美筋女子の南さんは美しい
「南っていいよね」
それは如月の厳冬の放課後のことだった。
教室に居残っていたとき、急に江藤がそんなことを言い出した。
「陸上部のユニフォームで校庭を走ってる姿を見て思ったんだ。大臀筋が実にまろやかなラインを保っている。美しいのはあの大腿四頭筋だ。太からず、細からず、うっすらと滑らかに筋肉が乗っている。それに知ってたか? 腹筋がきゅっと引き締まっているだけじゃなくて、綺麗に割れているんだ。あの胸の谷間から鼠径部にかけての縦のライン。あれは溜まらないよ」
「お、お前……何、言ってんの?」
「何って南の話だよ」
「いや、南さんの話ってことはわかってる。でも、腹筋だとか大臀筋って……尻のことか?」
「そうさ。因みに、大腿四頭筋は平たく言えば太もものことだ」
江藤が真面目な顔でそう答える。
「おま……女子の何見てんの? 顔とか胸とか見ないの?」
「南は美人だし、胸も程よいボリュームがあるじゃないか」
「確かに南さんはクラスで一番の美人だ。胸も推定Cカッ……いやいやいや。そう言う話じゃないだろ!」
タジタジとなる俺に江藤はしらっと言った。
「要はさ。女の子は筋肉女子。美筋女子の南さんは最高だっていうことさ」
「……お前の恋が実ることを祈ってるよ」
「ありがとう。北村ならわかってくれると思っていた」
江藤はうっすらと笑った。
それはどこか得体の知れない乾いた笑いだった。
俺は江藤の性癖を見る思いがし、こんな奴に目をつけられた南さんのことをつくづくと気の毒に思った。
しかし。
ヴァレンタインデーに南さんが江藤にチョコレートを渡して、
「あなたの逞しい大胸筋が好きなの……」
と、顔を赤らめて告白するのは、それから五日後のことである……。
本作は、長岡更紗さま主催「肉の日マッスルフェスティバル企画」第二弾・参加作品でした。
尚、作中イラストは、茂木多弥さまに描いて頂きました。
長岡さま、茂木さま、そしてお読み頂いた方、どうもありがとうございました!