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ダンジョンで「いよう」な部屋を見つけたよ!

 そして、翌朝。

 ふたりはダンジョンへと出発した。


 準備は前日のうちに済ませてある。

 ドングリがリュックを背負い、ミケランジェロがその上に乗り込み、ときおり現れるゴブリンを弾き飛ばし、すぐにダンジョンの入り口へと到着したのだった。


***


「ここがダンジョンなんだねー。ワクワクするねー!」


 ドングリがダンジョンの壁をペチペチと叩いた。


 ダンジョンの中はしっかりとした作りになっている。

 土の中だが、崩落の危険はなさそうだった。


 壁は滑らかで硬い。

 石なのか土なのか判断できないほどだ。


「ちょっと暗いけど、それがいい味を出しているニャ。なかなか悪くないダンジョンニャア」


「ねっ! 冒険してるって気がする!」


 としゃべりながら歩く。

 ゴブリンが現れても、ドングリが余裕を持って対処できるほどの数。

 拍子抜けだが、クーンにしつこく言われたので、緊張感をなくすことはない。


 ふたりはダンジョンの奥へとずんずん進んでいくのだった。


***


「はあ……。広いね……」


 ドングリはため息をついた。


 ダンジョンに入ってからどれくらいたつのか。

 太陽が見えないために、わからない。

 だが、かなりの時間、歩き続けていることはたしかだった。


「ニャアン。もう少し確認したら、今日は帰ってもいいかもしれないニャ」


「そうだね……。そうしようか」


 ゴブリンとの戦闘でドングリが窮地に立たされることはなかった。


 だが、数が多い。

 ダンジョンを進むと、ひたすらにゴブリンが現れる。

 一度に現れる数は少なくても、累計数が多いのだ。


 もう何匹倒したのかわからなかった。

「これならまとめて出てくれたほうが早いのに」とドングリは思うのだった。


 そして、宝物は見つからない。

 ここまで歩いてきて、宝物がありそうな部屋すらなかった。


 あるのは曲がりくねった通路だけ。

 これでは何もワクワクしない。

 ドングリとミケランジェロは、ダンジョンに飽き始めていたのだった。


「もしかしたら、もう少し進んだら、お宝が見つかるかもしれないニャ」


「ん? うん……そうだね……。そうかもね……はあーあ……」


 曲がり角の向こうにゴブリンがいないかたしかめて、慎重に進む。

 これにもドングリはうんざりしていた。


 毎回曲がり角があるたびに確認しなければならない。

 ちょっとした確認作業でも、何度も繰り返すと、神経がすり減っていく。


「もうバーッと走っていって、ガーッとゴブリンを集めて、ダーッと倒しちゃおうかな」などと考えたりもする。


「だいたい、このダンジョン広すぎるよね……」


「たしかに広いニャ。ずいぶん成長しているダンジョンだったのニャア。いままでよく見つからなかったのニャア」


「そうだよね……。ホルスの地下まで届いてるんじゃないのかな……ん?」


 ふたりは立ち止まった。

 曲がり角からすぐ。

 目の前に、あきらかにこれまでとは違う壁が現れたのだった。


「なにこれ? 黄色と黒の壁……?」


 黄色と黒で、壁がまだらに染められている。


「なんか気持ち悪いニャ……」


 ダンジョンの中に突然現れた、くっきりとした鮮やかな色の人工的な壁。

 それが不気味で、ミケランジェロとドングリはあとずさってしまう。


「これ、きっとダンジョンマスターの部屋だよ……! 『いよう』だよ!」


 ドングリが言って、ミケランジェロがうなずく。

 見ただけで、危険だと本能が告げる。

 この部屋の中に飛び込もうなどという考えは浮かばない。


 ふたりは、一目散に逃げ出したのだった。


***


 ホルスに近づくと、普段使わないほうの門から、騒ぎ声が聞こえていた。


「お祭りでもやってるのかなあ?」


「そんな予定聞いてないけどニャア?」


 ダンジョンから離れたので、会話にも余裕が生まれている。

 それでも、寄り道をする気分にはなれなかった。

 ふたりはまっすぐクーンのもとへ向かう。


「クーンさん、ダンジョンマスターの部屋、見つけたよ!」


 ドアをバーンと開け放って、ドングリが言った。


