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真実の愛と王太子1

初投稿です

よろしくお願いします。

「いま、私は真実の愛を見つけたぞ!」


はあ?


フィーナは目の前にいる……なぜか頬を赤らめながら、誰もがうっとりと見惚れてしまうような微笑みを自分に向けてくる自国の王太子をボー然と見つめていた。


ちなみに今は隣国の王族との友好記念の舞踏会の真っ最中で一家そろって王家にご挨拶に来たところである。だから殿下の後ろで彼の父親であるこの国で一番偉い人があんぐりと口を開けている姿まではっきりと見えてしまう距離だった。


そして、きっとこの空間にいる誰もが同じことを考えていただろう。


《何考えてんだ、殿下……あんた婚約しているよね?》


……フィーナは今の王太子の言葉を聞かなかったことにした。


「殿下、初めましてミュランナ辺境伯の娘フィーナと申します。」


型通りの挨拶をし、ドレスをそっとつまみながら屈み込むとマナーのお手本のような美しく礼儀正しい姿勢で王族への礼をとる。


「アレク殿下、俺たちの妹ですからとっても可愛いくて聡明で、そりゃあ一目で惚れちゃいそうですけど……ちょっと早すぎ」

「殿下にはアマリア公爵令嬢イランダ様がいらっしゃいますでしょう?お忘れですか?」


普段から王太子の側近を務めている兄達が少々砕けた口調でこそっと殿下に注意をしたがその美しい顔は眉が一瞬だけピクリと動かしただけだった。


「イランダは大切に思っている。しかし今宵出会ったフィーナ嬢に運命を感じてしまったのだ。仕方なかろう?」


それと同時にアレク殿下の後方で美しい女性が小さくうめき声をあげた。そのまま側使いに支えられながら去っていく。



ああ……間違いなくアマリア公爵令嬢。



しかし、自分の婚約者が退席したということを気にも留めずに、アレク殿下は更にフィーナとの距離を縮めを腕を伸ばして来た。


「フィーナ嬢、お近づきの挨拶もかねてぜひファーストダンスを申し込ませてくれ。」


差し出された腕は均整の取れほどよく筋肉がついている大変自分好みではあったが……流石にこの状況は無理。フィーナはその先にある白い手袋の手を見つめてニッコリと微笑みを返すと両脇の兄達だけに聞こえる程度の音量で呟いた。



(お兄様達、フィーナは今から気絶します)



「「フィーナ!」」


両脇から支える手が延ばされた事を確認してフィーナは意識を手放した。




◆◆◆◆


国境付近に鎮座するミュランナ家は大きな屋敷のほかに辺境警備の騎士たちが出入りする砦を擁している。日々、隣国の脅威や近くにそびえる山々から時折飛来する魔物に備えるためだ。

もちろん王都にも屋敷を構えてはいるが日々騎士たちが忙しなく出入りして警備にあたっていることもあり責任者である父は余程の事がない限りは領地を離れることない。




今回の舞踏会への参加は王都で王太子の側近として日々働いている兄二人の帰郷が始まりだった。


「この招待状を王妃様より預かってきました。」


夕食が終わり久しぶりの一家団欒をサロンで楽しんでいると、カインが机の上に一通の封書を置いた。それは王家の象徴色となっているアジュライトと呼ばれる美しいブルーの刻印がはっきりと浮き彫りになっている真っ白な封書。



一目で王家からの書簡とわかるものだった。


内容は三か月後に開催される隣国の王族を迎えての舞踏会のご招待。

ミュランナ家は王国において最重要な防衛の一角であり、それ故家格もそれなりに高い。父は代々爵位を守ってきた由緒ある血筋、そして母はマティス公国の王族であり、ここドラミルス王国の現王妃様の妹でもある。


そのため当家には毎日大変多くの招待状やお誘いの手紙が届くが、到底すべてに対応できるわけがなく大部分は中身を改めた後丁重にお断りするのが当家の通常対応であった。

しかし、この招待状はそういうわけにはいかないことくらい誰もがわかっていた。


「お父様、お母さま、お兄さま達で行かれたらいかがでしょう?」


フィーナはいつもの様にお留守番を名乗り出た。王家への体裁を考えるなら別に一人くらいかけていても問題はないだろう。王都には珍しいお菓子もたくさんあるがフィーナからしてみれば養蜂のほうが大事なのだ。


