暁の戯れ 【解答編】
暁の戯れ本編の文章に、()を使って実況解説していきます。
重大なネタバレとなりますので、無印をまだ読んでいないという方は急いで読みに戻って下さい。
なるべく詳しく解説してますが、意味わからんと思ったら感想などで質問してください。
それでは解答編をお楽しみ下さい。
(主人公には幼い頃に死んだ妹がいました。)
ぼーっとしながら散歩をしていると、ふと一軒のお店が気になった。
(仕事に疲れた主人公は、考える気力も無くなるほどに打ちのめされていました。)
その看板には「暁」とお洒落なロゴで書かれていて、白い壁と焦げ茶色の屋根が落ち着いた印象を感じさせる。
(店の名前が暁なのは、ラストシーンのミスリードとなっています。暁の中に。という場面で店の中と思ってしまった人もいるのではないでしょうか。)
24時間営業とは珍しい。
まだ仕事は残っているが、一息つきながらでも問題はないだろう。
(現実逃避です。それ程に仕事がきついのです。)
俺は、こじんまりとはしているが何故か目を引く喫茶店に入ってみることにした。
店の中は幾つかの間接照明によって、明る過ぎず暗過ぎず、目に優しい空気感だ。穏やかに流れるBGMがそのレトロな雰囲気に合っている。
ソファーやテーブルが幾つか並んでいるが、俺以外に他の客はいないようだ。
(偶然、客は誰一人としていませんでした。)
居心地の良さそうな真ん中の席に座り、鞄の中からノートパソコンだけを取り出すと、メニューを確認することなくオススメのコーヒーを注文した。
(真面目な主人公は一応は仕事をしようと思いますが、初見の店でメニューを見ない程には精神にきています。ノートパソコンは仕事をする為の物と覚えておきましょう。そして主人公はノートパソコンしか取り出していません。他には一体何が入っているのでしょうか。)
暫くすると、暖かそうな湯気を立てて、コーヒーが運ばれてくる。香しい香りが鼻腔をくすぐるようだ。
(ホットを頼んだようです。)
期待を胸に、そっと一口飲むと、途端に口の中一杯に、良質なコーヒー特有の香りと奥深い苦みが広がっていく。
嗚呼、おい......し.......い..............
何だか急に頭がクラクラして、うまく意識が保てなくなった。
(意識が保てなくなった。は刷り込みです。読者の目を逸らすための誘導です。)
急な睡魔に襲われ、次第に微睡の中へと落ちていく。
(仕事疲れからか、急激な睡魔に襲われます。コーヒーを飲んだというのに眠ってしまう事からも、相当な疲れであると分かります。実際は消化吸収に15分程かかりますが。)
驚く顔の店員さんの姿が見えるが、何を言っているのか、何をやっているのか、さっぱりわからなかった。
(この時点で主人公は意識がはっきりとしていないので、本当に店員さんが驚いていたのかはわかりません。信頼できない情報です。)
意識が戻ると、店の端のソファーに横になっていた。
(意識は戻りましたが、目が覚めたとは書いていません。叙述トリックですね。ここがミスリードになっています。ここはもう主人公の夢の中です。この先、主人公の夢というのが前提になってきます。)
体を起こすと毛布が肩からずり落ちてきたので、誰かが親切をしてくれたのだろう。
(誰かに親切にしてもらいたいという願望の現れです。主人公は孤独である為に、そういった願望があるのでしょう。)
店の窓から外を見ると、あたりはすっかり暗くなっていて全く外の様子が分からない。
吸い込まれるような漆黒に、原始的な恐怖を感じる。
(主人公から見た外の世界に対する不安を現しています。全く先が分からなくなってしまっています。恐怖も感じています。危ない精神状態と言えるでしょう。)
ホールに人がいる気配はない。
(主人公は孤独です。夢の中には誰も人がいません。それは主人公が他人との絆を持っていないという事です。)
一言店員さんに礼を言おうと思ったが、いないのならしょうがないだろう。
取り敢えず外の様子が気になる為、店の扉に手をかける。
だがどれだけ力を入れようとも、その重厚な扉はピクリとも動かない。
(ピクリとも動かないのは現実的に考えたらおかしいです。普通ならピクリとは動くはずです。この世界は夢の世界です。自分の手では夢からは覚めようとしても覚められないのです。)
まさか、閉じ込められてしまったのか?
