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できるお姉さん登場! 魔法が使えないと困るみたい! これは? 手品でした!

「とりあえずは、大丈夫ね」


 ドングリのあとから出てきた女性が、クイッと眼鏡を上げながら言った。

 ふんわりウェーブのかかった髪。

 引き締まった表情。

 ばっちりメイクも決めて、いかにも「できる女!」という印象の女性だ。


「ドングリを診てくれたお医者さんニャー! ありがとうございますニャ。きれいなお姉さんなのニャ」


「ローザよ。ミケちゃんね? かわいいわね」


 ニコッと笑って、ローザはすばやくミケランジェロを抱きあげた。

 ぐるりと腕をまわして、逃がさないようにする。

 そうしてミケランジェロを拘束したまま、右手でのどを、左手でおしりを、サワサワと撫で始めたのだった。


「ドングリちゃん、一応安定しているみたいだけど、またいつ倒れるかわからないわ。あなたたちも気をつけてあげてね」


「そうなのニャ!? どうしてまた倒れるのニャ? あと、触りすぎなのニャ!」


「やはり魔力が原因なのか?」


「ええ、私も魔法は詳しくないから、断定はできないけど」


「わたしも魔法のこと、わかんない……。自分のことなのに……」


 ドングリの眉が八の字になる。


「力になれなくて、ごめんなさいね」


 ローザはため息をついて、ギュッとミケランジェロを抱きしめた。


「ニャアア……。ちょっと香水くさいニャ」


 ミケランジェロの頭をペチンと叩いて、ローザは話を続ける。


「ミケちゃんは、事情をまだ知らないみたいだから、私から説明するわね」


「お願いするニャ」


「ドングリちゃんは、たぶん魔法使い。魔法使いは体内で魔力を作ることができる。魔法を使わないと、それがどんどん溜まっていくの」


「そうなのニャー? 知らなかったニャ」


 魔法使いは珍しい存在だ。

 強力な力を持つ彼らの多くは貴族。

 そうでなければ、子供のうちに、国に保護されることになる。

 そして、一般市民と触れあう機会は少なくなる。


 だから、その情報は広がらない。

 ローザの話す内容も、ミケランジェロには初耳のものだった。


「そして魔力が溜まり過ぎると、『魔力酔い』と言って、ドングリちゃんみたいに、体調を崩してしまうの。魔力を使いすぎても同じ状況になるらしいけど。今回は、ゴブリンに魔法をぶつけられたせいで急に症状が悪化したんでしょうね」


「ドングリの魔力酔いはもう治ったのニャ?」


「落ち着いただけよ。このままだとしばらくすれば、また魔力酔いで倒れるわ」


「そしたら寝てれば治るニャア?」


「うーん……」


 ローザが困った顔をする。


「基本的にはそうだけど、状況によるわね。ほかの病気も一緒にかかって、亡くなった人もいるわ」


「ニャアン……。どうすればいいのニャー?」


「余計な魔力を使ってしまえばいいんだけど……」


 ドングリは首を振る。

 まだ記憶が戻っていないのだ。

 魔法の使い方など、当然わかるわけがない。


「わたし、魔法使いだってことも、知らなかった……! 知らなかったというか、覚えてなかったというか……!」


「じゃあどうすればいいのニャア……」


「魔法使いの知り合いがいればいいんだがな。魔法の使い方を教えてくれる」


 ローザがあごに指をあてて考える。


「知り合い、と言える人はいないわね」


「じゃあ探すニャ」


「簡単には見つからないし、見つかっても魔法の使い方を教えてもらえるかどうか……。それに、信用できない人に魔法使いだと知られると、ドングリちゃんの立場がどうなるかわからないわ」


「ふむ、たしかに。記憶喪失の魔法使いなんて、魔法使いの力を利用したいやつからしたら、絶好のカモだな」


 四人は顔を見合わせて「うーん」と唸ったが特に解決策は思いつかないのだった。


「ドングリちゃんの記憶喪失にも、何か事情があるかもしれないわね。魔法使いが記憶喪失になって倒れてるなんて、普通のことじゃないわよ」


「そうだな。一気に話がややこしくなった。事情がわからないうちは、ドングリのことはあまり知られないほうがいいかもしれん」


 ローザに抱かれていたミケランジェロが、腕の中から見上げる。


「ところで、それならローザ先生にはドングリのこと、知られても大丈夫なのニャア?」


「あらま、私のこと信用してないの? 失礼ねー! スリスリしちゃうぞ」


 そう言って、ローザはミケランジェロを持ち上げて、自分のほおをこすりつける。

 ミケランジェロは歯をむき出しにして、嫌そうな顔をした。


「ローザさんなら大丈夫だ。うちの会長の元飼い主だからな」


「そうなのニャ!?」


「ええ。毎日可愛がってあげてたら、触られるのがストレスだったみたいで、ハゲちゃって、家出しちゃったのよね」


「その家出中に設立したのがニャンブルヘイムだ」


「そんな逸話があったのニャ。でも家出したくなるのはちょっとわかるニャ」


「まあ、生意気な子ね! チュッチュッしちゃうぞ!」


「ンムニャアア……」


 その後もローザの気の済むまで、ミケランジェロはオモチャにされるのだった。


***


「んー、結局、わたしが魔法を使えればいいんだよね? どうにかして使えないかなあ」


 ニャンブルヘイムの5階。

 ドングリがミカンを食べながら言う。


「適当にいろいろやってみれば、勝手に使えるようになるものじゃないのかニャア?」


「そう簡単じゃないらしいぞ。魔法使いの力を持つ貴族には、魔法使いの子供が生まれることがある。素質のある子には、生まれてすぐ、魔法を教え始めるらしい。魔力酔い対策にな。教えるまでは使えないままだそうだ」


「習わないと魔法は使えないのニャア……。あれ? それならドングリは貴族なのかニャア?」


「そうかもな。とても貴族には見えないが……」


「えへへ。あっ、そうだ!」


 ドングリがミカンを手にとる。


「これをこうして……」


 ミカンに親指を突っ込む。

 そしてミケランジェロに向けて、手を広げる。


「じゃーん! ミカンが浮いてるでしょ!」


「ニャニャア! ミカンが浮いてるのニャア! ドングリが魔法を使ったのニャ! 魔法を使えるようになったのニャー!」


「いやまて、親指を突っ込んでるだろ。指がミカンに隠れて浮いてるように見えるだけだ。古典的な手品だ」


「嘘ニャ! 浮いてるのニャ! だって浮いてるのニャ!」


「ふふふ、実はこうしてました!」


 ドングリが、ミカンに突き刺した親指を見せる。


「ニャニャ! つまり……どういうことニャ?」


「なぜわからない……。いま説明しただろう……」


「ミカンのお尻のところに、ググっと親指を突き刺すの」


「そしたらニャーにも魔法が使えるニャ? 使ってみたいニャ!」


「いやまて、お前に親指はないだろ。そもそも魔法じゃないぞ……」


 ミケランジェロが真剣な顔で、ミカンを前足でぺちぺちと叩く。


「どうしたらいいのかわからないニャ……。どうしてミカンに刺さらないのニャ……」


「お前に親指はないからだ。お前にあるのは肉球だ」


「肉球じゃあできないのかニャ?」


「ちょっと難しいかな!」


「ニャー、ずるいのニャー! ニャーもやりたいのニャー! ミカンを浮かせたいのニャー!」


「えへへ!」


 こうして、魔法については進展のないまま、時間が過ぎていくのだった。

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