反則とバケモノ
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「ゴベァッ!?」
変な呻き声を漏らしながら、赤髪の頭がロナに踏み潰された。
どう考えても即死するはずの損傷。だが『自己再生』のギフトにより即座に再生していく。
おいおい、脳が破壊されても再生するのかよ!? どうやったら死ぬんだこの女!
「ふーん、頭も再生できるのか」
「ふ、ふふふっ……! だから、どれだけ攻撃しても無駄だって言ったでしょゴホェァアッ!!?」
再生した顔を得意げな笑い顔に歪めながら話す赤髪を、喋っている途中で再び踏み潰した。
「うん、再生するたびにマジカとスタミナが減ってるな。つまり、それらが尽きたら再生できずに死ぬってわけか。ナルホド」
「な、なにしやがんだてメェ アグホォぶッ!!?」
「なら再生できなくなるまで潰せばいい。このまま死に続けろ」
「アゴァッ!! ブヘェッ!! ブホァッ!?」
頭が再生するたびに、ロナの足が赤髪の頭を踏み潰す。
何度も何度も何度も執拗に念入りに容赦なく潰し、辺りに血肉と脳漿を撒き散らしていく。
え、えげつねえ……。
さっきまで絶望しか感じないほど圧倒的な力を振るっていた赤髪が、まるで赤子扱いだ。
……この黒髪は、本当にロナなのか?
もしかしたら、さっき頭に風穴を空けられた時点でロナは死んでしまっていて、ロナの言う『腕の人』とやらに乗っ取られてしまっているんじゃないのか……?
ステータスを覗いてみれば、なにか分かるだろうか。
ロナ
ランク■
状態:■■■■(逶エ謗・謫堺ス)
【スペック】
H(ヘルス) :■■■■/■■■■
M(マジカ) :■■■■/■■■■
S(スタミナ) :■■■■/■■■■
PHY(膂力) :■■■■
SPE(特殊能力):■■■■
FIT(適合率) :■■■■%
【ギフト】
摂食吸収Lv2 逶エ謗・謫堺スLv■ 膂力強化Lv5 火炎放射Lv3 磁力付与Lv2 索敵Lv2 速度強化Lv1 衝撃波Lv1 螺旋弾Lv1
な、なんだよコレ……。
ギフト欄以外の全てが黒塗りされていて、数値を読み取ることすらできねぇ。
なにか分かるどころか、余計に謎が深まるばかりだ。
……? 名前の上になにかルビが表示されているが、これは……?
「ち、調子に、乗ってんじゃねぇぇぇえええええっ!!!」
ステータスに目がいっているところに絶叫が響き渡り、思わず怯んだ。
幾度目かの頭部破壊の直前、潰される前に赤髪が吠えた。
口からレーザーを吐き、ロナに反撃しつつ体勢を整えようとしている。
「おおっと、危ない危ない」
「このクソがッ……! ……お前なんかに、コレを使うことになるとはね……」
ロナから離れた赤髪がそう呟くと、雰囲気が一変したのが分かった。
頭に血が上り怒り狂っていた先ほどまでとは違い、落ち着いて余裕のある態度をとっている。
「んん、なんか強キャラっぽいムーブしだしたね君」
「……もうお前は私の掌の上だ。さっさと死ね」
赤髪が再びロナに殴りかかる。
目にも留まらないスピードだが、今のロナなら問題なく避け――――
「ぶべらっ!」
なっ、モロに殴られた!?
さっきまで赤髪がどれだけ殴りかかろうとも掠りすらしなかったのに……!?
「ほらほらぁっ!! 避けられるもんなら避けてみろぉ!!」
「いった! あだっ!? あべし!!」
「あはっ! あははははっ!! 無様ね! こっちがちょっと真面目にやったら手も足も出ないじゃないの!!」
赤髪の拳が、蹴りが、次々とロナに命中していく。
速すぎてなにが起きてるのかまるで分からねぇが、また流れが赤髪のほうへ戻っちまったようだ。
くそ、このままじゃまたロナがやられちまう。
赤髪のステータスになにかヒントはねぇか……?
ゲブラー
ランク10
状態:空腹
【スペック】
H(ヘルス) :4036/6021
M(マジカ) :2318/5940
S(スタミナ) :5124/11305
PHY(膂力) :10412
SPE(特殊能力):11351
FIT(適合率) :100%
【ギフト】
摂食吸収Lv10 火炎操作Lv10 熱操作Lv10 レーザーLv10 飛行Lv10 自己再生Lv10 嗅覚強化Lv10
【セフィラ】
峻厳
『セフィラ』? なんだ、これは……?
ギフトの下に、さっきまで確認できなかった奇妙な項目が増えていた。
おそらくこの峻厳ってヤツの効果でロナに攻撃が当たるようになっているんだろうが、どんな効果なのか文字だけじゃ見当が付かねぇ。
もしも『攻撃を絶対命中させる』なんて反則的な能力だったりしたら、どうあがいても対応できねぇぞ!
