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(6)かくなるうえは、陛下の首を




 ベルセルカの頭をつかんだ、と思った、その骨だらけの大きな手は一瞬で断じられて、床に落ちてばらばらと砕けて消えた。



「レイナートさま!?」


「妙な魔法だな」


「すみませんありがとうございます!」



 突然転移してベルセルカの前に現れた主が、その剣で骸骨の腕を両断したのだ。


 そのままレイナートが横に剣を一閃。

 骸骨の首が()ねられた。

 ベルセルカの倍も速い太刀筋で、魔力を剣から注ぎ込みながら斬った。


(なるほど、実体のない体を魔力で強制的に物質化させて切り裂いたんですね)とようやくベルセルカは悟った。



「魔法? この餓者髑髏(ガシャ・スケルトン)を魔法だと?」



 フン、と鼻で笑ったアステリオスは、新たに現れた男にも動じていない。

 首だけになった骸骨が、ガバリと口を開け、レイナートを食いちぎろうと迫る。

 レイナートは左にベルセルカは右に、避ける。


 壁を蹴って跳んだレイナートは、自分を追ってこちらに顔を向けた骸骨に向けて、今度は真正面からタテに剣を振り下ろした。


 脳天唐竹割(のうてんからたけわり)にぶった切られた巨大頭蓋骨は、砂嵐のようにぐしゃぐしゃに砕けて、消えた。

 血のりもまったくついていない剣だが、そこにまとわせた魔力を振るって飛ばし、さやに剣をおさめながらレイナートが言う。



「『召喚魔法』だろう?」


「…………!」


「悪魔やモンスターと取引をした者が使うと聞いている。

 普通は複雑な魔法陣を描き、いけにえを捧げ、詠唱のもとに呼び出すものだが、短い詠唱程度で呼び出すとは。

 その杖、魔道具か?

 それに貴女(あなた)も、かなりの魔力の持ち主だ」



 返事をしないまま、アステリオスはレイナートをじっと観察している。

 白金の鎧(プラチナメイル)を着ているので、彼の首筋の烙印は隠れている。

 しかし、彼の体のある一点に気づいて、アステリオスは目を見開いた。



「紫。バシレウス家が受け継ぐ、禁色(きんじき)の瞳―――――。

 これはこれは国王陛下。

 このような辺境の粗末な家にご訪問いただき、おそれおおくも光栄至極に存じますわ」



 そして急に、しゃべりかたが変わった。

 しかし、露骨に媚びているわけではない。



「………俺の即位を知っているのか?」

「もちろんにございます、陛下」



 一転。優雅なしぐさでお辞儀をするアステリオス。

 しかし、その眼の敵意は消えていない。

 むしろ先ほど以上に……



「タウルスの民の訴えで、屋敷を調査に来た。

 借金返済をたてに不当な要求があると」


「あら、こんな狭い屋敷をお調べに? なにか出てきますかしら?」



 アステリオスの目には、明確な“憎悪”が見える。

 思わず主君の前に出ようとするベルセルカを、レイナートは目で制止してきた。



「書斎の書類を確認させてもらった。

 貴女が借金を買い取ったタウルス領の小規模牧畜農家115家。

 今日までにそのうち23家、245頭の牛を借金のかたと称して奪った。

 さらに、牛を奪われたら生活維持ができなくなるもとの持ち主の一家を、飼育のためにほぼ食料のみの報酬で雇用。実質的な奴隷として」



 あ、人だけじゃなく牛だけじゃなく、両方を自分のモノにするのが目的だったのか、とベルセルカは内心納得した。



「ええ、そうですわね?

 でも、借金の利息の明確な上限は我が国では決められておりませんし、タウルス法では、奴隷の個人所有は合法でございましょう?

 国法にもタウルス法にも反していない以上、わたくしに何かおっしゃるのは、国王陛下と言えど、無理筋でございますわね?」


「利息の上限金額の項目はないが、

『利息の額は、借り手貸し手の合意のもと定める』

とレグヌム金融法第1条にある。

 同じく第2条『領主の許可なく、借金の譲渡をしてはならない』、

 第3条は、『領主の許可なく、借金の回収に暴行脅迫の手段を用いてはならない』」



 アステリオスは眉をひそめた。

 レイナートが、国法全文丸暗記しているとは思っていなかったらしい。



「あら……それは不勉強にして存じ上げませんでしたわ」


「知らずに金貸しをしていたと?」


「何せ、田舎ものゆえ。金に目がくらみ、知らぬうちに、法を犯してしまっていたのでございますね。では領主様にご相談申し上げて、そのご判断とご命令に従いますわ。国王陛下」



 殊勝な表情をつくり、深々と頭を下げてみせるアステリオス。しかし。



「そうか。ならば俺も立ち会う。

 領主代行の管理不足に指導不行き届き、過失を追求せねばならん」



 レイナートが続けて言った言葉に、一転、彼女は、悪鬼のような形相でにらむ。



「どうした? 領主代行のことは貴女には関係ないだろう?」


「……しらじらしい」



 舌打ちをしたアステリオス。



「―――――野郎ども、くせ者だ、今すぐ広間に下りてきな!!!!」



 ドレスをひるがえし、彼女は天井に向けて大声で怒鳴った。

 間もなく、新たな子分たちが……筋骨隆々の荒くれ者たちが、四方八方から姿を現してきた。様々な刃を抜いた、その数、数十人。


 アステリオスが杖を振る。


 出現した小さな刃が走り、レイナートの鎧の首の防御を切り裂いた。

 首筋にわずかに血がにじみ、烙印があらわにされる。

 その烙印を、アステリオスが指さした。



「奴隷の分際で、おそれおおくも国王陛下の名を(かた)()れ者だよ。

 斬れ……斬り捨てちまえ!!!」



     ***



「ベルセルカ、大丈夫かしら……レイナートもいるのかしら?」



 迷宮のような屋敷の中で右往左往していたカルネは、なぜか突然、気が付いたら屋敷の外にいた。


 はじめは、何が自分の身に起きたのかわからず、おたおたした。

 だが、見覚えのある馬たちが屋敷の外で待っているのをみつけたので、彼らのそばで待つことにした。大きくて強そうで頼れそうで、横にいると安心感がある。

 猫のナルキッソスはいないけど。


 屋敷のまわりには高い塀があって、その塀は(周りに住んでいる人は困るんじゃないかしら……)というぐらいずっと続いている。



「本当に大きいお屋敷……どれだけ人がいるのか……本当に、大丈夫なのかしら―――」



 そう、おろおろと待つカルネだったが。

 いきなり、耳の奥が破裂しそうな音にカルネは襲われ、一瞬遅れて、塀の中から煙が立ち上る。



(―――中で、いったい何が起きてるの!?)



     ***

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