おっきな教会があるねー! みんな調子が悪いみたい……?
「ここがニーラかあ!」
予定よりもかなり遅れたが、ドングリたちはなんとかニーラに到着したのだった。
「へえ……! おっきな教会があるよ……?」
ドングリが指さす。
そこにあったのは巨大な建物。
派手な柄の布をつまんで持ち上げたような独特の意匠。
ニーラに入ってすぐに目につくのは、この教会だ。
「なるほどニャア。ニーラは教会が名物なのですニャ」
リュックからノートを取り出したミケランジェロが、メモをとる。
「あっ、市場調査だね!」
「そうニャ。これも仕事なのニャ」
「すごい! 見つけたことをすぐメモにとるなんて、敏腕商売猫みたいだね!」
「ニャハハ、ちょっと本気を出してしまいましたニャア。あとはおいしい食べ物のお店でも探しておきたいところなのニャ」
「いいね! 絶対必要な情報だよね! おいしい焼き鳥屋さん、あるかなあ!」
とふたりはキョロキョロと見回しながら、歩き回るのだった。
***
「見つからないニャア?」
「ねー? こっちかなあ?」
焼き鳥屋が見つからず、ふたりはニーラの町中をさ迷い続けていた。
うつむいた通行人が、少し離れたところを通りすぎていく。
「うーん……?」
とドングリが首をかしげる。
「どうしたのニャ?」
「なんか、顔色が悪いひとが多いね? 元気ないみたい?」
「そうニャ? ニーラはインドア派のひとが多いのかニャ? これは重要な情報ニャ」
ミケランジェロがノートを開く。
ニーラに来てからというもの、ミケランジェロはやたらとメモをとっている。
「ふふふ、やる気いっぱいだね!」
「ニャハハ。クーンさんに、ちょっといいところを見せておこうかなーと思ってるニャ!」
「えー! わたしも! 何かできるかな?」
「ドングリができること……何かニャア? やっぱりニャーの護衛をしてくれるのが一番かニャア?」
言われてドングリは眉をピッと上げる。
「そうだね! 護衛のついでにニーラの魔物を倒しちゃおうかな!」
「無理に魔物を倒す必要はないと思うけどニャ」
とさらに歩き続けるのだった。
***
アカネはこっそり診療所を出ていた。
町も抜け出している。
ニーラだ。
聞いた話をまとめると、「ドングリ」はアカネの探しているひとに間違いない。
いまはニーラという町に出掛けているという。
門番の男から聞いた。
黄昏のタスマリンも、同じ方向を指し示している。
ここまでわかったのだから、じっとしているわけにはいかない。
黙って出ていくべきか、少し迷った。
診療所のひとたちは良くしてくれた。
「ドングリ」もひどい扱いを受けているということはないらしい。
だか、本人に確認してからでないと、判断はできない。
記憶がないというのも、何か考えがあってのことなのかもしれない。
診療所のひとたちが、どこまで知っているのかわからなかったから、何も教えないことにした。
これで問題ないはずだ。
それよりもーー。
風の魔法をこめて、走るスピードを上げた。
早く会いたい。
元気な姿を見たい。
アカネは森の中を、ニーラに向かって駆けていくのだった。
***
「アカネちゃん? いないわねえ? 散歩にでも行ってるんじゃないのかしら」
診療所のベッドは空っぽだった。
「そういえば見てないぜえ? 町でも見かけなかったんだぜえ?」
手の治療に来ていたガウスも、首を振る。
「あの子が町を出たという話を聞いてな。気になって確認しに来たんだ」
「町を出た? そんな話聞いてないけど……あら」
ローザがベットの周りを見て声をあげる。
「荷物もないわね。黙って出て行ったのかしら」
「ふむ……」
クーンが眉をひそめていると、ランバスがやってきた。
ゴブリンの襲撃でランバスも怪我をしていた。
治療は終わったが、まだ本調子ではないらしい。
腕を曲げ伸ばしして、しきりに首をひねっている。
診察をするローザの肩越しに、クーンが尋ねた。
「ランバスはアカネがどこに行ったか、知らないか?」
「アカネちゃん? あの子ならニーラに行ったんじゃないかなあ?」
のんびりした口調でランバスが答える。
「何? どうしてアカネがニーラに行くんだ!?」
ドングリがニーラに行ったことは、アカネには伝えていない。
アカネの事情が分かるまでは、ドングリの行方は秘密にしておくほうがいいだろうと考えたのだ。
「いや、今日アカネちゃんと話していて、ドングリちゃんがニーラに行商に行ったっていう話をしたら慌てて町を出て行ったから、ニーラに行ったのかなって……」
クーンの表情が険しくなる。
話の通りなら、間違いなくドングリが目的だ。
記憶喪失を装って。
黙って診療所を抜け出して。
そこまでする目的は何なのか。
「これはいかんぞ!」
つぶやくと、クーンは診療所を飛び出していくのだった。
残されたランバスが、
「えっ、あの子たち友達なんじゃないの?」
と尋ねる。
「いや、どうなのか俺たちにもわからないんだぜえ」
「そんなに心配することないと思うのよねえ。アカネちゃんもいい子だったし」
と呆れた顔でローザは見送るのだった。