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調査は順調だよ! 余計なことはしないからね! 安心してね!

 手遅れかもしれない。


 ドングリは自分のお腹をそっと撫でた。


 ぽっこり。


 いままでにない感触だ。

 どうしてこんなことになってしまったのか、わからない。

 心当たりはない。

 ……まったくない。


 ちょっとつまんでみた。


 フニフニ。


 お腹についた、しっかりとつかむことができる、余分なお肉。

 いいわけのできない、現実だ。


「やっぱり少しは我慢しないといけないよね……! 好きなだけ食べてれば、そりゃあお腹もぽっこりするよね……! 当然のことだよね……! わかります……! 焼き鳥を食べるのはひかえます……! だからいますぐお腹は引っ込んでください……! お願いします……!」とドングリは心の中で早口で反省した。


「ドングリ、どうしたのニャア? 調子が良くないのニャア? 顔色が悪いニャア」


「うんん! ちょっとショックなことがあっただけ……。大丈夫だよ!」


「そうニャア? ニャーははやく調査を済ませて、帰って、カーネルの焼き鳥をお腹いっぱい食べたいと思ってるニャア。ドングリもそう思うニャア?」


「焼き鳥……。うーん……焼き鳥……? よしっ! 焼き鳥、お腹いっぱい食べようね! はやく帰ろう!」


 我慢はできないのだった。


***


 まばらに間隔をあけた木は、背の高いものが多い。

 草はあまり生えていない。

 おかげで、地面は土の茶色が目立っている。


 ここが、北の森。


 ドングリたちが最初に通った森とは、別の場所。

 区別がついていなかった。

 だが、言われてみれば、たしかに違っていた。


 踏みしめたときの感触も。

 視界の広さも。

 目に映る色も。

 少し涼しい空気も。


 この北の森が、調査の対象だ。


 たまに魔物が出るが、普通のゴブリンばかり。

 もともとは危険な場所というわけではなかったはずだ。

 なのになぜか、新種のゴブリンが出るようになってしまったのだった。


***


「えいっ」


 ドングリが槍を突き出し、ゴブリンが倒れる。

 このゴブリンは普通のゴブリンだった。

 あっけなく倒すことができた。


 ドングリたちの調査は順調だ。

 森に入ってから、まだ普通のゴブリンしか見つけていない。

 すぐに倒せるから、足を止める必要もない。


「ドングリはすごいのニャー。ゴブリンくらいなら簡単に倒しちゃうニャア。もう十匹目ニャア」


「まあね! 普通のゴブリンだったからね! 魔法を使うまでもないよ!」


「ニャーも活躍しようと思ってたのにニャー。ニャーの出る幕がないニャア」


 ミケランジェロがピョンピョン飛び跳ねながら、前足を振る。

 猫が元気良く遊んでいるようにしか見えなかった。


「ミケちゃん……絶対に、わたしの後ろにいてね……! 前に出て戦っちゃダメだよ! 死んじゃうよ……!」


「わかってるニャー。でも、ニャーもちょっとは強くなってるんじゃないかと思うけどニャア」


「下がって!」


 ゴブリンを見つけたドングリが叫ぶ。

 ミケランジェロを背中に隠して、ドングリが飛び込む。


 杖を持ったゴブリンだ。

 見つけた瞬間に、ガウスの魔法を発動させていた。


 槍の届くところまで踏み込むと、くるりと回転する。

 タタンッと4回、槍を当てる。

 弾き飛ばす。


 ゴブリンは木に叩きつけられ、動かなくなった。


「ふう……ビックリしたね!」


「杖のゴブリンニャ。やっぱりいたのニャ」


「いたねー!」


「でもドングリの相手にはならないのニャ」


「えへへ!」


 ドングリはバッグから地図と宝石を取り出した。

 この宝石で地図を触ると、位置を記録できるそうだ。


 これも魔道具。

 森の調査のために渡されたものだ。

 変わったゴブリンがいたところを記録するように言われている。


「よし、記録できた! いろんな魔道具があるんだねー! リュックだけじゃないんだ!」


「そうニャア。でも、魔道具はむちゃくちゃお高いのニャア。この地図の魔道具なら……高すぎて誰も買えないのニャ。国で保管するものなのニャ」