(皆さんもたまに閉じ込められるような夢を見る事がありますよね。)
このままここを出られない?
何だこの現象は!他の人はどう思っているんだ!?
(さっきまでいた場所は喫茶店なので、主人公はここがまだ喫茶店の中だと思っています。)
ホールに誰も人がいないことを確認して、厨房の方を覗き込む。物音一つしないのに電気はついたままだし、人がいたような形跡もある。
(夢に落ちる前は喫茶店だったので、人の痕跡があって当然だと主人公は無意識に思っています。そして自分のノートパソコンが無くなっていることに気が付いていません。このノートパソコンは仕事を意味します。つまり仕事のない夢の世界と言うことです。主人公は潜在意識の中で、仕事を見たくもない存在だと思っています。)
事務室や、更衣室のような部屋があるはずだ。
奥に進むと、案の定「Staff only」と書かれた札が掛けられた扉を見つけたので中に入った。
扉を閉め中を確認すると、そこは事務室の様な場所だった。デスクの上には1台のノートパソコン。
(このノートパソコンは、主人公のノートパソコンの伏線に対するヒントです。)
壁には2メートル位ある金属製の棚と、貴重品を入れる用であろう小さなロッカーが幾つか並んでいて、掃除用具が壁に立て掛けてある。
ノートパソコンを見てスマホを持っていたことを思い出した。ポケットから取り出してみたが電源は入らなかった。
(夢は記憶からできています。夢の中で新しい情報を得ることはできません。)
そうだ、あのノートパソコンが使えるかもしれない。
(何回もノートパソコンも連呼しています。露骨なヒントですね。)
うわっっっ!!
ノートパソコンを開くと、画面いっぱいに血だらけの肉の画像が表示された。
(これはホラー演出であると同時に、主人公の精神状態の現れです。相当やばいですね。インフルエンザの時に見る悪夢のようなものです。)
くそ!脅かしやがって!
(自分で自分にイラついてます。上手く生きられない自分の事が嫌いなのではないでしょうか。)
まぁ喫茶店と言えども、食品も扱っているようだし、肉を調べていても不思議ではない。
(なんでやねん!お前メニュー見てへんやん!と皆さんもツッコんだ事でしょう。主人公の現実逃避からくる、こじ付け的な理論です。)
念の為に触ってみたが、画面は一切変わらなかった。
(主人公の精神状態は絶望的にヤバいという事です。主人公の手ではどうすることも出来ません。)
一向に誰かいるような気配も感じられない。このままじゃ本当にここから出られないかもしれない。
(社畜である主人公は脱出の道を探しています。仕事をしなくちゃいけないと思っているわけです。)
棚には何かないかと思い、藁にも縋る思いで様々なファイルやプリントを漁っていく。
その中で一つだけ明らかに場違いなものを見つけた。
手に取ってみると、それは黒い表紙に「Daiary」とだけ書かれた誰かの日記だった。
(日記はその特性として、過去を書き記したものです。では主人公の夢の中で出てくる日記とは一体誰の過去の記録なのでしょうか。)
関係ないと思い棚に戻そうとしたが、何故か目を離せなくなるような魔力のようなものを感じた。
(この日記は主人公の過去の記憶から出来たものです。ここがとても重要です!これが前提として分からないとチンプンカンプンになります。忘れている自分の過去なので魔力を感じるように引き付けられます。)
これを読んでしまったら、何か後戻りできなくなるんじゃないか。不思議とそんな心配が湧いてきたが、その魔力に抗えず、俺は日記を読むことにした。
(何かあるんじゃないか?というホラー演出であると同時に、主人公が忘れていた過去を思い出す伏線になります。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《〇月×日》
日記って初めてだから何を書けばいいのか分かんない。
けど、パパに頼んで買ってもらったからにはちゃんと書かないとね。
学校で起こったこととか楽しかったことを書いていくようにする。
(初めて日記を書く子供の可愛らしい文章です。主人公の幼少期の記憶であることが分かります。この文章が女の子っぽい目線で書かれているので、ミスリードとなっています。)
《〇月△日》
今日は友達の優ちゃんと遊びに行った。
お父さんは1人で大丈夫か?って心配してたけど、優ちゃんと行くから大丈夫だって言ったら、「そうか」って言って部屋に戻っちゃった。
お父さんは優ちゃんが苦手なのかな?
