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ミケちゃん、お土産だよ! 違うよ、紙袋じゃないよ!

「ミケちゃん! お土産買ってきたよ!」


「また買ってきたのニャー? そろそろ置き場所がなくなるニャ」


 退院してからというもの、「お金ならいくらでもあるから!」と考えたドングリは、出かけるたびにお土産を買ってくるようになったのだった。

 部屋にはこれまで買ってきたものが山のように積まれている。


「嬉しいけど、何の役にも立たないものばっかりなのニャ……。ドングリはお土産選びのセンスがないのニャ……」


「大丈夫! 今日のお土産にはビックリするよ!」


 ドングリが紙袋をテーブルに入れて、中身を取り出す。

 手に持っているのはミカンだ。


「これ、ミカンだと思うでしょ! でもこうやると……」


 ミカンをひねってパカッと開ける。

 すると中には、レモンが入っているのだった。


「ね! レモンだよ! ビックリしたでしょ? ってミケちゃん。聞いてる?」


 テーブルの上にはモゾモゾと動く紙袋。

 ツンツンと指で触ると、バサッバサッと反応する。


「ミケちゃん?」


 目をギラギラと輝かせたミケランジェロが、紙袋から顔を出した。


「すごいのニャ! このお土産は最高なのニャ! 紙袋は最高に楽しいのニャ!」


「違うよ! お土産はこっちだよ! 紙袋じゃないよ? ミケちゃん!?」


「最高なのニャ最高なのニャ!」


 夢中になってしまったミケランジェロは、ドングリがいくら呼んでも紙袋から出てこようとはしないのだった。


***


「よしっ! 新商品のパンの開発をするよ!」


 ドングリが叫んだ。

「ニャア?」とミケランジェロが首をかしげる。

 ミケランジェロは紙袋に入ったまま、ここに連れてこられていた。


「いきなり何ニャア? 新商品ニャ?」


「そう! 新商品を作って、それが爆発的に売れれば、寝ててもお金が入ってくるようになるんだよ!」


「ニャー! 儲けたお金でカーネルの店の焼き鳥をむちゃくちゃ食べるニャ! ニャーたちはまだまだたくさん食べられるニャ!」


「そうだよ! 一生お腹がはち切れるまで焼き鳥を食べ続けようね!」


「いいアイデアなのニャ! ニャーも乗るのニャ。すごい新商品を作るニャー!」


 ここは市場の近くにあるパン屋。

 パンを作ってみたいというドングリの要望を快く引き受けて、お店の厨房を貸してもらえたのだった。


「ドングリちゃん達にはお世話になったからねえ」


 パン屋のおばさんがニコニコ笑っている。


「こいつらだけだと何をするかわからないからな。ここは食品を扱う場所だから、無茶なことをしたらダメだぞ」


 ふたりだけでは心配だと言って、焼鳥屋のカーネルもついてきたのだった。


「うん! 絶対大丈夫だよ! というわけで、焼き上がったのがこれだよ!」


 ドングリは皿の上のパンを指し示した。


「これはドングリが作ったデコボコのパンニャ……。味はわからないけど、とにかく見た目が悪いのニャ。商品としては失敗ニャ。ドングリにはパン作りの才能はなかったニャ……」


「うん……でもね、こうすると……!」


 ドングリがパンに干しブドウを乗せる。

 さらにギュッと押し固めて形を整えていく。


「あら?」


「ほう?」


「ニャー? あっ、猫ニャ。猫の顔のパンになったニャ」


「ね! できた! 猫パン! なかなかいい感じだよね! なんか猫っぽい形をしてるなって思ってたんだ! やっぱりわたし、パン作りの才能があるのかも!」


「すごいニャ。本当に猫みたいニャ! 食べるのがもったいないニャー!」


「ふふふ、これだけじゃないんだよ!」


 ドングリが、ソーセージを用意する。

 それを猫パンに押し込んで、口の完成だ。


 まだ終わらない。

 ケチャップを取り出す。

 ヒゲを描くつもりなのだ。


「ああ……」


「それは……」


 パンの上にケチャップがビチャビチャとかかっていく。

 明らかに必要以上の量だ。

 修正しようとするほど、取り返しがつかなくなっていく。


「やらなきゃよかったのにニャ……。もうぐちゃぐちゃニャ……」


「まだ……ここからだよ……! もっとかけるよ!」


 そこへクーンが通りかかった。

 厨房を覗いて、集まった一行を不思議そうに眺めて、それからやりすぎてしまったパンを見つめる。


「何だ、この地獄みたいなパンは……。内臓を口から引きずり出された血だらけの猫に見えるが……。ケチャップか……? お前ら何をしてるんだ? 呪いの儀式か?」


「新商品ですニャ」


「これはおいしい猫パンだよ!」


「新商品? これが? お前ら正気か……? おいしいわけないだろ……」


「絶対おいしいよ! 食べてみればわかるよ!」


「食べなくてもわかる。ケチャップの味しかしないだろう……」


「もう! わがままばっかり言って!」


「わがままじゃないだろ……。まずはケチャップの量をもっと減らしてだな……」


 こうしてクーンのアドバイスをもとに、のちのヒット商品、きれいな猫パンが作られることになるのだった。


***


「やはり心配だ」


 診療所にやってきたクーンはペタリと耳を寝かせて言うのだった。


「恩人とは言うがな、どんな事情があれば魔法使いがここまでボロボロになってドングリを追いかけてくるんだ。想像もつかん」


「心配しすぎだとは思うが、まあ、それはそうだぜえ……。その事情は起きてから本人に聞かないと、何もわからないぜえ。まだドングリを追いかけてきたのかどうかもはっきりしてないんだぜえ」


 正体不明の女の子は眠ったままなのだった。

 ドングリの敵なのか味方なのかもわからない。


「だいたい、もしトラブルになったとき、あいつらがまともに対処できるとは思えん」


「たしかにそれはそうだ」とローザとガウスがうなずく。

 クーンがギュッと肉球を握りしめる。


「そこでだ、ドングリたちにはしばらく町を離れてもらうことにする」


「町を離れるんだぜえ?」


「ああ、ミケランジェロと行商に行ってもらう」


「ドングリちゃんたちが町にいない間に、この女の子から事情を聴きだすというわけね」


「そうだ」


 ガウスもうなずく。

 悪くない考えだ。

 ドングリたちがいなければ、たとえトラブルになったとしても穏便に済ますことができるだろう。


「わかった。そのときは俺も協力するぜえ」


「よろしく頼む」


 と三人はうなずきあう。


「ところでドングリちゃんたちは、いま何をやっているのかしら?」


 ふと思いついたように、ローザが言う。


「あいつらは……遊び惚けている……」


 遠い目をしてクーンは答えるのだった。

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