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わたしが守るよ! わたしに任せてね!

 クーンが地面に手を付き、ドングリとミケランジェロを咥えて背中に乗せる。


「ホルスまで走る! 掴まってろ!」


 そう言って駆け始めたクーンは、毛皮が膨らんで、ひとまわり大きくなったようだった。

 ドングリはクーンの首筋にしっかりと掴まり、ミケランジェロもギュッとドングリにしがみついた。


「あれ、何なの?」


 町の中から、いまも土煙が上っている。


「わからん! だが、魔物がダンジョンから出てくるのは、新しい巣を作るためだ。そう言ったろ」


「うん」


「その話が本当なら、魔物が巣を作るつもりなら、その中には新しいダンジョンのダンジョンマスターになる個体もいるはずだ」


「ダンジョンマスターになる個体?」


「ダンジョンを新しく作るなら、新しいダンジョンマスターが必要だろう」


「わっ、そうかも」


「実際過去には、ダンジョンからあふれてきた魔物の中に、特別に強い個体が紛れ込んでいたという話も聞いたことがある」


「じゃあ、あの煙って……」


「ああ、特別に強い個体が暴れているのかもしれん。ガウスが対応しているんだろうが、ドングリ、お前も協力してやってくれ」


「もちろんだよ!」


「立て続けに戦わせてしまうことになるが……」


「うん! 大丈夫! わたしに任せてよ! クーンさんが止めたって、戦うんだからね! わたしがみんなを守るよ!」


「ふん……悪いな。頼らせてもらう。ホルスに着くまでの間だけでも、身体を休ませてくれ」


「うん! わかった!」


 ふたりを背に乗せて、クーンはぐんぐんホルスへと駆けていくのだった。


***


 町は静かだった。

 ドングリはミケランジェロから槍を受け取り、土煙の方へ向かう。


「クーンさんは休んでていいよ! 疲れたでしょ!」


「何を言っている。少し走っただけだ。休む必要はない」


 毛並みが乱れて、クーンは野良猫のようになっている。

 おまけに肩で息をしていて、苦しそうだ。

 だが、ドングリについていくことは譲らない。

「もう、クーンさんは仕方ないね!」とドングリはくちびるを尖らせるのだった。


「お前ひとりに任せっぱなしにするわけにはいかないからな……。せめて現場に行くだけでもさせてもらう……。役には立てないだろうがな……」


「うん?」


「ふん、何でもない」


 少し歩くとゴブリンが見えた。

 建物の屋根の上から細長い頭がのぞいている。

 ほかのゴブリンとはまったく違う、巨大なゴブリンだ。


 心配そうな顔をして立ち尽くしているローザを見つけ、ふたてに別れると、ドングリは巨大なゴブリンと戦っているはずのガウスのもとへ向かうのだった。


***


「ガウスさん、来たよ!」


「お嬢ちゃん……助かるぜえ」


 ガウスがニヤリと笑う。

「間に合ったみたい!」とドングリは安心して、しかしすぐに血の気がひいた。


 ガウスは怪我をしていた。

 平気そうな顔をしているが、ズボンの膝から下がボロボロだ。


「ガウスさん、大丈夫……?」


「へへ、お嬢ちゃんが来てくれたから、もう大丈夫だぜえ」


「うん……! わたしも戦うからね!」


 とドングリは前に出る。

 そして、巨大なゴブリンが振りかぶった剣を受け止めようとして――。


「受けるな! 避けるんだぜえ!」


 ガウスに言われてとっさに身体を投げ出す。

 ドオンという音と共に、パラパラと何かがぶつかる。

 地面を剣で叩いた衝撃で、石が弾き飛ばされてきたのだ。


 ダンジョンマスターのゴブリンとは比べ物にならない威力。

 こんなものを受け止めたら、無事では済まない。


「いいか、あいつの攻撃は俺が受け流すぜえ」


 ガウスがドングリの前に出て言った。


「お嬢ちゃんは隙を見つけて、あいつを攻撃してくれ。防御は全部俺に任せるんだぜえ」


「うん……」


 ガウスならゴブリンの攻撃をうまく受け流せる。

 ドングリにそこまでの技術はない。

 理にかなった役割分担だ。


 だが、攻撃を受け流しても、飛び散る小石は防ぎようがない。

 現に、ガウスの足はボロボロだ。

 そんなことをいつまでも続けられるわけはない。


 ドングリはピッと眉を上げた。


「わかった! 思い切り攻撃するからね! すぐに終わらせるよ!」


「ああ、任せたぜえ」


 ガウスの背中を見ながら、タイミングを待つ。


 思い切り。

 魔法を使って。

 あのときギルドの壁を壊したように。


 巨大なゴブリンが剣を振り下ろした瞬間、ドングリはガウスの後ろから飛び出した。

 がら空きのわき腹をめがけて、槍を突き出す。


 ズルリ。


 思っていたのと違う感触が、手から伝わった。

 ゴブリンの視線がドングリへ向き、慌てて距離を取る。


 突き出した槍は刺さらなかった。

 皮膚の表面をなぞって、傷をつけただけ。

 血も出ていない。


「うそ……」


「いや、よくやったぜえ、お嬢ちゃん。俺じゃあ傷をつけることもできなかったんだぜえ」


「でも、刺さらなかったよ……」


「ああ、だが、時間はたっぷりある。何度でも攻撃すればいい。ほかのゴブリンは全部倒したからな。あとはこいつさえ倒せばいいんだぜえ」


「うん……そうだね! そうだよね!」


 思い切り突き出した槍が刺さりもしない。

 こんなの、勝てるわけがない。

 そう思いそうになるのを必死にこらえて、ドングリはピッと眉を上げるのだった。


***


 ドングリが倒したダンジョンマスターと、この巨大なゴブリンは、ずいぶん違っていた。


 剣を持っているところは同じ。

 だが、巨大なゴブリンには技術がない。

 スピードもあまりない。


 しかし、パワーが違う。

 もし当たってしまったら、ひとたまりもない。

 剣で受け止めることすら危険だ。


 そして、体が硬い。

 隙を狙って槍を突き出しても、ほとんど効いていない。


 いまのところ、ガウスは巨大なゴブリンの攻撃を受け流せている。

 だが、弾き飛ばされる石礫で、少しずつダメージを受けてもいる。

 いつまで耐えられるか、わからない。


 一番の問題は、巨大なゴブリンの考えが変われば、ドングリたちは簡単に倒されてしまうということだ。


 巨大なゴブリンには、ドングリたちの攻撃がほとんど効いていない。

 ならばそんな攻撃は無視して、ひたすら剣を振り回していればいい。

 それだけで、ドングリたちには打つ手がなくなる。


 実際は、ドングリが槍を突き出すたび、ワンテンポ遅れて、巨大なゴブリンは反応している。

 前に出て攻撃を受け流しているガウスのことも必要以上に警戒している。

 戦うことに慣れていないのだ。

 だから時間稼ぎができている。


 もし慣れて、学習してしまったら。


 ドングリたちに、時間がたっぷりあるわけではないのだった。

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