(優ちゃんは主人公の妹です。そしてこれは主人公の記憶です。お父さんとはどこか心の壁がありました。のちに分かりますが、優ちゃんは病弱なので、基本的には部屋に引きこもっています。優ちゃんと遊びに行った。というのは主人公の願望から歪んだ記憶となります。)
《〇月□日》
今日も放課後に優ちゃんと遊んだ。
今日は近所の公園だったから、他の子もいて大人数で鬼ごっこした。
優ちゃんが途中で転んじゃったから、私と優ちゃんはちょっと早めに帰ることにした。
優ちゃん家まで送らなくて大丈夫だったかな?
明日学校で聞いてみよう。
(優ちゃんは実在する妹ですが、一緒に遊びたかったという願望から、イマジナリーフレンドとなっています。転んで怪我したのは主人公です。優ちゃんではありません。でも彼を家まで送ってくれる人は居なかったようです。)
《〇月〇日》
優ちゃんは大丈夫だった。良かった。
擦りむいた所にウサギの絆創膏を貼ってて可愛かった。
優ちゃんは怪我が治るまではあんまり外で遊ばないようにするんだって。
だから私も中でできる遊びをするんだ。
お父さんに何か教えてもらおう。
(優ちゃんは病弱で、あまり外では遊ばない子でした。その為鬼ごっこなどできるはずもありません。主人公は優ちゃんとは外で遊びたかったが、病弱な優ちゃんと外で遊ぶことは出来ませんでした。そんな不満が記憶を歪めているのでしょう。)
《×月〇日》
1週間位書くのを忘れてた。
3日位前にお父さんが優ちゃんと遊ぶのは止めなさいって言ってきたから、それから一回も口をきいてない。
なんでお父さんがそんな意地悪を言うのかが分かんない。
私が怒るのが久しぶりだったからか、お父さんは凄く困ったような顔をしてた。
(優ちゃんの病状が悪化しました。家の中でさえ遊べなくなりました。その為お父さんは主人公を止めています。主人公は不貞腐れて怒っています。)
《×月×日》
優ちゃんが学校で虐められているみたい。
なんで私は気づいてあげられなかったんだろう。
よく無視されてるし、わざと廊下で避けずに肩をぶつけられてたりもしてたみたい。
クラスの子が皆優ちゃんを虐めるから、先生にも言った。
そしたら「優ちゃんのことは先生に任せなさい」って言ってくれた。
先生に任せてみようと思う。
(優ちゃんは病気が悪化したので、学校には行けていません。虐められているのは主人公です。現実逃避から記憶を捻じ曲げてしまっています。)
《△月×日》
1ヶ月経った。
優ちゃんへの虐めは止まらなかった。
優ちゃんはお兄ちゃんが死んじゃったと言って引きこもってしまった。
先生は任せろって言ってくれたのに!!
