(7)父親の思いと騎士の思い
「それじゃ……本当に、家畜の品種改良じゃないですか」
『おお。うまいこと言いよるわ』
「だって」
国を統治するために、重要な仕事や地位をまかせるために、王が我が子をたくさんもうけたい、と考えるのは、まだ人として扱っていると思う。
人格が必要とされている感覚が、まだある。
もしも、それが、政略結婚に使うために……とかだったら? 確かにちょっと意味は変わる。けれども、王の子としての立場は保証されているのだし、必要としているのは、あくまで人だ。
だが。
魔力の強化をめざして人間同士掛け合わせるなんて、家畜の扱いだ。
あるいは、作物だ。
『転生者らから、儂は、『遺伝子』なるものの存在を教えられた』
「人間や、生物が、親から子へ受け継ぐ身体の設計図、ですよね」
『魔力を強めるために王が隠し子をたくさんつくり、ひそかに魔力の強い王族や突然変異者とめあわせ、こどもを産ませる……というのは、この『遺伝子』の考えとつきあわせれば、間違いではないように見えるのう。
魔力量はうまれつきである程度は決まる。そこは間違いない。
じゃが』
バルバロスは生前のように、口ひげをしごく。
『ひとつ、厳然として残酷な事実がある。
人間の才能の核心は、そしてそれを引き出せる要素は、遺伝せんということじゃ。
……お主も、心当たりはあろう?』
言われ、ベルセルカはうなずいた。
同じ両親から産まれ育てられたはずのきょうだいは、魔法で自分の足元にも及ばない。
とはいえ、ベルセルカだってレイナートと出会わなければ、こんなに強くなりはしなかっただろう。
それに、イヅルのように、王族や貴族の血を引いているわけではないのに、上級魔法や難易度の高い中級魔法を使いこなせる人間も、カバルス軍にはいる。
かれは、鍛練、訓練を開発し、魔力量も伸ばし続けている。
『本人の意思、努力、センス、人との出会い、幸運。才能とされるものを分解すれば因子は数えきれぬほどある。
儂の息子が“最強”なのは何も儂が偉いのではない。母親のおかげでもない。あやつ自身が偉く、また幸運なのじゃ』
「ええ、そのとおりです」ベルセルカはうなずく。
『話を戻すが、儂には娘をあてがおうとする一方で、王はしきりに儂からレイナートを奪おうとした。
儂はそれも疑っとる。
王が隠し子をつくるにも限界があるゆえ、あやつを種馬にしようとしたのではないかとな。
それらの話を、儂はレイナートにもしておる』
「でもそれなら。
レイナートさまがそのような隠し子がいないか探されるのではないか、と思うのですが……まさか」
めあわせる、すなわち結婚させるという言葉で気づくべきであった。
つまり、隠し子は、王佐公爵家と結婚させることができる家のなかに、堂々と隠されていた……?
「……つまり、先々代の王と先代の王は、隠し子を、公爵家や侯爵家の夫人たちに産ませていた、ということでしょうか?」
『まぁ、そうじゃのう』
「ということは、大半が王と一緒に殺されてしまったということに……?」
それはわからんが、と髭をいじりながらバルバロスは言う。
『心臓が魔核なるものに変化するとして、努力や魔法の技術など関係ない単純な魔力量で大小が変わるのであれば。
それを知ったユリウス王子が、『狩り場』として王佐公と侯爵家が一堂に会する場所を考えてもおかしくあるまい?』
「…………全方位的に嫌な話ですね」
『国王ともなれば、周りには嫌な話ばかりじゃろうて。
儂は、レイナートはカバルスに戻ってくれば良いと考えておるがな。
この際、オクタヴィア王女殿下が王になればなにも問題ないじゃろうに』
「でも、いまこの国にはレイナートさまが必要です。そのお話を聞いて、ますます強く思いました」
『それは、親として嬉しい言葉じゃが……レイナートに必要なものは、ずっとそばにおってくれるんじゃろうな?』
「は?」
『まぁええ』
そういうなり、急にバルバロスが薄くなる。
姿がどんどん消えていく。
「え!? 急に消えないでくださいよ!?」
『姿をかたちづくるのは、長くはもたん。
儂はまた眠る』
「そんな!!
レイナートさまを呼んできたかったのに」
『呼ぶな阿呆。
そして儂が出たことも言うな』
「ど、どうしてですか!?
会いたいでしょう??」
『死んだ父親が息子に干渉するものではない。
お主が阿呆づらさらしておったんで、話しかけただけじゃ。あととっととお主ら……』
そこで限界がきたように、バルバロスの姿も声も、消えていった。
「ご心配なく!!」
思わず、聴こえるかもわからないのにベルセルカは叫んで返していた。
「騎士として!
ずっと、そばにいますから!!
レイナートさまの、そばに、ずっと!!」
たとえ、自分の本当の素性が、どうだったとしても。
ベルセルカは誰にも秘密の、てのひらにうっすら浮かんだ紋様を握りしめた。
◇ ◇ ◇
非常に美味だった夕食後、レイナートとベルセルカは、エクエス、執事、ファランクスに、神樹の前まで見送られた。
なごりおしい思いで、レイナートの故郷をあとにしたが、一瞬で、目の前は見慣れた王城の庭へと変わっていた。
「魔核は人間にもできる。その件を、明日オクタヴィア王女に報告と相談だ。
今日は部屋まで送る」
「え、逆では。
私がお送りしますよ騎士的に」
「こんな時間にひとりで帰したら、おまえのところの侍女に殺される」
「陛下、信用ないですねぇ」
「お互いにな」
クスクスと笑うベルセルカと、なんとも言えない微妙な顔をし、結局つられて笑うレイナート。
こんな時間が続けばと思う。だけど2人は知っている。明日からはまた別の闘いがまっていることを。
【第5話 了】




