商品の仕入れに行くよ! シッポがギチギチ!? まずは冒険者ギルドに行ってみよう!
「さて、ミケ。呼ばれた理由はわかるか?」
ニャンブルヘイム5階の立派な部屋。
ミケランジェロとドングリは、クーンに呼び出されていた。
正確に言うと、呼び出されたのはミケランジェロだけ。
ドングリはやることがないので着いてきたのだった。
「呼ばれた理由ニャア? 全然わからないのニャー。何のご用件ですかニャ?」
「ふん、そうか。お前たちはこのところ毎日食べ歩きをしているようだな」
「そうニャ。市場調査ニャ。いっぱい調査してるニャ」
「市場調査か……なるほど。ところで、お前の借金がついに150万マアルになった」
「ニャニャー! 驚異的な増えかたニャ! このあいだまで100万マアルだったはずなのにニャ! 不思議なことが起きたのニャー!」
ドングリとミケランジェロは顔を見合わせて、「無駄遣いしてないのにね!」とうなずき合う。
「そりゃあ、ふたりで食い散らかしてるんだから、借金が増えるスピードも二倍になるだろ……。当たり前だ……。そこでだ、お前には借金を返すために、新しい仕事をやってもらわなければならん」
「新規事業ニャ! ニャーにまかせるのニャ! やるニャ! やるのニャ!」
「やる気があるのはお前のいいところだな……。やってもらうのは仕入れだ」
「仕入れニャ?」
「そう、ホルス周辺で手に入る商品を採ってきてもらう。自分で採ってくれば、仕入れ値はタダ。売値がほとんどそのまま利益になるというわけだ」
「ニャンと……! 商売の天才の発想ニャ!」
「すごすぎるね……!」
ドングリとミケランジェロは驚きに震えた。
クーンは相手をすることもなく、平然と続ける。
「まあ、簡単に商品が手に入るのなら、みんな自分で手に入れている。それをやらないということは、それなりに危険があるということだ。魔物が出る場所に行かなければならなかったりな」
「それくらい、何の問題もないニャ」
「わたしもやります!」
ピッと眉を上げて、ドングリが宣言する。
「ほう?」
「わたし、槍が使えるから! ちょっとくらい危険でも、へっちゃらだよ!」
「仕事を手伝えば、少しはミケちゃんへのお礼になるよね!」とドングリは考えたのだった。
「ドングリと一緒なら頼もしいニャー! ぜひお願いしたいニャー!」
「ふむ、そういうことなら頼むとするか。これは案外うまくいくかもしれんな」
クーンは満足げにうなずき、仕入れる商品、注意すべきことについて説明するのだった。
***
「クーンさんは本当に話が長いのニャ!」
「うん! 長かったねー!」
ニャンブルヘイムから出てきたドングリたちは、それぞれ伸びをして、身体をほぐしていた。
「ずっと集中して話を聞いてたから、首筋と肩がガチガチだよ!」
「ニャーもシッポがギチギチニャー!」
「シッポがギチギチって、どうなってるんだろ?」とドングリが横目で観察するが、普段との違いはわからなかった。
「ボーッとしてないで、そろそろ行くのニャ!」
「うん! 行こう! って……」
ドングリは周囲を見回す。
「こっち? 町の外に行くならあっちだよね? 商品の仕入れに行くんでしょ?」
「まずは冒険者ギルドに行って、冒険者登録をするのニャア」
「冒険者になるの!?」
「そうニャア。町の外で、危険なところにも行くかもしれないからニャ。そういうときは、冒険者ギルドに登録するものなのニャ」
「わたしでも、登録できるのかな!?」
「冒険者って、なんだか楽しそう!」とドングリのテンションが上がる。
「もちろんなのニャ。猫でも登録できるくらいなのニャ。ニャーもすでに登録しているのニャ」
「えっ、ミケちゃん、冒険者だったんだね!」
「そうニャア。立派な冒険猫になるつもりだったんニャけど、ちょっと身長が足りなかったニャア」
ミケランジェロの瞳孔が細くなり、遠い目になる。
「武器も持てなくて、結局ニャーは魔物を倒すこともできなくて、『ミケちゃんはいるだけでいいんだよ』って、膝の上に乗せられて、撫でられるだけの毎日だったのニャ。これじゃあ、ただの飼い猫と変わらないと思って、冒険者はあきらめて、ニャンブルヘイムに就職したのニャ」
