アリとキリギリスと、翔太のお菓子とお味噌汁
翔太が食べた後は、汚い。
味噌汁は、床に散り、デザートは、ボロボロとこぼれている。ポチは、それをよく知っており、死ぬ間際まで、座る場所は、翔太の真下と決めていた。
それでも、ポチが死ぬまでは、床は、きれいであった。全てをポチが舐めとっていたからだ。
そして、今日の夕食の後の床は、この冬最大の汚れ方だ。
味噌汁は、散っているのではなく、こぼれているという表現が正しいだろう。そして、食後の甘いお菓子が、ボロボロと、床に広がっていた。
☆彡
キリギリスは言いました。
「冬なんかまだまだ先じゃないか。
なんで、今から冬の心配なんかするんだ?」
アリは、答えます。
「冬が来たら、食べ物はなくなってしまいますよ。」
キリギリスは、笑います。
「ははは。今から冬のことを考えるのかい?
それに、あの川を渡るのは 大変だよ。」
そうなのです。先ほどまでなかった味噌汁の川が、アリの巣穴への道を塞いでいるのです。
「大丈夫です。働きアリですから。」
アリさんは、お豆腐をよけ、ワカメの森を抜け、タマネギを乗り越え、必死でお菓子の欠片を巣穴に運びます。
キリギリスさんは、アリさんのことを可哀そうに思ったので、持っていたバイオリン・ストラディヴァリウスで、アントニオ・ヴィヴァルディを弾いて応援しました。
どれほどの時間、演奏は続いたでしょうか?
チャイコフスキーの弦楽セレナード ハ長調 作品48 第1楽章が終わりに近づいたころには、日も暮れ、辺りは暗くなり始めていました。
アリさんは、せっせとお菓子を運びます。
疲れたキリギリスさんは、言いました。
「じゃ、ボクは帰るね。アリさん、頑張れっ。」
その時です。二人の頭上に、流れ星がひゅんと流れました。
キリギリスさんは、願います。
「明日も、楽しく遊んで暮らせますように。」
アリさんは、願います。
「慎ましくて良いので、幸せな暮らしを。」
やがて、雪つもる 冬がやって来ました。
もう、外には、食べ物はありません。
しかし、キリギリスさんは、その美しいバイオリンの音を評価され、コンサートツアーで大忙し。
そして、アリさんは、今日もお菓子を運びます。
冬になっても、翔太君の食べ方は、汚いまま。床には、お菓子が落ちていたのです。
味噌汁の川は、前より深くなり、今日は、油揚げまで落ちています。
障害物をよけながら、巣穴へ。
アリさんの頭上には、星が、キラキラと 瞬たきます。
夜空には、どこからともなく 美しいバイオリンの音が響くのでした。
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こちらは『冬の童話祭2022』用、超短編小説です。
くわえて、こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。