やっぱり気になる! でも森の奥には行かないからね!
次の日も、その次の日も、調査は問題なく終わった。
夕方になるとドングリたちは焼き鳥を買って家に帰った。
仕事の後にはのんびりする時間も必要だ。
たまには焼き鳥を食べるのもいいだろう。
ドングリはそう判断したのだった。
焼き鳥を食べ終えて、
「ねえ、調査って、もう少しかかるかな?」
とドングリが疑問を口にした。
「森は広いからニャア。いいペースで調査していると思うけど、もう少しかかるかもニャア。ニャーたちが調べるのは森の入り口だけだけど、それでも広いからニャア」
「ふーん、そっか。……無事に終わるといいよね!」
「ニャーたちなら問題ないニャア!」
「うん! そうだね! そうだよね、これで……いいんだよね」
ゴブリンはそれほど強いわけではない。
森の中を歩いて。
ゴブリンを倒して。
地図に記録して。
あっけない。
こんなに簡単でいいのかな? とドングリは思ったのだった。
ホルスの町の人たちには感謝している。
自分には何にもできないのに。
昔からの知り合いでもないのに。
みんなが助けてくれる。
だから、お礼をできたら。
そう考えて、調査に協力することにした。
なのに、その調査が簡単で、なんだか肩透かしを食ったよう。
ドングリは物足りない気分になっていたのだった。
***
この日の調査も何事もなく終わった。
「今日はやる気のあるゴブリンが三匹だったニャ。新記録ニャ!」
「うん! すごくやる気があったねー!」
「一撃だったけどニャ。やる気のあるゴブリンばっかりで、杖のゴブリンのほうは少ない気がするニャー」
「そうだね」
ドングリはうなずいた。
やる気のあるゴブリンに比べると、杖のゴブリンは少ない。
この数日で、わかったことだ。
「それでも魔法を使える魔物にしては、多いほうなんだぜえ。めったにいるはずのない魔物なんだぜえ」
報告に行ったとき、ガウスはそう言っていた。
この森で何かが起きているのは間違いない。
だが、ドングリのやっているのは、比較的安全な場所の調査だけだ。
もう少し戦える気がする。
ゴブリン程度なら、もっと増えても問題ない。
ドングリは森の奥を見つめた。
「ねえ、ミケちゃん、やる気のあるゴブリンとか、杖のゴブリンって、森の奥に行くほど見つかる気がしない? あっちのほう」
「うーん、そうかもニャア。地図の記録を見ればはっきりするのニャア。でも、何かありそうな気はするのニャア。ニャーも怪しいと思うのニャ」
とミケランジェロも森の奥を見つめる。
「気になるよねー!」
「ニャア」
「でも今日は……帰ろうか!」
「そうするニャア。焼き鳥が待ってるニャア」
こうしてふたりは、森を抜けてホルスの町へと戻り、一直線にカーネルの店へと向かうのだった。
***
「頑張ってるみたいだな。ふたりともよくやっている。ガウスも誉めていたぞ」
「えへへ! まあね! ほら、またヒスイを見つけたよ!」
ドングリの差し出した石を、クーンが受けとる。
「またか。ふむ、今度はヒスイだな。間違いない。ちいさいが、5万マアルはするだろう」
「わあー! やったね!」
「また儲けてしまったのニャー! さすがニャーたちなのニャー!」
ドングリとミケランジェロが顔を見合わせてはしゃぐ。
この日も何事もなく調査が終わって、ふたりはクーンのところへ報告にきたのだった。
「ふーむ、順調だ。怪我も、してないな」
クーンがふたりをじっくりと観察する。
「怪我なんてしないのニャア。ドングリにかかればゴブリンなんて一撃なのニャ」
「うん! ガウスさんに魔法を教えてもらったおかげだよ!」
「そのようだな。いいことだ」
と言って、クーンはふたりをじっと見つめる。
「?」という顔をして、ふたりは首をかしげる。
「いや、何か起きそうな気がしてな。油断するんじゃないぞ。お前らのことだから、うまくいっているからと調子に乗って、余計なことをしでかしそうで心配だ」
「そんなことしないよ! わたしたちも、危険だってことくらい、わかってるんだから! 大怪我をしてる人もいるんだし、油断しないよ!」
「そうニャそうニャ」
「絶対に森の奥になんか行かないんだからね! 大丈夫だよ!」
「約束するニャア! 森の奥には行かないニャア!」
「ふむ、そうか。それならいいんだが」
ミカンを食べながらしばらく話して、ふたりが帰る。
残されたクーンは不思議そうに首をひねった。
「そういえば、森の奥の話なんてしてないはずなんだが……なぜあんなに森の奥を強調する……?」
「まあ約束したんだから大丈夫だろう」とクーンは自分を納得させるのだった。
***
「キュウキュウ」
ハッとドングリは目を開けた。
ベッドの上。
部屋の中は真っ暗。
真夜中だ。
「……?」
何か音が聞こえた気がした。
「ホラーかな……?」
耳を澄ませても、何も聞こえない。
勘違いだったかと、目をつぶる。
すると、また聞こえた。
「キュウキュウ」
息をおしころして、そろそろとベッドを抜け出す。
向かうのはミケランジェロのベッド。
(いま、ミケちゃんが鳴いたよね……! キュウキュウって……!)
ミケランジェロの顔に耳を近づけて、ピタリと止まる。
(もう一回聞きたい……! ミケちゃんの寝言……! キュウキュウってもう一回言って……!)
ミケランジェロはぐっすりと寝ている。
ときおり鼻をスピスピ鳴らしている。
いまにも寝言を言いそうだ。
ドングリは静かに待った。
待ち続けた。
ミケランジェロはぐっすり眠ったまま。
そして、夜が明けたのだった。
***
「ドングリ、寝不足なのニャ? すごい顔してるのニャ」
「誰かさんのせいだよ!」
「何ニャそれ。急に怒り出して、わけがわからないのニャ。ドングリ、最近ストレスが溜まってるのニャ? なんか変なのニャ」
「違うんだよ! もう!」
ドングリが布団をパタパタと叩く。
「もうさ、言ってよ! ミケちゃん、『キュウキュウ』って言って!」
「いきなりどういうことニャ? キュウキュウニャ?」
「うーん、違う……! そういうのじゃなかった……! もっと自然に言って! 言ってくれないと、スッキリしないよ! もう!」
「さっきから何の話なのニャ……。おかしなドングリなのニャ。キュウキュウニャ」
こうしてミケランジェロは延々と、「キュウキュウ」をせがまれるのだった。