(1)国王、65年分の拒絶を食らう
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征魔大王国レグヌム。
大陸の南に位置する豊かなこの国は、つい先日、国王と王族男子が皆殺しにあった。
そして王位についたのが、ただひとり生き残った王族男子、カバルス公爵レイナート・バシレウス18歳。
魔法は王国史上最強とも言われるレイナートだが、戦争に明け暮れ、自領に手一杯でこの国のことをほとんど知らない。
そこで彼は思いついた。
時間があいたら、あちこちの領を回り、実際に見て知ろう。
また、そこで、得意な魔法を使って困っている人を助けたりして、王としての力をつけよう、と。
いかにも若い青い思いつき。
その第1回、タウルス訪問は、いかにも穏当なモンスター討伐と悪党集団の退治に終わった。
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で、その地方行脚第2回はどこになったかというと。
「――――だれが貴様らなど、この城に入れるか!!!」
うなり声を上げて無数の死が降ってくる。
石造りの城のうえからの、嵐のような矢の雨。
「いや、これは……」
レイナートとベルセルカは、楯に身を隠しながら、正直、困っていた。
他に連れてきた十数名の兵も、なすすべがなく、動けない。
城壁の上で矢を浴びせてくるのは、人間ではなく、なんとゴーレムの兵たちだ。
人間の身の丈の倍もあろうかという、土人形たちが、疲れを知らず矢を射続けてくるのだ。
それを指揮しながら、
「クソガキが、ゴミが!! 俗物が!!
死ね、死ね、死ね、王家など、焼き尽くされて滅びてしまえ!!!」
あらんかぎりの罵声をこちらに投げつける老人を見上げ、二人は嘆息した。
尖った耳、突き出た鼻。
65歳だというが、絵物語で見る、数百歳の妖魔を想起させるような容姿の小柄な老人だ。
エルフならカバルス軍にもいるのだが、年齢不詳ながら若く見える彼女とはまるで違う。
その顔に、この世を焼き尽くさんばかりの怒りを浮かべている。
今回、二人が訪れたのは、王国の北辺、ラットゥス。
王佐公第2位、ラットゥス公爵フラーテル・セネクスが治めていた地である。
セネクス家は先日の惨劇で、当主・夫人・子息・令嬢全滅の憂き目を見た。
つまり後継者はいない。
しかも、領主代行すらいない。
領主が決まるまで臨時に国王が領主をかねるという、おかしなことになっている。
そんな土地の領民に話を訊いてみると、やはり最大の不安は、『次の領主』がどうなるか、なのだという。
そこで、セネクス家に仕える者たちに、縁者がいないか?を詳しく問い合わせてみた。
すると、家令(使用人の最上位)から良い情報を得た。
なんとセネクス家にはひとり、隠し子がいたのだという。
先代当主が、なんと異種族の女性に生ませた子で、65年間王家からは秘匿され、州都からも離れた、国境ぎりぎりの城に、ずっと押し込められていたのだと。
そういうわけで、レイナートたちは、その人物のもとに、会いにきた。
……それが、目の前で王家を呪う65歳の老人である。
「65年もワシのことを放置しておきながら、王家の者と、今さら話すことなどない!!」
おっしゃるとおり、まったくもってごもっともとしか言いようがない。
「仕方ない、いったん引き上げるぞ、ベルセルカ!