「ドングリ、ドアは優しく開けるのニャ」


「ほう、もう見つけてきたのか」


 クーンがふたりを迎え入れる。


「とりあえず、座ってくれ。話を聞こう――」


 とクーンが肉球でソファーを指したところで、またドアがバーンと開いた。


「クーンさん、大変です」


「誰にゃ? あっ、ギルドのお姉さんニャ。ドアは優しく開けるのニャ」


「話の長いお姉さんだ。こんにちは!」


「大変なんですよ!」


「なんだ?」


 くつろぎ始めたドングリたちとは対照的に、ギルドのお姉さんは慌てていた。

 ここまで走ってきたようで、息も切らしている。


「ゴブリンです。西の門に、ゴブリンの大群が出たんです。たぶんダンジョンからあふれてきたんじゃないかと」


「なに?」


 クーンが眉を寄せる。

「ダンジョン? わたしたち、いま帰ってきたところだよ?」とドングリたちは顔を見合わせる。


「ガウスさんが対処していますが、数が多くて。ニャンブルヘイムからも人を出せませんか?」


「ふむ」


「わたし! よくわかんないけどわたしが行くよ! ゴブリン倒せるよ!」


「ニャーも! ニャーも行くニャ!」


「そうだな。ドングリたちに行ってもらおう。俺も準備をして、すぐに追いかける」


 クーンを残して、ふたりはギルドのお姉さんとともに西の門へ向かうのだった。


***


 話の通り、西の門には大量のゴブリンがいた。

 行列を作り、渋滞を起こしているほどだ。


 ガウスが剣をふるい、懸命に倒している。

 何人かの冒険者はいるものの、ほとんどをガウスが受け持っている状況だった。


 詳しい事情を聞いている時間はない。

 ドングリが駆け寄るのを見て、ガウスが「頼む」という顔でうなずく。

 走ったままの勢いで、ドングリはゴブリンを切り捨てていった。


 中には魔法を使えるゴブリンもいた。

 だが、ゴブリン同士が邪魔になって、自由に動けないようだ。

 冷静に観察しながら、数を減らしていく。


 無茶はしないように。

 ガウスとクーンに言われた言葉は忘れていない。


 そうして着実にゴブリンを倒して、ようやくひと息つくことができたのだった。


「助かったぜえ。お嬢ちゃんのおかげだぜえ」


 ガウスと冒険者たちにお礼を言われる。


「まあね!」


 ドングリは笑顔で答えた。


「どうしてこんなにゴブリンがいるの?」


「ダンジョンからあふれてきたんだぜえ」


「でもわたしたち、いまダンジョンから帰ってきたところだよ?」


「そういえばそうだったんだぜえ? もう帰ってきたんだぜえ?」


「うん! ダンジョンマスターの部屋も見つけてきたよ!」


「そいつはよくやったぜえ。ここのゴブリンは、お嬢ちゃんたちが向かったのとは別の入り口からあふれてきたんだろう。その分、ダンジョンの中にはあんまりゴブリンはいなかったはずだぜえ」


「あ、そうかも」とドングリはうなずいた。


 遠くで悲鳴が聞こえた。

 ドングリたちのいるのとは、別の門の方角だ。


「はあ……こっちを何とかしたと思ったら、今度はあっちだぜえ。キリがないぜえ」


「わたし、行くよ!」


 ドングリが走るのを、慌ててガウスが追いかける。

 門にゴブリンが集まってきていたが、駆けつけたドングリたちが全滅させた。

 やはり魔法を使うゴブリンがいたらしく、何人かの冒険者が怪我をして座り込んでいた。


「……あ、今度はあっちの門! ほら、声が聞こえるよ!」


 ドングリが指をさす。


「まただぜえ。本当にキリがないぜえ。ずっとこの調子だぜえ」


 ガウスが天をあおいだ。

 そこへクーンがやってきた。


「おい、どうなっている? ゴブリンが出たのは西の門だと聞いたが?」


「ああ、こっちにもゴブリンが出たんだぜえ。いま倒したが、またほかの門に出たみたいだぜえ。ニャンブルヘイムから人手は出せそうだぜえ?」


「ふん、たいした戦力にはならないが、何人かまわした。怪我をするやつも出てくるだろう。ローザ先生にも声をかけておいた」


「助かるぜえ」


「で、なんなんだこれは? いったいどうなっている」


 険しい顔でクーンが問い詰めるのだった。

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