表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/29

本当に宝石!? やったね! はいはい気をつけます! えっ、魔法!?

「いくのニャ! ミカンキャッチチャレンジニャ! 準備はいいかニャ?」


「バッチリ! いつでもいいよ!」


 ピッと眉を上げて、ドングリが構える。

 ミケランジェロが、ミカンの小袋を放り投げた。

 小袋がゆっくりと放物線を描き、ストンとドングリの口に――入った。


「やったね! ナイスコントロール! おいしーい!」


「ドングリがお上手だからなのニャー! ニャイスキャッチニャー!」


「おい、何をしてるんだ、お前たち。食べ物で遊ぶんじゃない」


 部屋に入ってきたクーンが注意をする。


 ここはニャンブルヘイム5階。

 クーンの部屋だ。


「あ、来た! せっかくわたしたちが仕入れの報告に来たのに、クーンさんがなかなか戻って来ないから、ミカンを食べて待ってたんだよ。はい、どうぞ! ミカン!」


「ああ、もらおう」


 クーンが肉球で器用にミカンをむいて、口に放り込む。


「うん、ミカンだな。普通のミカンだ」


「ニャーも食べるニャ」


「わたしも!」


「で、お前たちはこのミカンを仕入れてきたというわけか」


「そうニャ。まだまだあるニャ!」


 ミケランジェロとドングリが協力して、リュックから次々とミカンを取り出す。

 すぐにクーンの机の上が、ミカンでいっぱいになった。


「これはまた……たくさん採ってきたな」


「がんばりましたニャ」


「ねー! これだけ集めたら、どれくらいの値段になるのかな? 結構すごいんじゃないかな! ワクワクするね!」


「楽しみだニャー!」


「いや、量は多いがミカンだからな……。これ全部で150マアルくらいだな」


「ええ? ええ……? それだけ……?」


「ニャアン……」


 ドングリの眉が八の字になり、ミケランジェロが耳をぺたりと伏せる。


「いや、初めて仕入れに行ったわけだからな。こんなものだ。落ち込むことはない。ちゃんと仕入れて戻ってきたということに意味があるわけで――」


「あっ、話が長くなりそう! そうだ! ミケちゃん、あれは? あの石!」


「そうニャ! クーンさんに見てほしいものがあるニャ!」


「何だ? ほかにもあるのか?」


 ミケランジェロが、リュックから石を取り出す。

 クーンは首をひねりながら受け取った。


「これ、きれいな石だったから持ってきたの! もしかして宝石じゃないかな!?」


 クーンは返事をしない。

 机の引き出しを静かに開ける。

 メガネを取り出し、かける。


 真剣な表情で、石を見つめる。

 肉球の上で傾けて、じっくりと観察する。

 瞳孔が縦に、細長くなる。


「ねえねえ! 宝石かなあ? ねえ! ねえ! ねえ!」


「……」


「宝石じゃないとしても、きれいな石なのニャ。置物とかに使えるんじゃないかニャ」


「それ、いいかも! きれいだし、すべすべしてて気持ちいいし! 家に置いてあったら、ずっと撫でていられるね!」


「すりすりして匂いをこすりつけたいニャー!」


「いや、待て」


 クーンが顔を上げた。

 そっと石を机に置く。


「これは宝石だ。ヒスイと呼ばれている宝石の原石だ」


「本当に宝石だったのニャ!?」


「やったね! すごい!」


「お手柄ニャー!」


 ふたりが飛び上がって喜ぶ。


「たまに見つかると聞いたことはあるが、これほどのサイズを見つけてくるとはな。驚いた……。これは本当にすごいぞ。滅多に見つかるものじゃない」


「ニャハハ、おいくらになりますかニャ?」


「このサイズだからなあ……。30万マアルといったところだな」


「ニャッハー! 大儲けだニャ!」


「やったね、ミケちゃん!」


 ふたりはもう一度飛び上がり、クーンも巻き込んで手を繋ぐと、輪になってぐるぐると回り、喜びを分かち合うのだった。


***


 ひと儲けしたということに満足して、カーネルの店で豪遊したふたりは、次の日、クーンに呼び出されていた。


「来たか。昨日の石な、正式に鑑定したが、やはりヒスイだった」


「ニャハー! ニャーたち、すごいもの見つけたのニャー!」


「それでだ、見つけた経緯を詳しく聞いておきたい。今日こそはな……」


 前日、30万マアルと聞いて有頂天になったふたりは、まったくクーンの話を聞こうとしないまま、カーネルの店へと向かったのだった。


「いいよ! 石がね、落ちてたの!」


「どこにだ? 順番に話してくれ」


 とクーンが聞き取りを進める。


 ひととおり話を聞くと、クーンはちょっと難しい顔をして、ひげをこすった。