「そんな過去があったんだね……!」
「そうニャ。だから冒険者ギルドのことはよく知ってるのニャ。ホルスの冒険者ギルドにはあんまり来たことないけどニャ。着いたニャ。ここニャ」
ミケランジェロが肉球で建物を指し示す。
テンションの上がっていたドングリは、ドアを突き飛ばすようにして、バァンと勢いよく開いた。
入り口付近にいたスキンヘッドのおじさんが、ビクッと反応する。
「冒険者になりにきたよ!」
「ドアはもう少し優しく開けるのニャ」
ミケランジェロが注意した。
スキンヘッドのおじさんが、ドングリを上から下までじっくりと観察して、言った。
「おいおい、お嬢ちゃん。ここは冒険者ギルド。子供が遊びに来るところじゃないんだぜえ?」
「うん! わたし、冒険者になりに来たんだよ!」
「子供ひとりで冒険者になるんだぜえ?」
「ニャーもいるニャ。ニャーはもう冒険者だけどニャ」
「子供と猫だぜえ?」
スキンヘッドのおじさんは首をひねった。
「いや、おかしいだろ……。いいか……? 冒険者は危険な仕事だぜえ? 遊びじゃないんだぜえ? そこんとこ、ちゃんとわかってるんだぜえ?」
「うん! わかってる! 無理はしないよ!」
ドングリは眉をピッと上げてうなずいた。
クーンからもさんざん言われたのだ。
無理をしないようにと。
「そうか。だが、確認しておくぜえ。逃げることも、諦めることも、誰かを頼ることも、恥ずかしいことじゃないんだぜえ。無謀な挑戦をして死んでしまっても、誰も喜ばないんだぜえ。おじさんはそういう若者をたくさん見てきたから、もうそんなの、見たくないんだぜえ」
「うん! 心配してくれて、ありがと! 絶対大丈夫だよ!」
ドングリの返事に、スキンヘッドのおじさんはうなずく。
「無理せず頑張るんだぜえ」
そして、ふたりはカウンターへ向かった。
受付にはポニーテールのお姉さんがひとり、眠たそうな顔をして座っていた。
「お姉さん! 冒険者になりに来たよ!」
「あらまあ、いらっしゃい。かわいい子ね。冒険者になるの? 危ないわよ?」
「うん! 気をつけるよ! それに町のすぐ外に、商品を仕入れに行くだけだから!」
「ニャーもいるのニャ!」
「猫ちゃんも? うーん、大丈夫かしら?」
ミケランジェロがすでに冒険者になっていることを確認すると、お姉さんも納得する。
「ふーん、もしもの時のために、冒険者登録をしておくってことね」
「そうニャ。登録しておけば、何かあったとき、助けを呼ぶときに話が早いのニャ。身元確認ができるのニャ」
「たしかにそうね。そういうことがなければいいけどね。それじゃあ、冒険者について説明するわね」
「お願いします!」
こうしてお姉さんの説明が始まったのだった。
***
「お姉さん、話長かったねー!」
「クーンさんと同じくらい長いニャ。もうニャーはつかれたニャー」
「シッポがギチギチになってるかな?」とドングリは横目で確認するが、ミケランジェロのシッポはいつも通り、ふわふわと揺れるだけだった。
「ちょっともう今日は、仕事はいいんじゃないのかニャー」
ミケランジェロが言う。
「そうだねー。もうお昼を過ぎちゃったし」
「そうニャ。いまから出かけるのは気が乗らないニャ」
「うんうん。無理はしないほうがいいって言われてるもんね。あんなに長い話を聞いて、それも二回も! わたしたち、頑張ったよね!」
「そうニャそうニャ。必要以上に頑張ったニャ。もう十分ニャ。決めたニャ。今日は仕入れには行かないのニャ。カーネルの店に寄って帰るニャ」
「いいね! 帰ろう! カーネルさんの店は、いくら食べても飽きないよね!」
「ドングリは本当に話がわかるニャー! カーネルの店は最高だニャ! 今日は50本食べようかニャ!」
「新記録に挑戦だね! じゃあ、わたしも!」
こうしてふたりは商品の仕入れには行かず、カーネルの店で焼き鳥を100本買って帰ったのだった。