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(1)国王、65年分の拒絶を食らう

     ***



 征魔大王国レグヌム。


 大陸の南に位置する豊かなこの国は、つい先日、国王と王族男子が皆殺しにあった。


 そして王位についたのが、ただひとり生き残った王族男子、カバルス公爵レイナート・バシレウス18歳。


 魔法は王国史上最強とも言われるレイナートだが、戦争に明け暮れ、自領に手一杯でこの国のことをほとんど知らない。

 そこで彼は思いついた。

 時間があいたら、あちこちの領を回り、実際に見て知ろう。

 また、そこで、得意な魔法を使って困っている人を助けたりして、王としての力をつけよう、と。


 いかにも若い青い思いつき。

 その第1回、タウルス訪問は、いかにも穏当なモンスター討伐と悪党集団の退治に終わった。



     ***



 で、その地方行脚(ちほうあんぎゃ)第2回はどこになったかというと。



「――――だれが貴様らなど、この城に入れるか!!!」



 うなり声を上げて無数の死が降ってくる。

 石造りの城のうえからの、(あらし)のような矢の雨。



「いや、これは……」



 レイナートとベルセルカは、楯に身を隠しながら、正直、困っていた。

 他に連れてきた十数名の兵も、なすすべがなく、動けない。


 城壁の上で矢を浴びせてくるのは、人間ではなく、なんとゴーレムの兵たちだ。

 人間の身の丈の倍もあろうかという、土人形たちが、疲れを知らず矢を射続けてくるのだ。



 それを指揮しながら、


「クソガキが、ゴミが!! 俗物が!!

 死ね、死ね、死ね、王家など、焼き尽くされて滅びてしまえ!!!」


あらんかぎりの罵声をこちらに投げつける老人を見上げ、二人は嘆息した。



 (とが)った耳、突き出た鼻。

 65歳だというが、絵物語で見る、数百歳の妖魔(ようま)を想起させるような容姿の小柄な老人だ。

 エルフならカバルス軍にもいるのだが、年齢不詳ながら若く見える彼女とはまるで違う。

 その顔に、この世を焼き尽くさんばかりの怒りを浮かべている。


 

 今回、二人が訪れたのは、王国の北辺、ラットゥス。

 王佐公第2位、ラットゥス公爵フラーテル・セネクスが治めていた地である。

 セネクス家は先日の惨劇で、当主・夫人・子息・令嬢全滅の()き目を見た。

 つまり後継者はいない。


 しかも、領主代行すらいない。

 領主が決まるまで臨時に国王(レイナート)が領主をかねるという、おかしなことになっている。



 そんな土地の領民に話を訊いてみると、やはり最大の不安は、『次の領主』がどうなるか、なのだという。


 そこで、セネクス家に仕える者たちに、縁者(えんじゃ)がいないか?を詳しく問い合わせてみた。

 すると、家令(使用人の最上位)から良い情報を得た。

 なんとセネクス家にはひとり、隠し子がいたのだという。


 先代当主が、なんと異種族の女性に生ませた子で、65年間王家からは秘匿(ひとく)され、州都からも離れた、国境ぎりぎりの城に、ずっと押し込められていたのだと。


 そういうわけで、レイナートたちは、その人物のもとに、会いにきた。

 ……それが、目の前で王家を呪う65歳の老人である。




「65年もワシのことを放置しておきながら、王家の者と、今さら話すことなどない!!」



 おっしゃるとおり、まったくもってごもっともとしか言いようがない。



「仕方ない、いったん引き上げるぞ、ベルセルカ!

 ―――<総員(オムニス)転移(テレポルタティオ)>!」



 ふりそそぐ矢の雨の中、レイナートたち一行は、城の前から姿を消した



     ***



 ―――転移先。


 レイナートが引き連れた20人弱の一行は、カバルス軍の陣所に、瞬間移動した。


 カバルスは、レイナートが領主を務めていた王国の南にある地であり、その軍は、王国のなかの正規軍としては最強を誇る。


 先日ノールトから奪還した領土は、元々ラットゥス公爵領だった。

 戦後の治安維持のため、現在カバルス軍の一部がラットゥスに駐留している。


 突貫工事で建てられた簡易兵舎(かんいへいしゃ)

