんとあの広い会場のど真ん中をフィを抱えて颯爽と歩く姿は流石、我が国の王太子様だ。」


その上、すぐに会場に戻ってきて来賓の対応を卒なくこなしていたというのだから本当に鋼の精神の持ち主としか思えない。


「恥ずかしすぎる……」


まさか、そんな事になっていたなんて……きっと今頃王都のご令嬢達の間では噂が何倍にも膨れ上がっていることだろう。


「今や王国中の注目の的、フィーナ嬢だ。」


もはや我慢できなくなったラインハルトはあははと笑った。


ひとしきり笑い終わった後は近寄ってきた愛馬フィルの鼻を優しくなでる。


「で、どうするの?王太子妃狙うの?」


「バカなこと言わないでよ……もうじき二十一歳になるんだよ。」


普通なら十歳くらいまでに婚約者、十八歳の社交界デビューを待って婚礼、というのが最近のはやりの中。二十歳を超えて約束の相手もいない令嬢はすでに花の盛りを過ぎた残りもの扱いだ。


だからこそ不思議なのだ。

なぜ、そんな相手を選ぶ?


もちろん真実の愛とやらはまったく信じていない。


確かに家格だけなら釣り合うが、なにか違う気がする。


挨拶したとき殿下が少し寂し気な表情をしたのは気のせいだろうか?

昨日の彼の顔が脳裏のぼんやりと浮かんだ。


「行き遅れたら俺がもらってやろうかと思っていたけど心配ないかな~」


兄達と同い年ののラインハルトもそろそろ身を固めないといけない年頃なのに、まさかそんなことを考えてたのか。


てっきり数人いるお知り合いのご令嬢の中から本命を決めかねているものだと思っていた。


「《麗しのラインハルト様には各地にお付き合いしているご令嬢がいる》って噂知ってるよ。」


「あれはガールフレンドだ。」


胸を張っていいか自慢されてしまったが、一体何が違うのだろう?フィーナは持っていたクッキーを1枚ラインハルトの愛馬のフィルにあげた。


「気晴らしに空の散歩でもするか?」


嬉しそうに顔を摺り寄せてくる愛馬をなでてラインハルトはいつものように、フィーナを空へ誘った。


「せっかくだけど、午後のを準備しないと……っていうかそろそろマリカが来る。」


「う、マリカ姉さんがここにもいるんだ。」


実際に血縁関係があるわけではないが姉御肌の侍女のマリカをラインハルトはいつもそう呼んでいる。


噂をすれば庭に出る入口にマリカの姿が見えた。


「じゃ、じゃあ仕方ないな。おれは鍛錬でもしてくるから、午後がんばれよ。」


ラインハルトはフィルにまたがるとふわりと浮き上がり旋回してここより広い運動場へと帰っていった。


「お嬢様、とりあえずお茶になさいますか?それともコルセットになさいますか?」


「……コルセットでお願います。」


屋敷でゆっくりするはずが連日のドレス&コルセット装備……。

自分では支度ができないフィーナはトボトボと侍女の後ろをついて行くだけだった。

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