「そんなにすごい魔道具なんだ……! これってどうやって作ってるのかな?」


「魔道具は魔法使いが作るのニャ」


「あっ、これも魔法使いの仕事なんだ! 魔法使いってすごいんだね!」


「そうニャア。ニャーも魔法が使えないかニャア」


 と話しながら歩いていると、またゴブリンが現れた。

 ブンブン棒を振り回している。

 やる気のあるゴブリンだ。


 槍を突き刺して、地図に記録する。


「ちょっと多くないかなあ? こんなものかなあ? ゴブリン、次々出てくるよね? ゴブリン以外の魔物は出ないし」


 ドングリは首を傾げた。


「たしかに多いニャア。こんなにゴブリンばっかりたくさんいる森じゃなかったはずニャア」


「やっぱり、何かが起きてるんだね……!」


 今日の分の調査は、これで終わりだ。

 ドングリは森の奥を見つめた。

 変わったものは見つからない。


「何が起きてるのか気になるけど……帰ろうか!」


「帰るニャ! いっぱい頑張ったから、いっぱい食べるニャー!」


「いや、食べるのは……うん! いっぱい食べよう! 今日だけね!」


 こうして、ドングリは今日もいっぱい食べるのだった。


***


「ということで、何にも問題なかったんだよ!」


「そうニャア。ゴブリンなんか、ドングリの相手にならないニャー!」


「ふむ、そうか。良かったな」


 焼き鳥を買ったドングリたちはニャンブルヘイムへ向かった。

 そしてクーンの部屋で、焼き鳥を食べながら今日の話を聞かせているところなのだった。


「まあな。心配はしていなかったがな」


 あきらかにホッとした様子のクーンが言った。

 のどもゴロゴロ鳴らしている。

 だがドングリとミケランジェロは焼き鳥に夢中だったので、それを指摘することはなかった。


「ニャーたちにかかればこんな仕事、楽勝ですニャー」


「ねー! すぐに終わらせるからね!」


「ふむ。まあ、ガウスよりも槍の威力はあるわけだからな。そうだな。ゴブリン程度、楽勝だな」


「そうだよ! あ、クーンさんも、焼き鳥食べる?」


「ふむ、ひとつもらおうか」


 クーンは焼き鳥を食べると、満足そうに目を細めるのだった。


***


「うーん、苦しいよお……」


 夜、息苦しさで、ドングリは目を覚ました。

 身体が重い。

 動かない。


「ホラーかな? 食べすぎたせいじゃないよね……!」


 布団の中で、パチリと目を開ける。

 部屋の中は真っ暗だった。

 だが、音が聞こえる。


「ゴロゴロゴロゴロ……」


「えっ、何? 何か音がするよ……?」


「ゴロゴロ……」


 ちょうどドングリの胸の上。

 ギラギラと光る眼が、ふたつ、並んでいた。


「ミケちゃん……?」


「ゴロゴロ……そうニャア」


 ミケランジェロが布団の上に乗って、ドングリを見下ろしているのだった。


「なんでこんなところにいるの……?」


「なぜかここが落ち着くのニャ。ニャーにもよくわからないのニャ。ゴロゴロ……これは猫の習性だから仕方ないのニャ。ゴロゴロ……」


「たしかに布団に乗ってくるのは猫の習性だけど、わたしは落ち着かないよ……! 重いし目が光ってるし……眠れないよ!」


「そんなこと言われても習性ですからニャア……ゴロゴロ……」


「もう!」


「よっこいしょ!」とドングリがミケランジェロを持ち上げる。


「ニャア? 何するニャア?」


「こうして、布団の中に入れて」


 ミケランジェロを布団に押し込む。


「よし、この中ならどう? 落ち着くでしょう? わたしもここにいてくれたほうが落ち着くよ!」


「ニャーは布団の上のほうが良かったけどニャア。ゴロゴロ……」


「ふふふ。ミケちゃん、ホカホカだね!」


「仕方ないから今日はここで寝るのニャ」


 こうして、ドングリはミケランジェロと添い寝をすることになったのだった。


(あれ? これはこれで気になって、落ち着かないね……!)


 結局なかなか眠れない。


(でもはやく寝て、明日も調査を頑張らないとね!)


 と思いながら、ドングリはいつまでも布団の中のミケランジェロを撫でまわすのだった。

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