001トゥルーエンド
処女作です。
形の疎らな黒い斑点が散らばる白い天井が視界を埋めている。
部屋に響くのは僕の動悸と同期する無機質な機械の反復音。
純白の衣を纏ったこの体には幾重にも交差するチューブが連なる。
四肢は骨の形が浮き出るほど痩せほそり簡単に折れてしまいそうだ。
自力で呼吸すらできなく、生きるためのほとんどの仕事を隣に横たわる歪な金属塊に任せきりだ。
己の心音が頭に響いている。
それはまるで徐々に力を失っているかのようだ。
この体を恨んだことはない。
それは己を生んだ両親を責めるのと同義だ。
だがどうしても考えてしまう。
映像でしか見たことのない深緑の草原を広大な砂漠を煌びやかな海を己の力で地を踏みしめ、砂を蹴り、海水をかき分けてみたかったと。
ずっと前に諦めていたはずの願望が欲望が終わりの時を目前に溢れ出す。
まだ終われない、終われないのだ。始まってすらない。
ぐちゃぐちゃの感情が心を埋めつくす。
気づけば涙が溢れていた。
担当医に僕は10年生きられないと宣告された。
だから皆の一生分を頑張って10年間の内に生きようと思った。
……迎えるはずのなかった10歳の誕生日。嗚咽を漏らす両親に抱きしめられた時に初めて流した涙。一生消えることの無い思い出。
それ以来の人生二度目の涙だった。
ああ、それなのに……
そんな思いでまで塗り潰すような感覚が全身を襲う。
底冷えするようで確かに感じるのに形の無い恐怖に。
考えたくもない死の恐怖が、終わりを目前に心を貪り食う。
胸が酷く痛む。
全身が強張り痺れが駆け巡る。
嫌だ……
嫌だ嫌だ……
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だよ……。
なんで僕だけがこんな目に合わなければならないんだ、なんで僕だったんだよ。クソみたいな理由で死んでいく人々を大勢見てきた。なんでそんな簡単に命を捨てられるのか、なんでそんな簡単に諦めるのか。生きたいのに生きることのできない命があるのに、叶うなら人生を替わってほしいと何度。僕が君が僕が貴方が僕が僕が僕以外が僕がが生きて……。
僕は……まだ……。