「ふむ、まず確認だが、北の森に入ったんだな?」


「そうニャ」


「あの森には魔物が出るから、入らないほうがいいと言ったはずだがな?」


「あっ……でもでも、出たの、ゴブリンだったから。倒せたよ?」


「だが、ちょっと変わった種類のゴブリンだったようだな?」


「見たことのない種類のゴブリンだったニャ。でも、ドングリが倒したから大丈夫ニャ」


「ふむ。で、お前らは、また森に入るつもりだな?」


「えっと……うん!」


「またヒスイを見つけるのニャ!」


「ふう……。まあ入るなとは言わんが、あまり奥には行くなよ。ゴブリンよりも、もっと強い魔物が出るかもしれない。変わったゴブリンがいたというのも気になるからな」


「うん! わかった! 約束する!」


「何かあったらすぐ逃げるのニャ!」


「本当にわかっているか?」


「森の奥に行かないんでしょ! わかってるって!」


「絶対に森の奥には行かないのニャ!」


「ふむ、そうだ。それでいい。無理して命を落としても仕方ないからな。そんなことをしても誰も喜ばん」


「あ、それ、冒険者ギルドのおじさんも言ってた!」


「ニャーたちは無理はしないのニャア。ちゃんと引き際はわきまえてるのニャ」


「ふむ。わかった。次だ。今回はヒスイが見つかったが、それはたまたまだ。宝石の原石なんて、滅多に落ちているものじゃない。わかるか?」


「はい……はいはい」


「ニャアニャア」


「おい……お前ら、ちゃんと聞いているのか……?」


***


「よし! 今日も宝石、見つけるよ!」


 クーンの長い話を聞き終えたふたりは、一度家に帰り、準備をして、すぐに森へやって来たのだった。


「宝石見つかるかニャ? 簡単には見つからないかもニャ。でも見つけたいニャ」


「ふふふ! わたしにいい考えがあるんだ!」


「何ニャ? 気になるニャ? 聞かせるのニャ!」


 宝石を見つけようと、ギラギラと目を輝かせたふたりが相談を始める。


「いい? もし宝石が落ちていたとしても、森に入ってすぐのところに落ちていたら……どうなると思う?」


「ニャア……どうなるのかニャア? ニャーにはわからないのニャ……」


「すぐに見つかって、拾われちゃうんだよ!」


「たしかに……宝石が落ちてたら、すぐ拾うニャ。ドングリの言う通りニャ!」


「でも、考えてみて。宝石が落ちているのが森の奥だったら?」


「誰も拾わないから……そのままニャ!」


「正解! つまり森の奥に、宝石が落ちているんだよ!」


「すごいニャ! 完璧な理屈ニャ!」


「そういうわけで、森の奥に行くよ!」


「行くニャ! どんどん行くニャ!」


 ふたりはどんどん森の奥へ向かう。

 クーンの長い話はもう頭に残っていない。


「宝石、落ちてないねー?」


「ニャア……。暗くて見えづらくなってきたニャア」


 ミケランジェロが地面を見つめながら歩いていると、ドンという音がした。

 顔を上げると、目の前をドングリが飛んでいく。

 そして、受け身もとらずに転がる。


 近くには何もない。

 誰かに殴られたわけではない。

 目には見えない何かに、ドングリは突然吹き飛ばされたのだ。


 驚いたミケランジェロが周囲を見回す。

 杖を構えたゴブリンがいた。

 ドングリは地面に落ちて、倒れたままだ。


「ドングリ、大丈夫ニャ!? 何も見えなかったのに……あのゴブリンニャ? いまのは魔法ニャ? 魔法が飛んできたのニャ! 大変なのニャ! ドングリ、死んじゃダメなのニャ!」


 ミケランジェロがドングリに駆け寄る。

 ゴブリンを振り返って、毛を逆立てる。


 ゴブリンは杖を構えたまま、動かない。

 魔法を連発することはできないようだった。

 接近戦に自信がないのか、近づいてくることもない。


「ドングリ! 返事するニャ! 逃げるニャ! ニャーが連れて帰るニャ! ホルスまでがんばるニャ!」


 倒れたままのドングリを引っ張ろうとする。

 ミケランジェロの力では、ドングリは動かない。

 それでもミケランジェロは、お腹の下に頭を潜り込ませて、なんとか持ち上げようとする。


「ニャニャ……ンニャッ!」


「うん……?」


「ドングリ! 起きたのニャ? 大丈夫なのニャ?」


「ん……大丈夫。突然吹き飛ばされて、びっくりしただけだから。衝撃がすごかったけど」


 と髪を払って立ち上がる。


「さっき急に魔法が飛んできたのニャ。気をつけるのニャ」


「魔法? そうなの? あのゴブリンだね……!」


 ドングリの視線の先には、杖を構えるゴブリンが立っているのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