それと、×月△日からはお父さんの知り合いっだっていう神崎さんがよく家に来るようになった。
神崎さんは私が優ちゃんと遊んだ話をすると楽しそうに聞いてくれる優しいお姉さんで、カウンセラー?って仕事をしてるんだって。
(主人公への虐めは1っか月たっても止まりませんでした。先生は役には立たなかったようです。優ちゃんは病状がさらに悪化して死んでしまいました。虐めを受け続け、挙句妹まで失った主人公は、心が壊れて引きこもるようになりました。神崎さんは、そんな主人公の為のカウンセラーです。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日記はそこで終わっていた。
(主人公は心を閉ざして塞ぎ込んだ時期が続いたのでしょう。今はカウンセラーの神崎さんのお陰で仕事に就くことは出来たようです。)
何で子供の日記がこんなところにあったんだろう。
(ここは主人公の頭の中では喫茶店の事務所です。子供の日記があるのはとても不自然です。)
そう思いながらも日記をもとの位置に戻す。
さて、次はどうしようかと後ろを振り向くと、閉めたはずのドアが半開きになっていた。
(ホラー演出であると同時に、妹の存在を思い出したことによって、知らず知らずのうちに心のドアが開いていたという事です。)
何時奴が来るか分からない。
(この後現れる優ちゃんを、奴だと思わせる為のミスリードです!奴の正体は、朝です。夢の終わりを指します。)
ドアをじっと見つめたままどうすればいいか思案する。
そして辺りを見渡すと、右側の壁にも扉がある事に気づいた。
ノートパソコンや棚に気を取られていて気が付かなかった。確かに保護色になっていて分かりづらい。
(またノートパソコンと書いてありますね。非常に露骨なヒントです。何かあると皆さん気づいたことでしょう。)
位置的に厨房に繋がる扉だろう。扉を開け、すぐさま厨房に向かい、包丁を手に取る。
(主人公の行動は意味不明に思えますが、主人公は朝への恐怖で震えています。主人公は仕事を残したまま眠っています。仕事をしない奴はクビになってしまうでしょう。朝の訪れとは即ち、社会的な死を意味するのです。)
急いで事務所に戻ると扉の鍵を閉め、壁に背を預けながら溜息をつく。
(主人公はソファーに沈んで眠っているので、自然と背中をつけているのでしょう。)
暫くそうして辺りを警戒していると、棚に知らない紙が挟まっている事に気が付いた。
どうやらこれも誰かの日記の一部のようだ。
(ここでカウンセラーの神崎さんの日記が明らかになりますが、これも主人公の記憶であり記録です。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《観察4日目》
山岡 葵ちゃんのカウンセリングをしていると幾つかおかしな点に気付いた。
まず、優ちゃんと遊んだ記憶や、優ちゃんのプロフィールはしっかり覚えているのに、優ちゃんと何時何処で出会ったのかは全く覚えていないこと。
次に、優ちゃんが他の子と話している描写や話を一切しないこと。
最後に、優ちゃんと何をしたってのはあっても、優ちゃんがどんな話をしたのかは私が聞いてから考えるような素振りを見せること。
少し調べてみようかしら。
(ここで初見読者は、日記の書き手が山岡葵ちゃんだと思います。ミスリードです。優ちゃんとは家の中でしか遊ぶことは出来なかったので、外で遊んでいた優ちゃんは主人公のイマジナリーフレンドです。)
《観察5日目》
葵ちゃんの学校に行き、クラスの子や学校の先生に話を聞いてきた。
やはり事前に伺っていた通り、優ちゃんは存在しないらしい。
葵ちゃんは元々人見知りが激しく、クラスでも浮いていたそうだ。
葵ちゃんが友達を欲しいと思った結果、イマジナリーフレンドに近い妄想の友達を見るようになったのではないかと思う。
これを葵ちゃんにどう伝えるのが正解なのかしら......
(優ちゃんは実在した主人公の妹です。では山岡葵ちゃんは誰なのかというと、優ちゃんのイマジナリーフレンドです。病気がちで遊ぶことが出来なかった優ちゃんは、葵ちゃんというイマジナリーフレンドを作りました。主人公は妹に葵ちゃんというイマジナリーフレンドがいた事は知っていたはずです。記憶に蓋をしていたのでしょう。)
《観察9日目》
最近葵ちゃんの様子がおかしい。
どうやら、優ちゃんが皆に無視されていると思っているようだ。
さて、どうしたものかしら......
(優ちゃんの死が近いことと、主人公の様子がおかしくなっていったことが明らかとなります。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ふと、何の前触れもなく扉が開く音が聞こえた。
(ホラー演出です。誰もいない空間なので、普通なら扉が開く前に何かしらの音が聞こえるはずです。)
来る!奴が来る!
