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(4)国王陛下とは露知らず

     ***



「こ、こ、こ、国王陛下とは露知らず!」

「ご、御無礼の数々、まことに、まことに……!!!」

「ひ、ひらに、ひらにご容赦を……! お慈悲を……!」



 レイナートは、一行をまるごと、兵舎に転移させた。

 襲ってきた面々は、30歳ほどから40代後半の年頃と思われる、5人の男と2人の女だった。

 彼らから、具体的に『人さらい』の話を聞くことにしたのである。


 本当なら、あまり国王がやってきていると大っぴらにしたくなかった。

 だが急を要する上、身分を明かさないと言うことを聞かなさそうだったので、やむなく連れてきたうえで身分をあかしたのだ。

 結果、全員真っ青な顔で平伏し、床に頭を擦りつけて、謝りに謝り倒している。


 暗い(だいだい)色の髪の、屈強な40歳前後の大男が、いらだたしげに口を開く。



「見慣れねぇ烙印持ちだからって、いきなり人さらい扱いかよ。しかも、国王陛下を?」


「ひいっ」

「も、申し開きもございませんと…!!」



 大男、カバルス軍の剣闘騎兵隊長けんとうきへいたいちょうグラディオ・ディアマンテは、平伏(へいふく)する7人に、ハァと大きなため息をついて、もう1人の隊長に目を向ける。



「人さらいは人さらいで調査をするとして……この面々は国家争乱未遂罪こっかそうらんみすいざい斬首(ざんしゅ)妥当(だとう)では?

 他の村人からも話は聞けるでしょうし、生かす悪影響の方が大きいと、あたしは思います」



 緑の髪のエルフの美女、魔弓騎兵隊長まきゅうきへいたいちょうサギタリア・アーチャー、通称タリアはそう国王に進言し、また村人が頭を床に擦りつける。


 椅子に座ったそれぞれの隊長のうしろには、分隊長(ぶんたいちょう)らがついている。

 つまり、7人の男女は、精強なカバルス軍に囲まれて(おび)えきっていた。

 ………自分たちが襲った人間が国王であることを知らされた彼らの心中は、いかばかりであろうか。


 ちなみに、当の国王陛下は、不機嫌をあらわに、椅子の上で足を組む。


 ベルセルカにはその理由に察しがついた。

 誘拐と人身売買は、この世で一番レイナートが憎み嫌っているものだ。



(――――レイナートさまの不機嫌も仕方ありませんね。

 村人の自業自得(じごうじとく)です)



 椅子にかけたレイナートの横に寄り添いながら、ベルセルカも彼らを見下ろしていた。



「まずは事情を話していただけますか?」



 地獄のように低い声で、だが、少しでも気持ちを静めようとしているのか、レイナートがあえて敬語で村人たちに問う。



「で、では……お話しいたします!」



 村人たちのリーダーとおぼしき男が、平伏したまま、口をひらく。



「わ、私どもは、ラットゥスと、西隣のアペルとの境界線上にある山……ラタペル山の(ふもと)の村に住む者にございます。

 私たちの村と隣の村で、この3か月で、若い娘とこどもが15人も、さらわれているのでございます」


「15人も」思わず、ベルセルカが復唱した。



 そうして彼らは、説明を重ねていく。

 数日に1人、こどもや若い娘が消えていく。

 近くの村、山のなかと、一生懸命探したが消息がつかめない。犯人もわからない、心当たりもない、と。

 警戒を続けているが、さらわれた者たちの行方はいまもって不明、と。


「私たち、みな、我が子が心配で心配で……」

「いったい、どんな目に遭っているかと思うと」

「心が、つぶれそうにございます」



「へー。だから、旅人を闇雲(やみくも)に襲ってんのか?

 ああ、烙印持ちを探して?」


「グラッド」低い声でレイナートが剣闘騎兵隊長を制する。



「娼館は?」タリアが口を挟むと、彼らは怪訝そうな顔をする。


 はて、とベルセルカは思う。タリアが続ける。



「若い娘やこどもがさらわれるなら、人身売買、それも売春関係の可能性が高いでしょう?

 あなたたち、娼館は、探したの?」


「い、いえ、その……」

「こ、この近くに、娼館なんて…!!」



 彼らの顔色が、みるみる悪くなってきた。



(考えてもみなかったのですか?

 本気で?)



 同じことを考えたらしいタリアと顔を見合わせたベルセルカは、一応救いのつもりで言葉を継いだ。



「そ、そうですよね?

 話を聞くなら、娼館よりも前に、人買い商人ですよね」


「!!」


「あなた方も、お知り合いの奴隷商がいらっしゃいますよね?

 そちらにお嬢さまやお子さまが売られていないか、もう聞かれました?」



 誰かが、ひっ、と、のどが絞まったような声を上げる。

 ん? 何を驚いているのか?

 ラットゥスでは、奴隷の売買は合法だろうに。



「ど、奴隷商の知り合いなど……」


「先日、北方の国境での戦闘のあとに、俺たちはあなた方の村にも行きました」



 レイナートが口を挟んだ。



「転生者の烙印が押された奴隷がいましたが、彼らは奴隷商から購入したのではないのですか?」


「は…はい、でも、でも!!」

「うちの子は、転生者でもなんでもない、()()()こどもなんです!」

()()()いたいけな子どもを、奴隷や娼館に売ったりなんて…!!」



 彼らは切々と訴えた。

 ……よりによって、転生者の母親から生まれた王に向かって。



「そ、そうですよ!! うちの娘だって誓って転生者なんかじゃありません!!」

「うちのだって、()()()、優しい子なんだ!」

「そんな子を勝手にさらって売り飛ばすなんて、人の所業じゃねえ……」


「…………………あ。あの、みなさん?」



 ベルセルカは目眩(めまい)がした。



(自分が奴隷を買っていながら、そんなこと、本気で思っているんですか?)



 本気で思っているのだろう。

 だから、首巻きを外し、烙印をさらしている国王に向けて、それを訴えて有効だと思っているのだ。



「『普通』である自分の日常は脅かされまい、『普通じゃない』奴らは脅かされても仕方ない、なんて、甘めぇよ。どこまでも甘めぇ。

 そんな境目なんてこの世にはねぇんだよ」


「そうね、いつ『普通じゃない』ほうに自分が放り込まれるかわからないのが真理。

 川向こうの連中が焼かれているのを笑って見ていたら、次の日には自分たちが焼かれるのが、現実よ」



 二人の隊長がさとしたが、それは村人たちにというよりも、いまにも村人につかみかかりたいのをこらえ拳を握りしめている、元奴隷の兵たちに言っているようにも聞こえた。



 ―――ベルセルカは、レイナートのほうにちらりと目をやった。

 首筋の烙印は、誰の目にもさらされている。



 村人たちの目の前にあるのは、転生者の血を引く人間が王になった、という厳然たる事実。

 それに直面してさえ、目の前の王に合わせた言い方ひとつできないのだ。

 もしもここにいるのが『ナメられたら殺す』この国の倫理観に沿って育った王だったら、面子を汚したという理由で斬られていてもおかしくなかったのに。


 心配している、嘆き悲しんでいる、子を案じていると言う。

 たぶん、本当にそうなのだろう。

 だけど、やっていることは、子を救うどころか、自分の身も守れていない。




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