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報奨金! 借金を返せたよ! はいはい考えて使います!

「うーん、よく寝たよー!」


 とドングリは伸びをした。


 ドングリの意識が戻ってから、三日。

 ローザに全身を検査されて、ようやく今日、退院の許可が下りたのだった。


 ずっと寝ていたせいで、ベッドから降りると、足がふらついてしまう。


「身体がギチギチだね!」


 ドングリの足元では、ミケランジェロがご機嫌な顔で、尻尾を揺らしていた。

 今日が退院と聞いて、ガウスとクーンも診療所に来ている。


「やっと元気になったんだぜえ。よかったぜえ」


「うん! 元気というか、寝てただけなんだけどね! 怪我もしてないし」


 ガウスの手には、まだ包帯が巻かれている。

 本人が言うには「もう何の問題もない」らしいが、痛々しい見た目だ。

 怪我を押して、ギルドの被害の対応。

 その合間を縫って、こうしてドングリのところに来てくれているのだった。


「もう町はもとどおり?」


「ああ、町の中に入ってきたゴブリンはほとんどいなかったからな。あの巨大ゴブリンも、暴れて建物を壊す前に倒すことができたし、お嬢ちゃんがいてくれて、本当に助かったんだぜえ」


「えへへ! わたしのおかげ! あっ、あの女の子は? 助けに来てくれた子!」


「まだ起きてないみたいだぜえ。よっぽど無理をして救援に来てくれたみたいなんだぜえ」


「そうなんだ……」


 突然現れて、巨大なゴブリンを倒した女の子。

「起きたらあの子にお礼を言わないとね!」とドングリは思った。

 ドングリだけでは、あれ以上時間を稼ぐことは難しかった。


「あの子のことも心配だが、まずはお祝いだぜえ。聞いたらビックリするぜえ」


「うん? 何だろ?」とドングリは首をかしげる。


「何とか退院に手続きが間に合ったんだぜえ。ギルドと町からの報奨金だぜえ」


「報奨金!? お金がもらえるの!?」


「そうだぜえ。1000万マアルだぜえ」


「1000万マアル!」


「すごいニャー!」


 ドングリとミケランジェロが目を輝かせる。


「報奨金だけじゃないぜえ。みんなお礼を言いたがっているんだぜえ。退院したら町のみんなに顔を見せてあげて欲しいんだぜえ」


「うんうん! そうする!」


 ドングリはいそいそと荷物をまとめて退院の準備をする。

 はやく食べ歩きをしたいのだ。


「1000万マアルと言っても借金の返済があるからな。残るのは500万マアルだ。全部使えるわけじゃないからな」


 黙って話を聞いていたクーンが、くぎを刺す。


「うんうんわかってるよ」


 ドングリとミケランジェロが診療所の出口に向かって駆けだす。


「無駄遣いするんじゃないぞ。考えて使うんだぞ!」


「うんうんありがとういってきます!」

 

 もちろん、ふたりは何も考えずに使うのだった。


***


「はあー、やっぱりカーネルさんの焼き鳥は最高だねー!」


「いくら食べても飽きないのニャ!」


「そうかい? そう言ってくれるのは嬉しいが、いくら何でも食べすぎじゃないか……?」


 診療所を出たドングリたちは、まっさきにカーネルの店に向かったのだった。


「なーに言ってるのニャ。ニャーたちがたくさん食べるということは、稼ぎ時っていうことなのニャ。余計なことを考えずに、どんどん焼くのニャ!」


「寝てた間に食べられなかった分を取り戻さないといけないからね! まだまだ食べるよ!」


「大丈夫か……? 病み上がりだろ……?」


 ふたりの食べるペースに追いつくため、カーネルはおしゃべりをする暇もなくなる。

 ひたすら手を動かすことになる。


「あっ、ランバスさんだ!」


 とドングリが手を上げる。


「おお、ミケとドングリちゃんじゃないか。もう退院できたんだね。ドングリちゃんは本当によくやってくれたね」


 ドングリはランバスに頭を撫でられた。


「えへへ! ランバスさんも大変だったみたいだね! 焼き鳥食べていいよ!」


 ランバスは門に殺到したゴブリンを倒す際、負傷してしまったらしい。


「ドングリちゃんみたいな活躍はできなかったけどね。せっかくだから一本貰おうか」


「うん! お祝いだからね! いくらでも食べていいよ! わたしのおごりだよ!」


 その後もドングリは道を行く人にどんどん声をかけていく。

 町の住民たちがわらわらと集まってくる。


「カーネル、いまが稼ぎ時なのニャ……! ここで稼げないやつには商売人の資格はないのニャ!」


「……ッ! わかってる……!」


 とんでもない量の注文に追い付くため、カーネルは必死に焼き鳥を焼くのだった。


***


「あの女の子だがなあ、どう思う」


 腕を組んだクーンが、診療所の奥、いまだに意識の戻らない女の子が眠っているベッドをチラリと見て、ガウスに尋ねる。


「どう思うって、そりゃあ感謝しかないだろうぜえ。町を救ってもらったんだぜえ」


「そりゃあ、まあな。だが、魔法使いだ」


「ああ、聞いた話じゃあ、そうみたいだぜえ」


「魔法使いは、近隣にはいないはずだったよな?」


 ガウスが渋い顔を作ってうなずく。


 近くの町に魔法使いはいないか。

 いたとしたら、救援に来てもらう交渉をすることはできるか。


 ゴブリンの襲撃を受けて、ギルドの情報網で確認したところ、そもそも魔法使いは近くにはいないとの回答だったのだ。


「ギルドが把握していない魔法使いだったかもしれないんだぜえ。旅をしている途中だったのかもしれない」


「まあな」


「だいたい、恩人をそんなに疑うというのは、ちょっとどうかと思うぜえ?」


「まあな」


 とクーンが鼻を鳴らす。


「たまたま魔法使いが近くにいて、たまたま助けに来てくれたと。しかもこんなにボロボロになりながら。そういうことなんだろ?」


「そんな言い方をすると、そりゃあ不自然かもしれないぜえ? でもそういうこともあるんだぜえ」


「ふん。どうだかな」


 クーンは難しい表情を崩さないのだった。

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