(朝が近いことを主人公は潜在意識で感じ取ります。)
包丁を構えて、扉のほうを注視する。
(意識の覚醒への潜在意識的な拒絶の現れですね。包丁は覚醒への恐怖から握っています。つまりは現実世界の潜在意識的な拒絶。自殺願望のようなものです。)
ゆっくりとぬいぐるみを抱えた女の子が入ってきた。
(初見読者は、奴の正体がこの女の子だと思う事でしょう。)
「君は葵ちゃんかな?」
俺はもしかしたらと思い女の子にそう尋ねた。
(初見読者は、葵ちゃんキターーーーーーと思うでしょう。)
「違うよ、私は優ちゃん。葵ちゃんはこのぬいぐるみだよ」
(主人公はこの時点では優ちゃんが妹だとは気づいていません。記憶の蓋は綻びましたが、まだ完全に思い出すことは出来ていません。)
優ちゃんはそう言って静かに首を振ると、手に持った古びたぬいぐるみを見せた。
(初見読者は、あれ?日記の書き手は葵ちゃんだったんじゃないの?優ちゃんはイマジナリーフレンドじゃないの?となります。)
「そ、そうか。間違えてすまなかった。それで、優ちゃんはこんなところで何をしていたの?」
彼女を怖がらせないように手に持った包丁を机の上に置きながら、俺はそう尋ねた。
(優ちゃんが妹とはまだ気づいてはいませんが、それでも妹に対して包丁は向けれません。初見読者は、あれ?優ちゃんが奴の正体じゃないの?包丁置いちゃっていいの?となる隙を生じぬ三段構えです。)
「迎えに来たのよ。優ちゃんはここに住んでるの」
(優ちゃんは死んだはずの主人公の妹です。主人公を迎えに来たとは、死後の世界へ一緒に行こうという意味です。)
何か、嫌な予感がする。
(そりゃ色んな意味で嫌な予感がするはずです。)
「1人で......んん、2人でかい?親は一緒じゃないのかな?さっきから店員さんの姿も見えないんだけど」
(2人とは、一見ぬいぐるみの葵ちゃんを指しているようですが、主人公の事という解釈も出来ます。)
「そうだよ。ずっとそう。優ちゃん達は二人で暮らしてるの」
(主人公は孤独です。優ちゃんがそんな主人公の心の中にずっといてくれたのだとしたら、優ちゃん達は二人で暮らしていたとも言えます。逆もまた然りです。)
「寂しくはないの?」
「寂しくなんかないよ。だって今日から1人家族が増えるから。ね、お兄ちゃん」
(年上の人に対するお兄ちゃんではなく、本当の血が繋がったお兄ちゃんです。)
「ごめんね。残念だけど、お兄ちゃんはもう帰らないといけないんだ」
(社畜主人公は、意識の表層では帰ろうとしています。)
「どうして?こっちおいでよ」
(古いぬいぐるみを手放せない程、本当は寂しい優ちゃんは主人公を誘います。)
「いや、仕事だってまだ終わってないし」
(主人公には仕事が残っています。)
「辛くない?こっちおいでよ」
(仕事は辛いです。生きていくのも辛くなる程に。)
「誰もいないけど、家には帰らなきゃいけないし」
(家に帰っても、主人公は独りです。父親は登場しません。どうなってしまったのでしょうか。)
「ここが家になるんだよ?」
(家族がいる場所こそが本当の家と言えるでしょう。)
「いや、でも......」
(それでも、主人公は帰ろうとします。)
「お兄ちゃんは、優ちゃんの夢からいなくなるんだね」
(ここが最大のミスリードです!初見読者は、これが優ちゃんの夢の世界だと思いますが、優ちゃんの夢とは家族で暮らすこと。お兄ちゃんと遊ぶこと。まだ幼い子供なので言葉が足りていませんが、このまま夢から覚めてしまえば、いなくなることと同義です。)
「ごめん。奴が来るからここにはいられない」
(朝がやってきました。間もなく目を覚まします。)
「いいよ、いいよ、もういいよ。好きなところに行ったらいいよ」
(優ちゃんは一言も、現実世界に戻れとは言っていません。好きなところとは優ちゃんがいるところを指します。間接的に自分の所においでと言っています。)
「そうするよ。さようなら」
(主人公は、そうするよと言ってしまいました。)
「うん。またね」
(なので優ちゃんは再会を確信し、またねと言っています。)
彼女はそう言うと、笑顔で手を振った。ぬいぐるみを持っていないほうの手を。
(ぬいぐるみを持っていないほうの手は、お兄ちゃんと繋ぐための手でした。)
はっっ!ここは!?