―――<総員転移>!」
ふりそそぐ矢の雨の中、レイナートたち一行は、城の前から姿を消した
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―――転移先。
レイナートが引き連れた20人弱の一行は、カバルス軍の陣所に、瞬間移動した。
カバルスは、レイナートが領主を務めていた王国の南にある地であり、その軍は、王国のなかの正規軍としては最強を誇る。
先日ノールトから奪還した領土は、元々ラットゥス公爵領だった。
戦後の治安維持のため、現在カバルス軍の一部がラットゥスに駐留している。
突貫工事で建てられた簡易兵舎。
その前で、皆が、土の地面に転がる。
はあああ、と思わず、レイナートとベルセルカの口からため息が漏れた。
「まったく、何も話を聞いてくれませんでしたね。。。」
「まぁ、王家は存在を関知していなかったとはいえ、彼からすれば怒りもするだろうな」
2人が話していると、50歳ほどの長身の実直そうな男が、息を切らしてレイナートたちに駆け寄ってきた。
セネクス家の家令を務めていた人物だ。
首尾が気になり、陣の中で待機していたのだ。
レイナートが立ち上がる前に、服が汚れるのもかまわず、地面の上にひざまずく。
「国王陛下、そのご様子では、やはり……」
「大激怒のうえに矢の雨だ」
「……そうでしたか。
ラットゥスのために、国王陛下みずから足をお運びくださいましたのに、本当に申し訳ございません。
主が存命の間に、わたくしどもがもっと…」
「貴方の協力には深く感謝している。
俺たちに気をつかわないでくれ」
「は、はい……」
家令が立ち上がり、深々と一礼した。
レイナートはその場で、転移魔法で椅子を取り寄せる。
負傷した兵もいる。
傷の手当てに治癒魔法をかけるつもりで皆に声をかけようとした、そのとき。
「……おかえりなさいませ、陛下」
長い手足の、ひどく長身の“女”が現れて、レイナートの目の前にひざまずいた。
歳のころは25、6歳。
肌は小麦色からやや褐色寄り。
背丈はレイナートを上回り、きりりとした面差しが、中性的な美しさを醸し出す。
長いまつげ、のびた背筋。衣服をぐっと突き上げる胸。特徴的な青い髪は短い。
特筆すべきは、その首筋。
レイナートと同じ、転生者につけられる烙印が押されていた。
「あの、あちらの女性は?」
こっそり家令が、ベルセルカに尋ねる。
「ああ、あれは、カバルス軍の総長、イヅル・トマホークです」
「軍の、総長?
そう、なのです、か?」
家令がどこか戸惑っているのに、ベルセルカは吹き出した。
それはイヅルの服装のせいだろう。
やや不思議な服装である。
黒い袖無しのシャツの肩口は妙に大きめに作られて、布を巻いて固定を図っているらしい胸の膨らみが、横からほぼ見えるほどだ。
下は、白く、妙にゆったりと余裕があるズボンだった。
そのズボンには上部両サイドに大きな切れ込みが入っている。
長い足の、小麦色のふとももや臀部が、足を曲げるほど見えてしまう。
女のスカートといえば足首まであるのが普通、そもそも女の従軍もズボンをはくのも『異端である』としばしば国教会がかみついてくるこの国ではありえない格好だ。
防備を固めるべき戦場においては、なおさら、無防備過ぎるように見える。
長い長い足の先には防具つきのブーツ。
長い長い腕は、肘の半ばから手の甲にまた防具。
胸には革の胸あて。
防備といえばその程度だ。
「大丈夫です。
ああ見えてカバルス軍ではレイナートさまの次に強いので。
あと、あの格好にも意味があるので、ご心配なく!」
「は、はぁ……そうなのです、か?」
一方。
「イヅル。こちらの体制は」
レイナートに問われ、イヅルが答える。
「先日の戦争で奪還した4つの村は、日常生活に徐々に戻りつつあります。
とはいえ、兵として駆り出された男手が死んだ家もございます。
それらは村ごとに数をまとめて助けを申し出るようにと。
加えて、奪還した領地の新たな境界に、取り急ぎ柵を設けております」
「問題ないな。ありがとう」
「ところで陛下。
昨日何時間お眠りになられましたか?」
いきなりイヅルが話を変える。
レイナートの目が若干泳いだ。
「……7、時間?」
「そのお顔色は、5時間前後でしょうか。
ベルセルカ様、陛下の魔力残量は?」
「え、えーと……」
「正確にお願いいたします」
「4割ぐらい……。
でも、この前のノールト戦の時にくらべれば、いっぱいあるほうですよ!」
と、レイナートとイヅルの間に入り込むように、ベルセルカが顔を突っ込んだ。
はーーーーっ、とイヅルがため息をつく。
「なるほど、先日はこれより酷く……。
それで、ユリウス王子との戦闘のさなかに、魔力切れを起こされたと」
「…………………」
イヅルは、兵たちに鋭い目をむける。
「おまえたち、全員治癒魔法はいけるな?」
王に治療してもらう気満々だった兵たちは、「は、はい!」と良い声で返事する。
「よく言った。
いまからおれは陛下と“男同士”の話がある。
おまえたち、いますぐ下がれ」
ああ、これは完全にお説教がくるやつ、と、レイナート、ベルセルカともに覚悟した。
イヅル・トマホーク。
異世界人の転生者。
前世は男で、武芸の指導者だったというが、何の因果か、今世は女の体に産まれてしまった。
レイナートが赤ん坊の頃からの教育係である。
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