「お、お姉さん、さっきから避けようとしてるのに、避けた先に攻撃が……!」
「! 見えるのか!?」
「速すぎてちょっとしか見えないけど、あの赤い人、まるでお姉さんがどんなふうに動くか分かってるように、攻撃の軌道を途中で修正してるように見えます……」
「どう動くか分かって、攻撃の軌道を修正……まさか『未来視』みてぇな予知能力だってのか?」
『未来視』のギフトはそんな都合のいい能力じゃねぇ。
あれだけの高速戦闘なんかにゃまず対応できねぇ。
暢気に未来を視ている間に軽く10回は殺される。
だが、もしも『最善の結果を得るため、即座に最適な行動をとることができる』能力だとしたら?
……そんなもん、もはや未来視の上位互換だ。
運命操作とかそういった類の、ある意味神の領分じゃねぇか。
そんなもん相手に、どう戦えってんだ―――
「! ちっ!」
「およ? どうしたのー?」
? ロナをタコ殴りにしていた赤髪が、急に飛び退いてロナから離れた。
顔を顰め、明らかにロナを警戒している。
……ってか、よく見たらロナ、あんだけ殴られてたのに痣一つねぇんだが……。
「ねえねえ、どうしたの? さっきまでノリノリでボコボコ殴りまくってたやん」
「……バケモンが。お前、さっき、なにを……っ!?」
赤髪が、なにかに弾かれたかのように身を反らした。
まるで、目に見えない『なにか』を避けたかのように。
「くっ!」
「ねえねえねえ、さっきから一人でなにやってんのー? ねえ?」
「うるさい! お前がさっきからっ……!!」
赤髪が声を荒げながら、身体を忙しなく動かしている。
飛び退いたり屈んだり、走り回ったりしてとにかく動き続けている。
「あ、あの人、さっきからなにやってるの?」
「分からねぇが、目に見えねぇなにかから逃げ回ってるように見えるんだが……」
「目に見えない、なにか……?」
「はい、どーん」
「うおぉぁっ!!」
ロナが指差した瞬間に赤髪が飛び退くと、さっきまで立っていた場所の地面が大きく抉れた。
あれは、ロナがやったのか?
そういえば、闘技場でもあのバカデブに向かって銃で撃つような仕草をしたかと思ったら、本当に銃弾が着弾したかのように地面に穴が開いていた。
アレも、例の文字化けギフトの能力なのか……?
「はい、ジャーンプ」
「くおぉっ!! ……! て、てめぇ、カマかけやがったな……!!」
必死の形相で一際大きく跳んだかと思ったら、怒りの表情でロナを睨みつけながら歯軋りしている。
……どうやら、攻撃したかと思ったら結局ブラフだった、らしい。目に見えないうえに速すぎてもう訳が分からん。
「なーるほど。どうやら君は『人の心を読む』能力を持ってるようだね。ギフトってやつとはまた違う能力なのかな?」
「っ……!!」
「いやー、どーりでさっきから避けたところに拳が飛んできたり、こっちが繰り出した『目に見えない攻撃』を避けられると思ったわー」
心を読む能力、だと。
なんか今サラッととんでもないこと言わなかったかコイツ。
「いや、実際厄介だわー。さっきから攻撃も回避も全部見切られてやんの。反則じゃね?」
「お前こそ、その訳の分からない能力はなんなのよ……!! 『念動力』のギフトを持っているわけでもないのに目に見えないなにかを操って攻撃してきたり、『自己再生』でも『治癒』でもない回復能力を使ったり! お前、明らかに変よ! このバケモノ!!」
「よく言われます。いやホント変とかバケモノとか日常茶飯事で言われまくってて割と泣きたい」
「なら、さっさと死ね!!」
赤髪がレーザーを両手の指から放ち、合計10本もの光線がロナを襲う。
普通ならこれで細切れだろうが、ロナが手を翳すとなぜかレーザーが屈折し、ロナを避けていった。
「レーザーってのは言ってしまえば『光』だから、鏡とか虫眼鏡みたいに光の通りかたを捻じ曲げれば軌道を変えることも一応できる。……ぶっつけ本番だったけど成功してよかったー……」
「そんなことまでできるの……!?」
「んんー、あと、あんまり人の心を覗き見るようなことはしないほうがいいよ。気持ち悪いこととか訳の分からないこととか考えられたら気が散るでしょ? ……ほら、こんなふうに」
「え……」
ヘラヘラと悪戯っぽいにやけ面を見せながら、自分の頭を指差すロナ。
それを呆気にとられたように見つめる赤髪の身体が、硬直し動かなくなった。
数秒ばかり固まったままの状態で立っていたかと思ったら、急に膝から崩れ落ちた。
「お、ブェぇっ……!! オエえェッッ……!!!」
地面に崩れ落ちたまま、赤髪が嘔吐した。
よく見ると、目と鼻から血が垂れている。
例の『知識を書き込む機械』で過剰な量の情報を短時間で書き込んで廃人化してしまった人間のように、脳に深刻なダメージを負っているようだ。
精神的な負荷が大きいためか『自己再生』も上手く機能していないようで、ただ嘔吐を繰り返しながら悶えている。
「ほーら言わんこっちゃない。じゃあ、そろそろトドメといきますか」
「ひ、ひぎ、ぃ……!! く、くる、な……! こない、で……!!」
充血しながらロナを見るその目には、明らかに怯えが浮かんでいた。
さながら肉食動物を目の前にした小動物のように、弱々しい印象を覚える。
……いったい、どんな思考を読み取ってしまったんだろうか。
お読みいただきありがとうございます。