目が覚めると、喫茶店のソファーに沈んでいた。
(ここでやっと目が覚めます。夢の世界からの脱出です。ですが意識はまだ微睡の中。半覚醒と言ったところです。)
窓の外を見ると暁の空が広がっていて、今から町が動き始めるのだと分かった。
(暁の空とは、夜明け前の薄明るくなってきた時間帯のことです。別名、彼は誰時とも言います。薄明るく、彼が誰かも分からなくなる時間帯です。この時間は、この世ならざる者との境界線が曖昧になります。怪異譚などでもよく出てきますよね。)
机の上に置かれたノートパソコンは開いたまま充電が無くなり、電源が切れている。
(今から仕事をすることは不可能となってしまいました。)
ホットで頼んだコーヒーもすっかり冷えてしまったようだ。
(かなり時間も経ってしまっているようです。)
一体何時間たってしまったのだろう。
仕事はもちろん終わっていないが、こうなってしまっては仕方がない。
(これもミスリード!これは楽観的な考えによる仕方がないではなく、諦めからくる仕方がないなのです。仕事をクビになってしまうので、もう主人公に未練はありません。)
ふと、手に何かを持っているような感触があった。
何だろう?
俺の手には、包丁が握られていた。
(包丁は鞄の中にずっと入っていました。日常生活に辟易としていた主人公は、何時でも死ねるようにと包丁を持ち歩いていたのです。夢とリンクするようにその手に握りしめていました。)
「こっちおいでよ」
(これは優ちゃんの声です。)
どこからともなくそんな声が聞こえる。
(主人公は自殺志願者です。この世に未練がありません。しかも意識は半覚醒状態で、微睡の中を彷徨っています。更には時間帯までも完璧です。見事にこの世ならざる者と出会う条件を満たしています。)
「ねぇ、こっちおいでよ」
(優ちゃんはなおのこと主人公を誘います。愛する兄が辛い人生から解放されて欲しいのです。)
なんで俺は、包丁を持っているのだろう?
(微睡の中、無意識的に握りしめた包丁に疑問を抱きます。)
「早く、こっちおいでよ」
(早く会いたい。一緒に遊びたいという優ちゃんの心の現れです。)
そうか、そういうことだったのか。
(ここで主人公は全てを悟ります。蓋をしていた過去の記憶を思い出したのでしょう。夢が定着したともいえます。)
「こっちおいでよ」
(優ちゃんはとっても優しいのです。名は体を表す。両親が付けてくれた名前通りに、優しく主人公を誘います。)
今行くよ。
(主人公はとうとう決意を固めます。この体を捨て妹に会いに行くことに決めました。)
「こっちおいでよ」
(優ちゃんは主人公が道に迷ってしまわないようにと呼びかけ続けます。)
暁の中に。
(主人公は包丁で自らを刺し、自殺しました。何故か喫茶店暁に起こった自殺事件「暁の戯れ」としてニュースになります。ですがこれは悲しい事ではありません。孤独に苦しんだ主人公は暁の世界へと旅立つのです。兄妹仲良く暮らすことができるのです。)
「一緒に遊ぼ、お兄ちゃん」
(二人は何時までも暁の中で戯れるのです。)
(一見、主人公が自殺する事件に見えるように描かれているけど、それはフェイクです。
主人公は孤独で、この物語では主人公が死ぬことによって悲しむ人は描かれません。
逆に主人公は、死んだと思っていた妹に、死後の世界では会うことが出来る。生前果たせなかった願望が叶ったのです。
それは、死後の世界が存在するという希望であり、主人公と妹の魂の救済でもある。
碌に遊ぶことも出来ずに死んでしまった体の弱い妹と、体を捨てたことによって、一緒に遊んであげることが出来るようになりました。
主人公も妹も、体は失いましたが、これでどちらも心が救済されました。
そして二人は何時までも幸せに遊んで暮らしたのです。)
さて、無事に全ての謎を解くことが出来ていましたか?
予想もつかないハッピーエンドでしたね。
全て解けたという方は感動に打ち震えて高評価が止まらなくなっている事でしょう。
そうでない方は、残念でしたね。
解答編を踏まえた上でもう一度じっくりと読み直すことをお勧めします。
☆最後までお読み頂きありがとうございます☆
評価、ブックマーク、レビュー、感想等頂ければ、デロリアンがタイムトラベルに成功した時のドクのように喜び、駆け回ります。
他にも投稿してるので是非見ていって下さい!