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008続バケモノ

 タクミはその光景を見た。


 それは宙に浮いていた。

 何本もの先の尖る細長い竹がそれを串刺しにしている。

 表面を覆ているのはもぞもぞと蠢めく大量の虫達だ。

 そしてそれの頭があるはずの場所には何もついていない。


 タクミはただ静かにその光景を見つめる。

 飛び回る羽虫のノイズがタクミの脳にやけに響き続けた。



『オイ』



 クロガネの言葉にタクミは我に返る。


『行くぞ、獣が寄ってくる』

『……うん』


 タクミは踵を返しその場を走り去った。


 それから暫くの間タクミは何かを考えるように無言で歩を進める。

 そして心の整理がついたのかクロガネに話しかけた。


『あの人に何があってあんな風になったかわかる?』


 クロガネは少し考え込んだ後、回答する。


『前に近づくなって教えたやつがいくつかあったろ。あの槍竹はその一つだ。あれを踏んづけたら幹が高速で伸びてきて踏んづけたやつを貫く。それを運悪く踏んじまったんだろうよ』


 タクミは改めてこの世界に生きる生物の恐ろしさを理解する。

 この世界では植物でさえ人を容易に殺害しえる存在なのだ。


『頭がなくなってたのは?』


 槍竹に貫かれただけなら頭部だけが消えるようなことにはならない。

 虫が先に食い尽くしたという線も考えられるが骨の多い頭部を体より先に食い尽くしたというのは不自然だ。


『獣が頭だけ持ち去ったんだろうよ。匂いは掴めなかったが獣の通った痕があった』

『どうして獣が頭だけを持っていくの?』

『獣が欲しがるのは頭の中身ダ。人の脳はこの世界で最高性能の演算装置だろうからな。今頃取り込まれて体の一部になってるだろうよ』


 自分の脳が獣の体の一部にされるのを想像したタクミへ言い表せない不快感が押し寄せてくる。


『僕も狙われる側か』

『アァそうダ、だから肉食獣の活動域は避けてる』


 これまで万事上手くいっていてクロガネの力があればどうにかなるとタクミは思っていた。

 しかしそれは過信であったとクロガネの言葉を聞き理解する。

 クロガネはリスクを避け、勝てると判断したモノにだけ接触していたのだ。


『クロガネ、人には限界があるのかな?』

『……質問の意味がわからねぇ』


 タクミの問にクロガネはこれまでで初めてイラつきのような声色をみせた。

 それを聞いてタクミはとても怖くなる。

 何か返答しようとするが言葉が出てこない。

 何をそこまで恐怖しているのか、タクミ自身でさえわからない。


 そんな逡巡を見せるタクミにクロガネは声を大にして叫ぶ。


『お前に自覚が無いようだから言うゼ。人が弱ぇと思ってんならオレはさっさと乗り換えてんだよ! 大きくもない力もない武器になる部位もない。だがなそんなものは必要ねぇと捨て置き、知能とそこから生み出し続ける道具を無限に研鑽した結果生態系の頂点へ至ったモノ。……だがまだ足りねぇと、あろうことか同族同士で殺し殺し殺し殺し殺し殺し!! 終には馬鹿みたいに強すぎる武器を創造しちまって戦えなくなった意味不明ダ!』


 クロガネは興奮を隠せない様相で言葉を捲し立てる。


『タクミ。最初はなぁ次の宿主を決めるまでの仲介のつもりだったんダ。だが脳を覗いた時、尋常じゃなくやべぇやつに入っちまったって気づいた。そしたら思い付いちまったゼ。オレがこの体を強くすりゃもっとやばくなんじゃねぇかってな!なぁオイ堪らねぇだろ?』


 それはタクミが自覚していても考えないようにしていた疑問への回答だった。


 ”他の生き物に移らないのは何故か?”


 タクミはそれをクロガネにずっと聞けなかった。

 怖かった。

 怖かったのだ。

 今でさえ理由はわからない、ただ怖かった。


 だがそんな問いに対する十分な回答をクロガネはタクミにくれた。

 タクミは伸し掛かっていた重荷が消えたように体が心が軽くなったのを感じる。


『だがまぁ今のオレ達は弱い。だがそれは”今”の話だ。いづれやべぇやつらを討ち倒す日が来る。それまではひたすらに地を這い身を潜め成長し武器を作り研鑽し続けるゾ。それが”人”のやり方だろ?』

『ああ、そうだねクロガネ。それこそが”人”のあり方だ』


 そう言ってタクミ(クロガネ)は笑った。

本物のバケモノとは人である。

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