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022帰路

019岩龍族の衣装を変更しました。

 我に返ったタクミが顔を上げると箸を進めつつ微笑みながら此方を見ているリンネたちの姿が映った。

 隣へ目をやるとミハが一心不乱に箸を動かし頬を膨らませている。

 ナノカはにかっと笑いながら言う。


「そんなに美味しそうに食べられると作ったこっちまで嬉しくなりますね!」

「とても美味しかった」

「にひひ~」


 タクミの回答にさらに気をよくしたナノカは満面の笑みを浮かべる。


「リンネたちはいつも三人で狩りをしてるの?」

「否、狩猟に出るなら後二、三人は必要だろう。我らは成人の儀として強者(つわもの)討伐の試練を課されたのだ」


 タクミは目を輝かせ詳細を催促する。


「今年で成人の年であった者の中で我ら三人は徒党を組んだ。村を出立し森を巡ること数龍期。この刃蜥蜴(ギャラナ)と遭遇した。もし刃蜥蜴の首級を持ち帰ったなら満場一致で試練の達成と見做される。我らは奴に挑み死闘の末、死の淵まで追いやった」


 そこで一度区切り声のトーンを落とした。


「だが奴は最後に決死の覚悟で攻撃を仕掛け、それは単身で前衛を張るシイに直撃した……」


 シイは編まれた髪を揺らし目を伏せる。


「さらに刃蜥蜴は仕留めた直後に巨大睦五郎漁夫(ヌマナダ)の群れに囲まれた。忌々しい事だが一方が息絶えるのを待ち強襲を掛けたのだろう。それからはタクミ殿の知る通りだ」

「命懸けの試練なんだな」

「嗚呼、毎年帰らない者がいる。助太刀が無ければその者等に並ぶ所であった」


 リンネは覇気の無い眼差しで虚空を見つめる。

 そんな柄に無い様子のリンネにナノカが抱き着く。

 リンネはナノカの突然の行動に虚を突かれるがもう大丈夫だと言うようにナノカの背中を叩く。


「すまない。少し感傷に浸っていた」


 タクミはこくりと頷く。

 リンネの様子に並々ならぬ何かを感じ、気になりはしたが詮索することはしなかった。


 それから暫く会話を弾ませているとタクミの肩にふさふさとした感触が触れる。

 食事を終えたミハが今にも閉じそうな目でタクミに体を預けている。


「タクミ殿も眠ると良い。哨戒は我らが交代で行う故案ずることは無い」

「わかった」


 タクミは丸めていた寝袋を広げる。

 リンネたちはその様子を驚き半分物珍しさ半分という目で見ている。

 ミハを抱き上げ寝袋に入る。


『クロガネ、何かあったら』

『何かありゃどうにかする。心配いらねぇからさっさと寝ろ』


 その言葉に安心したタクミは目を閉じる。

 ゆったりと揺れる船上がまるで母親の腕の様に眠りへと誘う。



 ――タクミの意識が覚醒する。

 タクミの首に頭を擦りつけるミハを抱えて起き上がり寝袋を剥ぐ。

 小舟はかなりの速度で広い川を上流へと進行している。


「目覚めたか」


 タクミは声の方向へと目を向ける。

 リンネたちの衣装は昨日の戦闘後の汚れた物から綺麗な物に改められていた。

 泥に濡れていた体も洗浄され結われた髪は黒色の光沢を帯びる。

 そんなリンネたちの視線はタクミの背に腕を回し恍惚な表情を浮かべるミハに向いている。

 意味深気な口調でリンネは独り言の様に呟く。


「随分と幸せな壊れ方だ……」


 タクミはその言葉の意味を理解できなかったが特別気にすることはなかった。

 それよりもタクミの意識は小舟を引いている黒毛の生物にいっていた。


「あの生き物って昨日いたか?」


 そう言うとナノカが自慢気に言う。


「あの子は川熊(カワグマ)のカワマルだよ!熊飼(クマガイ)家の川熊の中で一番早いんだよ!熊飼ってのは私の家名」


 口調はペットを友達に自慢している子供のそれである。

 ナノカはタクミたちが寝ている間に解体されたのであろう巨大睦五郎の肉塊を切断しカワマルの方へと放り投げた。

 カワマルは口で肉塊をキャッチし嬉しそうに喉を鳴らしながら租借する。


「カワマルは臆病だから昨日は安全なところに隠してたの」


 ナノカとカワマルの仲睦まじい姿にタクミの頬が緩む。


「ねぇねぇ、私からも質問いい?」

「僕に答えれることなら」


 昨日今日の仲の筈だがぐいぐいと来るナノカの様子にタクミは若干気圧される。


「巨大睦五郎を切り裂いてた黒刀って何でできてるの?」

「ナノカ、少々馴れ馴れしいが過ぎるぞ。……しかしそれは私も気になっていたことだ。無理強いはしないがタクミ殿が構わないのであれば教えてほしい」


 ナノカの態度にリンネの叱責が飛ぶが彼女自身も黒刀の素材が気になっている様子だ。


『クロガネ、教えると不味い?』

『いや、オレの存在さえばれなきゃ他はどうだっていいぜ。後は自分で判断しな』

『わかった』


 タクミとクロガネとの会話の間がタクミ以外の者には思考いるように映る。


「教えるのはいいけど説明が難しい……。物凄い切れ味の糸を張る赤黒の蜘蛛ってわかる?」

「嗚呼、恐らく断世蜘蛛(タチセグモ)の事だろう。実物を拝んだ事は無いがその存在は有名だ」

「この剣は断世蜘蛛の前脚と糸で作った」


 タクミは何でもないような口調で言う。

 だが、リンネたちはその言葉を飲み込めず沈黙が場を支配した。

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