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旅人とリュート

掲載日:2021/03/19

あるところに、王様がいました。



白亜のお城も金銀財宝も、

たくさんの家来や兵隊たちも、

みんなみんな王様のもの。



絶世の美女も黄金のバラも、

望むものはなんでも持っていました。



ある日、王様は風のうわさを聞きました。


「この世のものとは思えないほど美しいリュートを奏でる旅人がいるらしい」


王様はさっそく旅人をお城に招きました。



やってきたのは、

ボロボロの服をまとったみすぼらしい青年でした。


持っているものといえばリュートひとつ。


王様も家臣や兵隊たちもうさんくさく思いました。


「とりあえず、何か一曲弾いてみなさい」



ところが、

いざ演奏が始まるとどうでしょう。


旅人の奏でる音色ひとつで、

城中のひとが聞き惚れてしまいます。


森の小鳥やリスまでがやってきて、

旅人はあっという間に囲まれてしまいました。



王様は、旅人の演奏にとても満足しました。


「この城にとどまれば、望むものはなんでも与えよう」



いいえ、と旅人は答えました。


私の望むものは王様には与えられません、と。



王様はとても腹を立てました。


この世のもので、

王様が手に入らないものは何もなかったからです。


「なんでもいいから、申してみよ」



旅人は望みました。


気ままに旅する時間の自由を。


森の動物たちと戯れる心のぬくもりを。


世界をどこまでも歩いていける健康な体を。


「‥‥大切なものは、このリュートひとつ。あとは何もいりません」



王様はだんだんうらやましくなってきました。



「この金銀財宝と引き換えに、おまえの若さを売ってくれ」


いいえ、と旅人は答えました。


「私の若さはあげられません」



「たくさんの家来や兵隊たちと引き換えに、動物たちと通いあう心を売ってくれ」


いいえ、と旅人は答えました。


「私の心はあげられません」



「絶世の美女や黄金のバラと引き換えに、おまえの健康な体を売ってくれ」


いいえ、と旅人は答えました。


「私の体はあげられません」



何も手に入らないことがわかると、

王様はがっかりして疲れたように言いました。


「それなら、最後にもう一度リュートを弾いておくれ」


旅人はこころよくうなずきました。



それはとても見事な演奏で、

王様も、家来や兵隊たちの心も、

みんなみんな奪われてしまいました。



☆☆



今日もどこかで、

旅人はリュートを奏でます。


王様や兵隊や家来たち、

たくさんのひとの心を乗せて。



何者にもとらわれることなく、

自由気ままに世界を歩いていきます。


音色を奏でるたび、

動物たちと心通わせながら。



持っているものは、リュートひとつ。


それだけで幸せと微笑みながら。



(了)

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編できてるー!(*´ω`*(*´ω`*(*´ω`*) というわけで拝読致しました! どれだけの地位や名誉や権力を得ても、手に入らないものがある。 自由も心も健康も。 「ママー! どう…
2021/03/24 14:21 (*´ω`*)かみや(*´ω`*)
[良い点] 文章が短めに切ってあって、読みやすくなってますねー。 起承転結もスッキリしていて、王様と旅人はこれでもかと言わんばかりに正反対の人物。 メッセージを伝える為の土台は良く出来ているかと。 […
[一言] 何だかホッコリと、心が温まるお話でしたが、 ちょっとだけ悲しいお話でした、 何でも持ってそうな王様が欲しい物を持ってなく、 リュートの青年は王様が欲しい物を持っていたってお話ですよね。 逆…
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