 その前で、皆が、土の地面に転がる。


 はあああ、と思わず、レイナートとベルセルカの口からため息が漏れた。



「まったく、何も話を聞いてくれませんでしたね。。。」


「まぁ、王家は存在を関知していなかったとはいえ、彼からすれば怒りもするだろうな」



 2人が話していると、50歳ほどの長身の実直そうな男が、息を切らしてレイナートたちに駆け寄ってきた。

 セネクス家の家令を務めていた人物だ。

 首尾が気になり、陣の中で待機していたのだ。

 レイナートが立ち上がる前に、服が汚れるのもかまわず、地面の上にひざまずく。



「国王陛下、そのご様子では、やはり……」


「大激怒のうえに矢の雨だ」


「……そうでしたか。

 ラットゥスのために、国王陛下みずから足をお運びくださいましたのに、本当に申し訳ございません。

 (あるじ)が存命の間に、わたくしどもがもっと…」


「貴方の協力には深く感謝している。

 俺たちに気をつかわないでくれ」


「は、はい……」



 家令が立ち上がり、深々と一礼した。


 レイナートはその場で、転移魔法で椅子を取り寄せる。

 負傷した兵もいる。

 傷の手当てに治癒魔法をかけるつもりで皆に声をかけようとした、そのとき。



「……おかえりなさいませ、陛下」



 長い手足の、ひどく長身の“女”が現れて、レイナートの目の前にひざまずいた。


 歳のころは25、6歳。

 肌は小麦色からやや褐色寄り。

 背丈(せたけ)はレイナートを上回り、きりりとした面差(おもざ)しが、中性的な美しさを(かも)し出す。

 長いまつげ、のびた背筋(せすじ)。衣服をぐっと突き上げる胸。特徴的な青い髪は短い。

 特筆すべきは、その首筋。

 レイナートと同じ、転生者につけられる烙印が押されていた。



「あの、あちらの女性は?」



 こっそり家令が、ベルセルカに尋ねる。



「ああ、あれは、カバルス軍の総長、イヅル・トマホークです」


「軍の、総長?

 そう、なのです、か?」



 家令がどこか戸惑っているのに、ベルセルカは吹き出した。


 それはイヅルの服装のせいだろう。

 やや不思議な服装である。

 黒い袖無しのシャツの肩口は妙に大きめに作られて、布を巻いて固定を図っているらしい胸の膨らみが、横からほぼ見えるほどだ。


 下は、白く、妙にゆったりと余裕があるズボンだった。

 そのズボンには上部両サイドに大きな切れ込みが入っている。

 長い足の、小麦色のふとももや臀部が、足を曲げるほど見えてしまう。


 女のスカートといえば足首まであるのが普通、そもそも女の従軍もズボンをはくのも『異端である』としばしば国教会がかみついてくるこの国ではありえない格好だ。

 防備を固めるべき戦場においては、なおさら、無防備過ぎるように見える。


 長い長い足の先には防具つきのブーツ。

 長い長い腕は、肘の半ばから手の甲にまた防具。

 胸には革の胸あて。

 防備といえばその程度だ。



「大丈夫です。

 ああ見えてカバルス軍ではレイナートさまの次に強いので。

 あと、あの格好にも意味があるので、ご心配なく!」


「は、はぁ……そうなのです、か?」



 一方。



「イヅル。こちらの体制は」



 レイナートに問われ、イヅルが答える。



「先日の戦争で奪還した4つの村は、日常生活に徐々に戻りつつあります。

 とはいえ、兵として駆り出された男手が死んだ家もございます。

 それらは村ごとに数をまとめて助けを申し出るようにと。

 加えて、奪還した領地の新たな境界に、取り急ぎ(さく)を設けております」


「問題ないな。ありがとう」


「ところで陛下。

 昨日何時間お眠りになられましたか?」



 いきなりイヅルが話を変える。

 レイナートの目が若干(じゃっかん)泳いだ。



「……7、時間?」


「そのお顔色は、5時間前後でしょうか。

 ベルセルカ様、陛下の魔力残量は?」


「え、えーと……」


「正確にお願いいたします」


「4割ぐらい……。

 でも、この前のノールト戦の時にくらべれば、いっぱいあるほうですよ!」


 と、レイナートとイヅルの間に入り込むように、ベルセルカが顔を突っ込んだ。


 はーーーーっ、とイヅルがため息をつく。



「なるほど、先日はこれより酷く……。

 それで、ユリウス王子との戦闘のさなかに、魔力切れを起こされたと」


「…………………」



 イヅルは、兵たちに鋭い目をむける。


「おまえたち、全員治癒魔法はいけるな?」


 王に治療してもらう気満々だった兵たちは、「は、はい!」と良い声で返事する。



「よく言った。

 いまから()()は陛下と“()()()”の話がある。

 おまえたち、いますぐ下がれ」



 ああ、これは完全にお説教がくるやつ、と、レイナート、ベルセルカともに覚悟した。



 イヅル・トマホーク。


 異世界人の転生者。

 前世は男で、武芸の指導者だったというが、何の因果(いんが)か、今世(こんぜ)は女の体に産まれてしまった。

 レイナートが赤ん坊の頃からの教育係である。



     ***

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