家族皆の顔が『またか』というように揃って口をぽっかりと開けて彼女を見つめた。


「私はお父様達のように王都にあまり知り合いもおりませんし、用事もありません。蜂たちのお世話もありますから丁度お留守番役にはよいかと……」


「………。」



いつもならこれで難なく許可が出るはずの提案なのに、父も兄も渋い顔をしている。


「フィーナ、今回は一緒に王都の夜会へ行こう。お前の名誉のためだ。」

双子の兄たちの同じ整った顔が憐れむようにフィーナを見つめてきた。王都で仕事をしている兄達はフィーナについて最近残念な噂を聞いたらしい。


一つ、年頃になってもほぼ領地から出てくることはなく、虫ばかり集めている令嬢。


二つ、樹木の蜜さえもなめる野生児。


三つ、辺境からあまり出て来ないのは美しい兄達と比べられると見劣りする容姿が原因。



兄のカインとユランが王太子の側近として今後の出世を約束され、さらに母親譲りの美貌を垂れ流し、ご令嬢たちに大変人気がある事への《もてない男達のやっかみ》も多分にあるかもしれないが、嫁入り前の令嬢に対する噂としては控えめに言っても最低だ。


「黙っていればそれなりに美しいお前を夜会で披露すれば、すぐに噂はおさまるんだ。」


これでは妹を褒めているのか、貶しているのかいまいち良く分からない。フィーナは困ったように兄を見つめた。


「今回は、ユランに賛成だ。今年で二十一才だろう?このままではお前は噂の珍獣扱いのままだ。行き遅れならまだしも、珍獣好きが寄ってきたら困るだろ?」


もう一人の比較的常識人の兄カインまでもが、なんとも恐ろしいことを言ってくる始末だ。


「珍獣ってなによ?これでもご令嬢ですけど?」

二人とも大切な妹を思っての助言であることはわかっているがどうしてもその物言いが気に食わない。フィーナはムッとして兄を睨んだ。


「社交界デビューを過済ませた本物の令嬢は、虫など触らないものだ。」

すぐさまカイン兄に鼻で笑われてしまった。


「フィーナ、今回は家族そろっての参加を指定されているからあきらめなさい。」

今まで黙っていた父が諦めろとばかりに手紙を読ませてくれた。


【隣国との親睦を兼ねているため可能な限り家族全員での出席を願う】


定型の長文の招待文句が厳かにしたためられた文面の最後に手書き文字でわざわざ書き加えられた一文。いつも夜会に一家総出で出向かない我が家に向けての《念入りな》お願いらしい。ここまでされたら、ただの辺境伯の娘でしかないフィーナは降参するしかなかった。



「蜂ちゃん達のお世話、誰に頼もうかなあ。」


フィーナが領地に籠って『虫を集めている』と言われているのは強ち間違ってはいない。

正確に言えば蜂の世話をして蜂蜜を集めているのだ。



なぜかフィーナは幼少のころから甘いお菓子が人一倍大好きだった。



一人娘という立場もあってフィーナが欲しがれば可愛い娘にベタ惚れの両親はいろんな種類のシロップを集れてくれた。だからフィーナの周りにはいつも、きらきら光る、色とりどりの甘い匂いのシロップたちで溢れていた。


そんなある日、王都からお土産に父が持ってきた蜂蜜をなめた時、フィーナは突然自分に養蜂農家の前世があることを思いだした。今と比べると前世の生活レベルはかなり下がっていたが、いつも甘い蜂蜜に囲まれて暮らしていた日々が思い出され、ついでに前世で一度だけ味わったことがある幻の蜂蜜の味まで思い出してしまったから困ったもので……。


そこから先は思い出の味を求めて、うろ覚えの知識だが自作で作った蜂箱で養蜂まで始めてしまった。現世では蜂蜜はハチの巣から直接採取するものであり危険を伴い、大変な貴重品。それを人工的に蜂を飼育するというのだからはじめは大変気味悪がれたものだ。今でもフィーナ以外のものは極力蜂箱には近づかないが、出来上がった蜂蜜は皆喜んで食べるのだから現金なものである。



