陽はまた昇る
お題を出していただいて、書くお題小説。今回は、
お題『陽はまた昇る』
です。
「大丈夫、陽はまた昇る。明日はきっといい日になる」
その映画はそんなセリフで終わった。映画館のロビーに座る。明日か。
僕の明日なんて希望のないものだ。
僕が家に引きこもって一年。
人生を変えてくれると評判のその映画。人生をなんとかしたくて、僕は必死の思いで映画館までやってきた。
でも何も変わりそうにない。無意味な行動だった。
がっかりしながら家路につく。
僕の人生は映画とは違う。僕はヒーローでもないし、助けるべきヒロインとのロマンスもなく、人生を変えてくれる友人やライバルも現れない。
ただただ、静かに時間は流れていき、僕はゆるやかに死へと近づいていく。
むなしい。
人生になんの意味があるのだろう。せわしなく行き交う人々が、僕と違い輝いて見えるのも更に憂鬱にさせた。
彼らは僕がこんなものさと達観する、人生というものを楽しんでいるように見える。僕の価値観にはないそれがうらやましくてしかたがない。
そんなことをつらつらと考えながら、僕は家の玄関のドアを開く。
母がすっとんできた。
「あ、あんたどこ行ってたの。」
「どこって映画を見に・・・」
「・・・あんたが部屋を出るなんて夢みたい。いったいどれくらぶりなんだろう。」
「そんな大げさな。」
「ううん。頑張ったね。お母さん本当に嬉しい。」
そうか。
僕は確かに映画のヒーローじゃないし、ドラマチックな人生を生きてるわけでもない。
けれど、身近な人を少しだけ幸せにすることはできるようだ。
そのことは僕の人生をちょっとだけ変える気づき。
「大丈夫、陽はまた昇る。明日はきっといい日になる」
僕は映画のそのセリフをつぶやいてみる。