「世話って言っても、いつも観察日誌書いてるだけじゃん」

兄のユランが蜂蜜をスプーンで一匙掬って紅茶に入れた。


「それが大事なの!少しの変化でもすぐに対処しないといけないんだから!」

フィーナはわかってないなあと言いながらクッキーを摘まんだ。


「まあまあ、まあまあ、今回はお留守番の騎士見習の子たちに任せましょう」

母のマリリスは、甘い香りがする紅茶が注がれたティーカップにそっと口をつける。


「久しぶりの舞踏会なんだから新しいドレス作るわよ~」


テンション高めの母につられてフィーナも少し舞踏会が楽しみになった気がした。





◆◆◆◆



目が覚めたら王都の屋敷にある自分のベッドの上だった。



天井に見慣れた蜂みたいな模様を発見してフィーナはふわりと微笑む。慎重に体を起こしながらも、どこも痛いところがない事に心の中で兄達に感謝をした。


「お嬢様、おはようございます。朝までぐっすり眠られていましたね。」


倒れた後からずっと付き添っていてくれていたのか領地からともに来ていた侍女のマリカがティーポットを持って入ってきた。


「丁度お茶が飲みたいなと思っていたところよ?以心伝心ナイスタイミングね。」


お気に入りの蜂蜜をたっぷり入れた紅茶に癒されながらも、起き上がったとたんに現れた専属侍女の有能さに少しばかり怖さを感じてしまった。


「お嬢様が起き上がられたときに一口お飲みになりたいかと思い、紅茶を定期的に交換していたのですが……やっと飲んでいただけて光栄です。」


マリカの少し冷めた口調がフィーナにグサッと刺さる。


どうやらフィーナの考えていることは全て彼女に筒抜けらしい。


「お嬢様、お体はいかがですか?お加減が悪いようでしたら侍医を呼びますが?」


「結構よ、むしろゆっくり寝られてすっきりしたくらい。」

ティーカップをトレイに戻すとフィーナは、『んっ』と小さく伸びをした。


「それでは手短に湯あみをされて身支度をなされませ。先ほどから王太子様がお待ちでございます。」


「へ?」

すっかり気絶した原因の事を忘れていた。いや、考えないようにしていた。


「いるの?ここに?」

「はい、いますね。今朝早くから別室にて待機中です。」



……もう一度気絶したい。




☆☆☆


「アレク殿下、昨夜は突如倒れてしまい申し訳ございませんでした。」


身支度を整えたフィーナが目にしたのは、なんと別室で仕事をしてる王太子と兄達だった。もくもくと書類に目通しては決済をしていく姿は昨晩のおバカな王太子の面影は全くない。


舞踏会が見せた一夜の幻だったのだろうか?


「おはよう、フィーナ嬢。昨日は共に踊る事が出来ず大変残念であったな。しかし、今朝はこのように同じ空間で朝を迎えられていることを大変うれしく思っているぞ。」


ひと段落ついたのか手元の書類をケースにしまうと、殿下はフィーナに蕩けるような笑顔を見せた。そしてそのまま立ち上がるとフィーナの手を取りそっとキスをする。



「お、おやめください!」


フィーナは反射的に手を後ろに隠してしまう。キスされた手の甲がとても熱い。その熱が頬にまで伝染してきたのがわかる。



「フィーナ嬢はとても可愛らしい女性だな。」


アレク殿下は人差し指を唇に当てて、いたずらが成功した子供のように微笑んだ。ついその長い指に視線が釘付けになる。


世のご令嬢の九割があこがれてやまない存在。


絵姿はどこかで拝見したことがあったが実物はやはりオーラがちがう。昨夜のおバカ発言さえなければフィーナもきっとその九割の仲間入りをしていたことだろう。


「殿下、俺たちがいること覚えてますか~?」


ユラン兄の呆れた声でフィーナは我にかえった。


「アレク、フィーナ相手に無駄に色気を振りまかないでくれないか?」

「せっかくフィーナ嬢が私を意識しようとしてくれているんだ。邪魔をしないでほしいな。」


殿下はカイン兄の冷たい突っ込みをサラリとかわしてポケットの懐中時計を取り出し時刻を確かめると少しだけ顔をしかめた。


「そろそろ帰らないと、隣国の使者との会議に間に合わないな。」



やっと帰ってくれるらしい。フィーナは心なのかでほっと息を吐いた。


「お昼には終わらせるから、午後にまた来る。良いかな?」


えっと疑問形で尋ねられてきていますが……断る権利あるんでしょうか?

決定事項ですよね?


「では、ティータイムの準備をしておきます。」

フィーナの返事を満足そうに聞いて、アレク殿下は満足そうに頷くと兄たち二人を引き連れて王宮へと帰っていたのだった。


◆◆◆◆


「殿下、会議なんて予定入っていましたっけ?」


王宮に向かう馬車の中でユランは向かいに座るアレクに向かってそう質問した。


王太子の予定は側近の自分たちが全て知っているはずなので本日の予定は書類仕事だけだと把握していたつもりだった。だからてっきりあのままフィーナにまとわりつくのかと思っていたのに

なんであんな噓をついたのだろう。


「フィーナ嬢にまだ少し疲れが見えていたからな。私がいたらゆっくりできないだろ?」

そんなこともわからないのかと言ってアレクがクスっと笑った。


細かい気遣いは殿下の美点の一つだが……じゃあなぜ午後にまた会う約束をした?


「せっかくなので溜まっていた決済書類に全て目を通していただきますね。」

カインが冷たく笑った。

次回、もう少し頑張ります。

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